17時のこと。連絡は突然入った。それはいつものことだったけれど。媒体はメッセージアプリ。相手はこのS市の中で(俺が見た中で)トップクラスの悪逆非道な女。害悪が送ってきたそのメッセージの内容は簡潔に『18時 クローバードーナツ前』。もうこの時点でろくなことが起きそうにない。まぁ断ったところで後日にまた持ち掛けられるだけだろうし、今日は幸いにもシフトがない。俺はOKのスタンプを簡潔に返した。同じグループにいるハズレも『了解』とだけ返信した。よく考えたらこいつ公務員なのにどうやって仕事サボってるんだとか思いつつ、俺は仕事帰りに適当にコンビニで炭酸飲料を買ってそのまま公園を横切った。その先はカラフルな外装のドーナツ屋。__これから話す一連のことの全ての元凶であるパズルが勤めるところだった。
「テストをしてもらうよ」
あの女は俺たちが集まっていることを確認するや否やこんなことを言い出した。もう嫌だ。なんのテストかは知らないがもう帰りたい。しかし問題はハズレがいることだ。こいつはパズルの命令は拒まないように設定されているし、なにより俺にも指示があった場合その命令に従うように強要する。このためか。パズルがわざわざセットで呼んだの。道徳観を胎盤においていったのだろうか。
「テスト、ってなんだよ……」
とりあえず何をやらされるのかだけは知りたかった俺は、恐る恐る聞く。彼女はいつものような笑顔をさらに深めてこんなことを言い出した。
「今考えてるゲーム、探偵社の皆に仕掛ける予定なんだけどね、これが本当に面白いかどうかわからないの。だから二人にそれを仕掛けて全力で逃げてもらうことでデータを取るの」
「パズル」
「なぁに?ハズレ」
「それは死ぬようなやつか?」
「んー、うん!そうだね。死ぬ可能性を高くして作ってるよ!」
笑顔で言うな笑顔で。サイコパスか。まぁ多分そうなんだけど。もうちょいなんかこう、あるだろ。なにも俺たちを犠牲にする必要あるか?ないだろ。
「ちなみにだがオレは能力を使ってもいいの?」
「あ、今回は禁止!リスクと見合わないからね。あとそもそも仕掛けが正常に作動するかの実験も兼ねてるから」
「なっ……!?」
とうとう実験とか言い出したぞこの女。モルモットの方がまだマシな扱いをされていたとかつて実験者だった身として言いたい。あとリスクと見合わないって言うくらいならまずやるな。
「……一応聞きたいけどどんなやつだ?」
「それ言ったらつまらないでしょ」
つまるつまらないもクソもあるか馬鹿。
「まぁとりあえず二人には心拍数を図るアプリとパッチ配布するからね。好きにリアクションしていいよ」
ハズレはそんなことを言ってパッチを差し出すパズルの手にあるものを大人しく受け取る。逆にこいつなんで受け取れるんだ?仮にも自分が死にかねないのに。まぁそうは言っても洗脳されているのだからこれはもうどうしようもないという話だ。
ハズレの視線に促されて俺もそのパッチを受け取る。心拍数か。つまりはどこで驚いたとか、あとついでに言うならいつ死んだかもわかる。まぁ死ぬ気はサラサラ無いし、どうせなら生き延びたい。パズルのNOXとしての目標を否定したいわけではないのだ。これで結果として俺の嫌いな探偵社の連中が死んだら万々歳だし。というわけで、パズルに促されてアプリを入れ、その場はお開きとなった。マジでこれ出来ることなら一睡もしたくない。確か来週までシフトはなかったはずだ。常に気を抜けないような状態でいるのは神経に大変よろしくないがなんせ下手したら死ぬのだ。
「……帰りてぇ」
久々に実家を思い出した、気がした。
コモレビの首輪の中には、彼の能力を抑える薬に加え、何か大事なことを口外しそうになった時に備えてパズルは首輪にもう一つ、リシンと呼ばれる猛毒を取り付けている。
ハズレに関しては、仮に能力を発動させて記憶を失った時にそのまま放置してしまえば好きなように出来る。彼に関しては情報隠蔽などをしなくていいのだからとても楽だ。
そう。今回の出来事に関係なく、パズルはすでに彼らの生殺与奪を握っているのだ。
それなのになぜこのようなことをさせるのか?それは至極単純。彼らに正直に告げたようにテストのためだ。彼女の滔々とあふれる向上心は時に仲間にさえ牙をむくのだ。
「うーん、OK、OK!これで手配も終わってるし、じゃあ楽しんでもらおうかぁ」
ネットカフェの個室のなか、首謀者はくすりと笑った。
閑話休題。
朝。俺はとりあえず最悪の目覚めを迎えた。
どうして?
