「お願い!いつもお店を手伝ってくれるバニーの子がみんな体調を崩しちゃって」
 そうペロに両手を合わせて頼まれれば、ソフィに断る選択肢はなかった。給仕をすることは食堂でも慣れているし、メニューを覚えるのも問題ない。
 ただ、服装については少しばかりのためらいがある。
「やっぱり、バニー服を着ないとダメですか?」
「そうね、制服だから……あっ、サイズは多種多様用意してあるから大丈夫よ!」
 サイズの心配をしているわけではないのだが、何色がいい?と聞いてくるペロにバニー服はちょっと恥ずかしいと言うことも難しい。なぜってペロ本人がバニー服なのだから。
「ちょっとだけ、スカートがついてるタイプとか……ないですか?」
「そういうのもあるわよ」
 バニー服のバリエーションはあかの開拓地のセルジが開発、作成を一手に引き受けていて、ソフィの希望するミニスカート付きのタイプもちゃんとラインナップにあり、少しほっとする。やっぱり網タイツとはいえ太腿がまるまる出ているのは恥ずかしい。
「それじゃ、今夜から数日よろしくね」
「分かりました」
 あとはバーの開店時間に間に合うように、食堂の仕事を調整するだけだった。
「こっち、ルビーラ四杯!」
「つまみ来てないぞ」
 皆規則正しく食事をするみどりの開拓地とは違い、あかの開拓地のバーは目が回るような忙しさだ。ジョッキを両手に二つづつ持ってテーブルへ行き、すぐに踵を返しておつまみを別のテーブルへ運ぶ。
 そのたびにソフィの短いスカート部分がひらひら揺れ、付けられた尻尾もぴょこぴょこと動く。新顔のバニーに常連客は顔を見合わせ、みどりの開拓地のソフィだと気づくと一様にじっと身体の一部を見つめてゴホンと咳をした。
 普段はつつましく隠されている胸元に視線が集まっていることに当の本人だけが気づかないまま給仕を続けていると、またドアベルが鳴って新しい客が入ってくる。
「ポンぺ殿、明日も仕事なのにこれから飲むんですか」
「まぁまぁ細かいことはいいじゃないっスか!入って入って」
 ソフィにとっては聞きなれた声と共にポンぺに腕を引かれたヒースがバーの入り口を通り――目が合った。
「いら……っしゃいませ」
「ソ、ソフィさん!?食堂にいないと思ったら何してるんっスか?」
「人手が足りないので、お手伝いです、今日もお仕事お疲れ様ですポンぺさま……ヒースさま」
 と、ソフィはポンぺの後ろで目を合わせた瞬間から硬直し、無言のままのヒースの名前を呼んだ。彼とソフィは一か月ほど前からいわゆるお付き合いをしている。二人とも忙しいためゆっくり過ごすこともそうないが、いつもと違う服の自分を見てもらえたことは純粋に嬉しい。
「いやぁー、びっくりしたっスけど、そういうカッコも似合うっスね」
「ありがとうございます、御席へどうぞ」
 一言だけでも感想が欲しい気持ちでソフィはちらりとヒースを見るが、その表情は硬く、頼んだお酒はアルコール度数の高いものだった。ポンぺがそんなの飲んで大丈夫かと聞くのにも無言で頷き手酌で飲みはじめる。
 いつも会えたときには話しかけてくれる彼とは別人のようだったが、仕事中だ。気になる気持ちを抑え、ソフィは終わりの時間まで手伝いを続け、ヒースは――ポンぺが帰っても尚その場でちびちびとお酒を飲み続けていた。
「今日はありがとう!すごく助かったわ、明日もよろしくね」
 ソフィはペロに笑顔で「はい」と答えたが、最後の客と同時にバーを出て行ったヒースが気になって仕方なかった、出ていくとき足がふらついたりはしていなかったけど結構飲んでいたことはよく分かる。
 着替えもせずバニー服の上から長めの上着を羽織っただけで外に出て、そのへんで倒れていないかと辺りを見回しながらみどりの開拓地へ歩を進めると、開拓地の間にある橋のたもとに座り込んでいる人影が見えた。
 月の光で見えた恋人の姿に駆け寄り、傍にしゃがみこむと俯いていた顔があがる。
「大丈夫ですか、ヒースさま」
「……」
「私、お水を持ってますので飲んでください」
 ソフィが水筒を渡すと、受け取ったヒースはごくごくと水を飲み――ソフィを抱き寄せ、そのままの勢いで唇に噛みつく。一瞬の出来事に何も反応出来ないソフィの口内に冷たい水と濃いお酒の味が混ざり、初めてのキスに感じたのは歓喜ではなく衝撃だった。
「ちょ、ちょっと、ヒースさ、ま」
 キスをしたくないわけではなかったけれど、酔った勢いだと思うと複雑な気持ちで、ソフィはヒースの胸を手で押して離れようとする。
 でも、ヒースは抱き寄せた手を離そうとはしなかった。唇は離してもその手はソフィを抱きしめたまま動き、背中を上着の上から撫で、スカートの上から柔らかい部分に触れる。
「きゃっ……も、もう、酔ってるんですかっ」
 駄目ですよ、とソフィはヒースの手を自分の手で押さえ、動きは止まった。
 その代わりに、ヒースのつぶやきが耳に届く。
「そんな格好、やめてください……」
「……え?」
「手伝いを、断れないのは、分かりますけど、そういう、他の男の視線を集めるような服装は、やめてほしいんです」
 泣きそうな声だった、実際泣いていたのかもしれない。
「……ごめんなさい、お手伝いすること、相談すれば良かったですね」
「違うんです、ただの身勝手な言い分なんです、謝らないでください」
 やめてほしいと言った口で、それを身勝手だというヒースはもちろん酔ってはいるのだろうけれど、両方本当の気持ちなのだと推し量ることは簡単だった。
 ただ、手伝いは数日続く。バニー服以外でも許してもらえるだろうかとソフィが一人悩んでいると、ヒースはそっと耳元に唇を寄せて何事か囁き、ソフィは目を大きく見開いて頷いた。
「…………で、どういうことなの?」
 ペロの視線の先には、いつもの服のソフィと身体にピッタリと合ったバニー服のヒースがいた。
「ソフィ殿がいつもの服で手伝いをするか、私がバニー服で手伝いをするか選んで下さい、人手が足りないのなら別に男でも女でも構わないでしょう」
「いやまずその服どこから、あっ、うん、出所は分かるけれどね……」
 恋人がバニー服姿で働いているところを見たらヒースはどんな反応をするだろうかというちょっとした興味をペロはちょっぴり反省する。真面目すぎる人にやってはいけない、覚えておこう。
 でも、それはそれとして
「面白そうだから、今日はヒースに手伝いを頼むわ」
 そう答えると、ソフィは笑ってヒースを見上げた。
「じゃあ、私、お客で来ますね」
「出来ればどなたかと一緒に来てくださいね、ジバコ殿とか腕の立つ方と」
「はい!」
 ヒースがバニー服を着ていても何ら気にしないソフィを見つめ、ペロは心の中でやれやれと肩を竦める。
 他のカップルの――逆パターンも見てみる必要がありそうだった。
 おわり 
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07:11
あひる
今回はプロットがあるよ
93:53
ななし@1f948e
たのしかったですー!
94:07
あひる
ありがとうございましたおわりです
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向き
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「バニーの手伝いをするソフィとそれを見に来たヒース」
初公開日: 2020年05月14日
最終更新日: 2020年05月14日
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「バニーの手伝いをするソフィとそれを見に来たヒース」