「久しぶりだね、新一兄さん」
 
 懐かしい声音に誘われるように顔を上げれば、その懐かしさを証明するかのように、降谷零の姿がそこにはあった。だが、皺ひとつない学ランに身を包み、笑みを浮かべるその容姿は、工藤新一が知る降谷の姿とは違う。
 西日の差し込む社会科準備室。その光を受けて降谷の柔らかい髪が明るく光る。生まれつき色素の薄い髪は、新一の記憶にある頃より長く、女生徒の注目を集める端整な顔立ちも、以前よりずっと大人びていて、視線も近い。三年前には自分の肩より下だった眼差しが、今では自分とほぼ変わらぬ位置にあり、親戚のように成長を喜ぶ気持ちと、男としての悔しさとが同時に沸き上がり、新一は思わず浮かぶ苦笑を噛み殺した。まるですべての感情を殺すように表情を無にすると、穏やかな笑みを浮かべながら近づいてくる降谷を静かに視返す。
「その呼び方は止めなさい、降谷」
「ひどいな。前みたいに零くんって呼んでくれよ」
「……今日は部活も禁止のはずです。早く帰りなさい」
「そんな言い方はないだろ? せっかく、工藤センセイに質問があってきたのに」
 窓際を背に読書をしていたせいで、降谷と距離を取るための逃げ道がない。無意識に逃げたいと思っている自分に気づき、新一は手に持っていた本を閉じた。指先の震えを止めるように強く本を握ると、降谷は新一を見つめてにっこりと微笑んだまま、唯一の出入り口であるドアを後ろ手に閉めた。
「勉強熱心な生徒に対して、そんな言い方はないんじゃない?」
「……降谷の選択教科は日本史のはずです。世界史担当の僕に用があるとは思えませんが?」
「へえ。俺の選択教科を知ってるなんて、嬉しいな」
「っ……」
 失言に動揺すると、ガチャンと音が響いた。それがドアの鍵が閉まった音だと気づくと、思わず息を呑む。
「もしかして、怯えてる?」
「なぜ僕が降谷に対して怯える必要がある?」
 ドクドクと騒ぐ鼓動を抑え込み、できるだけ冷静に言葉を紡ぐ。だが、そんな新一を追い詰めるかのように、降谷は一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。
「そうか。怯えているなんて俺の勘違いだよね。この三年間、一切連絡が取れなかったのも、別に俺から逃げていたわけじゃないよね?」
「…………」
「始業式なんて面倒なだけだと思っていたけど、こんな風に新一兄さんに再会できるなんて、運がよかったな」
(俺は会いたくなかったぜ……)
 教員免許を取り、大学卒業と同時に世界史に教師になったのは三年前。そして今回、異動で赴任することになった先が、一生行きたくないと願っていた降谷が通う高校だ。
 降谷とは家が近所で、彼が中学一年生の時に家庭教師としてアルバイトに行っていた。生意気だが、物覚えがよく素直で、自分のことを兄の様に慕ってくれている降谷を、新一も弟のように可愛がっていた。だが、そんな関係は三年前に狂ってしまった。
 降谷が中学三年生になり、新一の赴任先が決まって引っ越すことになった、三年前のあの時も、春だった。
 じりじりと近づいてくる降谷から逃げる場所もなく奥歯を噛み締めると、三歩ほどの距離をあけて降谷が立ち止まる。
「新一兄さんは三年前と変わってないね。美人で、綺麗なままだ」
「馬鹿にしているのか?」
「まさか。でも、ちょっと困るかな」
「困るって、なにが……」
「兄さんが紹介された時、女子達がきゃーきゃー騒いで煩かったんだよね。兄さんに近づこうとする人も出てきそうだから、先に兄さんに思い知らせておかないとね」
「ぼ、僕に、なにを……」
 無意識に後退り、踵が壁に当たる。すると、まるで閉じ込められるように降谷は壁に手をついた。
「逃げないでよ、兄さん」
「その呼び方、止めなさい……」
「ああ、もう先生だもんね。兄さんなんて呼ばれると困るか」
「分かっているなら……」
「それに、もっと知られたら困ること、あるからね」
 至近距離まで顔を寄せられ、降谷の吐息が顔にかかった。ぞくりと肌が粟立つような感触を唇を噛んで堪える。
「ふざけるのは止めなさい」
「俺がふざけてこんなことしていると思う?」
 制服のポケットから取り出したスマートフォンを新一の目の前に翳し、降谷はにぃと口元を歪める。
「三年前のこと、知られたら困るよね?」
「まさか……っ」
「誰が見ても事後って分かるだろうね。
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【二次創作】年齢差逆転学園パロ(?)降新SS
初公開日: 2020年05月15日
最終更新日: 2020年05月15日
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某氏への誕生日お祝いSS