考えてもみろ読者連中。いきなりボウガンが窓突き破って眼前かすめたら誰だって最悪だと思うだろ。しかも壁に刺さってる。角部屋でよかったけどそれはそれとしてマジでふざけんな。施工代請求するぞ。
「っざけんなよあの女……」
矢を引っこ抜こうと俺は壁に歩み寄り引き抜こうとする。しかし俺は一つ、普通の矢(もないと思うがこのご時世)にはないものを見つける。
そう、手紙だ。この矢には手紙が括り付けられているのだ。何をされているんだろう俺は。
「……朝飯食お」
そんなことを思えるようになったあたり随分俺の神経も太くなった気がする。そう思いながら俺は冷蔵庫の野菜室からバナナと小松菜を取り出して洗い、ミキサーにぶちこんだ。混ざる野菜とか氷とかを見ながら俺も今日のうちにこうなるんじゃないかと思ったが、考えないことにした。時に思考放棄は役に立つ。
さて、とりあえず飯を食い終わった俺は矢に括り付けられている手紙を解く。何やってんだろ2050年に。
「ん、んー?」
その手紙に書いてあったのは、直線と点。しかも順番なんかは支離滅裂だ。これはなんだ。暗号であることはわかる。しかしなんだ。俺は諜報員か?違うわ。
「……これ、アイツもやられたのか?」
気になって、俺は携帯電話の電源を入れる。すると、いきなり着信が入った。
「はい」
『遅い』
ハズレだ。いや無茶言うな。
「うっせぇな。俺夜は電源切る派なんだよ」
『そんなことどうでもいい。部屋に何か来たか』
「矢文が来た」
『何時代の話をしているんだお前は。まぁオレのところにも来たが』
「いやお前もかよ!」
あの女いよいよ気でも狂ったか。いや元々気狂いの類ではあるけれど加速している。というか俺は早く要件を聞かなくてはいけない。
「なぁ、その矢文なんて書いてあった?」
『それを聞こうとしていた。写真に撮って送れ。オレも写真を送る』
「頼んだ」
携帯が切れる。一方的なその切れ方はまだその癖が刷り込まれた記憶が消えてないということなので少し安心する。
「……こうか?」
カメラ機能を滅多に使わないゆえ、悪戦苦闘しながらどうにか写真を撮る。喉が渇いたからスムージーの残りを飲んだ。この手作りの味を楽しめるのもいつまでかわからない。なんか泣きたくなってきた。
写真を送信すると、間もなく返信が来た。それは構成式と数字がいくつか書かれているもの。ベンゼン環が書いてあるということは、結構難解だ。そしてどうやら俺の元におくられたあれの正体はモールス信号とのことだ。流石に俺でも知らないんだから解きようがない。
とここで、俺はある事実に気づいてしまう。こんな複雑な構成式なんて俺にしかわからない。そしてモールス信号は知っている人にしかわからない。つまり。
パズルへの電話はあっさり繋がった。あいつのことだから着信拒否とかしているのかと思ったけれど、挑戦者からの質問に答えるあたりが無駄に律儀だ。他のところで使えなかったのか。
『はーい。あ、あれ来た?』
「来たよ。……なぁ、もしかして今回のゲームって俺たちが協力しないと解けない仕様か?」
『正解したコモレビさんには10ポイント!』
なるほど。これが噂に聞くクソゲーか。
「パズル」
『んー?』
「後でこのゲーム終わったらお前の金で焼き肉行くからな」
そう言って俺は一方的に電話を切る。切る寸前抗議の声を聞いた気がするが無視だ無視。
さて、どうしたものか。何年か前の知識を掘り起こすべく俺は本棚で数冊まとまって並んでいる化学の専門書を引っ張り出す。それは若干黄ばんでいて、あの時から随分な時間がたっていることがわかった。
「……4,4'-ビフェニルジオール。N-フェニルマレイミド。あとは……?あぁ、エチルシクロヘキサン。あとは……」
