カミュが扉を申し訳程度にノックすると
「どうぞ」
という返事がかえってきて部屋に入る。
ローブを脱いで手に持ち、無言のままアイスブルーの瞳がレンを捉えた。
いろいろなもので密集しているレンの部屋を見て、いくぶん眉を寄せる。
レンは魔法薬の調合をしていたようで、珍しく髪を結んで前掛けをしていた。
「ちょっと作業中だから、待っててもらえる?」
入ってきたカミュをチラと見た後、手を微動だにせずに微笑んで見せる。
頷いて、やや離れた椅子に座った。
普段は数学が担当のはずのレンが、魔法薬の調合をしているのは珍しい。
じっと見つめるカミュの視線を背中に感じつつ、レンは慎重にいくつかの薬を合わせた。
混合の作業が終わり、フラスコの中には灰色の薬が出来ていた。
しかしこれで完成ではない、最後に呪文をかけて薬品の化学変化に魔法を添加する。
「kjepgl uekga;l; sprlrgy,a」
レンがフラスコの口に杖を当てて、言葉にあたらない呪文を唱えると中の薬品がピンク色に光った。
すぅっと色がひいていき、その薬はいつの間にか淡いオレンジ色になっている。
「よし、完成」
言ってフラスコから手を放し、床に落とした。
ガチャンと音を立ててフラスコが割れたが、薬は宙に浮遊している。
「必要なのは、上ずみだけだからね」
ふわふわ浮いている薬品に杖を構え、軽く振ると上澄みだけがすーっと移動して近くの小瓶に収まった。
「惚れ薬とは、お前らしくもない」
小瓶に蓋をしているレンを見つめて、カミュがため息をついた。
「オレが使うわけじゃないよ」
「わかっている」
答えに声をかぶせるようにして、カミュが椅子から立ち上がる。
「そんなものは、いらんだろう?」
レンを机に追い込むようにして、詰め寄るとカチャンと調合用に並んでいるガラスの器具がなった。
「学園の用事で遠征だったんだろう?報告は、もう…」
そこまで尋ねた唇は、カミュにふさがれる。
浮遊していた薬の残りが、床に落ちかけて凍って転がった。
「もう、バロンは意外とせっかちだよね?」
言葉とは裏腹に嬉しそうな笑みを浮かべ、レンが杖をふると扉の鍵がガチャリと音を立ててかかる。
カミュはレンの結んでいた髪を解くと、髪の中に指を通した。
「お前に関してだけ、だな」
殺し文句にレンは目を見開き、頬をそめてカミュの首に腕を回す。
「本当に、君となら媚薬いらず…ううん、君のすべてがオレにとっては媚薬なのかもしれないね」
カミュの手が服にかかるのを見つめながら、指で唇をなぞった。
二人の瞳に、恋の火花が散って。
お互いに刺激的で魔法のような関係を楽しんだ。
この時は、まだオアソビの一環だと。
レンは、心の隅でなんとなく感じていた。