なんの話をしていたのだっけ。そう癖の話。私と会話をするとき、帽子を目深にかぶりなおすのだ。あまりにも自然なので親しくなるまで気が付かなかった。というよりは、この癖が出るようになったのは親しくなってからな気がする。惚れた腫れたといったフィルターを除けば、彼は良き隣人であった。狩りで培われた観察眼は相談の場においてとても意義的に働いた。肯定が欲しい相手。勧告を求める相手。ルーク・ハントという一枚の鏡を見通して人は己自身を顧みるのだ。彼が敬愛する寮長すらも、彼こそが自身を映す最も優れた鏡であると認めている。
 聞き上手な人というのは常に相手に目線を合わせるものだ。この人は秀でてそれがうまい。皆の相談役で補佐に立ちまわれるというのも彼が副寮長を務める実力の裏付けだ。だから不思議だったのだ。そんな彼が私と話すときだけ、僅かに目線をそらすその訳が。もしかしたら私、何か失礼なことをしてしまったのかしらと思ってしまうのもしょうがないでしょう。嘘よ。少し、少しだけ気に食わないの。友人が目線を合わせてくれないなんて誰だって寂しいじゃない。
「どうして帽子をかぶりなおすのです?」
ポムフィオーレの談話室は花の香りがする。それは人工的なものであったり、花瓶に飾られたものだったりと様々だ。美意識の高いこちらの寮生たちは普段からオードトワレをまとっていたりする。部屋に案内されたとき鼻腔をくすぐったフローラルな香り。あいにくソムリエではない私はにおいのもとを特定することができるわけではない。ふむこれはジャスミンと......チークウッドだね、誰かが過剰に吹きかけてしまったようだ。ヴィルの指導が入るね。さらりと銘柄をいいあてたルークさんから香水の香りがしたことはない。嫌いなのかしらと勝手に想像した。ほら、この人狩人だから。私が元居た場所の国民は、無臭であることに命を燃やしていたから、彼が香水をつけていないと知ったときは少しだけ嬉しかった。同じ花なら、入れたての紅茶から薫る薔薇のほうがよほどいい。
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さぎょ!
初公開日: 2020年05月10日
最終更新日: 2020年05月10日
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