この脳細胞に情報を回す感覚はどこか懐かしく思えた。派手な実験というより、地道な作業の基に科学という世界は構築されている。効率厨のハズレにはこれを解こうとしたところで面倒くさく思うだけだろう。そこもアイツはよくわかっているなと思った。
「で、この数字の意味だよ。これなんだ……?」
12、7、1と続く数字には、規則性が一切ない。化学式の横にあるからといって化合式ではない。どれも単体で使用するものが多いからだ。
紙の裏とかには何も書いていないんだろうし、画質的な問題で見えなくなっている文面があるでもない。変に頭を使わせることには長けている。メッセージの着信が届く。ハズレだ。
『解けたか』
『途中まで』
『見せろ』
簡潔なやり取り。まぁ俺たちは本来深入りしあう関係ではないのだし、これくらいでいい。とにかく俺は不慣れな写真をまた撮って送信した。すると、またもやアイツからの返信。これ全部協力しあう仕様になってんのか?どこまで計算づくめなんだよ。というかこんなことするくらいなら放送作家にでもなればいいだろ。でもテレビとかう小さい枠であの女は収まらないんだろうな。
写真の中にはモールス信号を解読するための赤い線が引かれており、その横に各信号の解が書かれている。それらを繋げると、
「『このゅんじにあさにおとくいえ、こにこしんまううじかなのだ』……?」
これは難しすぎる。というかこれ何通りあるんだ。大体……
「あぁ、これはアイツには無理だな」
1.0888869450418E+28通り。先ほども言ったようにアイツは効率を重視するから、こんな地道な作業は発狂するだろう。今更発狂もクソもないが。仮に能力で『たまたま』成功しても相当な記憶が持っていかれる。多分アイツ今日も仕事だよな。支障が出たら責任は俺だしなによりアイツは能力の使用禁止令が言い渡されている。あれ?これ俺たちというより俺を一方的に弄びたいだけじゃねぇの?
カット
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カットモードOFF
17:24
手取川
めっちゃコモレビにツッコミさせるの楽しい
30:01
手取川
腱鞘炎に怯えています。あと肩こりがひどい。
34:12
ふなす
つよく生きてほしい
35:59
手取川
もうすでにクライマックス
38:48
手取川
本当にこいつ何されてんの????????
38:53
ふなす
取り敢えず何をやらされる…の文章知りたかったのとこ誤字ってる気がします。
40:33
手取川
ご指摘ありがとうございます!
44:58
手取川
(肝心の仕掛けの内容を一切考えてない)
57:54
ななし@90037e
企画外ですけどちらっと見てます…
58:45
手取川
ありがとうございます!
83:57
ななし@3603d6
んふふ(●´ω`●)見守っておりますよ…
85:44
手取川
これマジで作れるのでh
88:09
ななし@7dcd1e
わざわざ、コモレビさんとハズレさん仕様にして作っているところが、パズルさんお優しい…(-ω-*)きっと、実際に探偵社員にやる時には、相手を限定して、その相手仕様にするのだろうな……優しいというか、ある意味、相手からしたら「アナタと遊びたくて作りました」感あってじんわり嫌だし、どこまでこちらのことを調べ上げてきているんだろう…ってところがまた、怖気だつ感じが良いですね…
89:41
手取川
ありがとうございます写真撮って丁寧に保存させていただきました!!!!!!!!!!!!
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初公開日: 2020年05月09日
最終更新日: 2020年05月10日
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