人はかくも争う物という話
 まさかいくら競い合うと言っても、冒険者同士で命の取り合いとか……と、思っていたのだが、どうやらそれは素人意見だったようだ。足を止めて少数人数に分かれ、迎撃の態勢を取った一団の頭上に、文字通り雨のように、様々な魔法と思われる火の球や氷の球が降り注いできた。
 なるほど、今までは此処で大ダメージを食っていたんだな……と思いつつ、内部が真っ白になる程皹の入った、つまり目一杯に「力を溜めた」透明なビー玉を真上に構える。そして、飛んでくる魔法が一番密集しているところを狙って放った。
「よし!」
「何ぃ!?」
 ドパンッッ!! と、水風船がぶつかって割れるように、こちらの魔力弾と降り注いできていた魔法の群れは相殺。意外と威力は無かったのか? とは思うが、今までのマスターや他の冒険者達の反応からおそらく、こっちの威力がおかしいのだろう。
 そしてそれを見て快哉を上げるのはマスターで……驚愕の声を上げたのは、恐らく襲い掛かって来たギルドの誰か、なのだろう。
「はっはぁ!! そこだな『ゴールデンアークス』ぅううう!!!」
「ぎゃああああ来るな寄るな筋肉は嫌だぁああああああ!!」
 ……襲い掛かられて命を狙われている筈なのに、申し訳なくなってしまうのは何故だろうか。
 その後も飛んでくる魔法は透明なビーズを撃って相殺し、その時間を使って『アベンチャーエール』の冒険者が反撃に出た。……今までお決まりのパターンだったのだろう。相手……恐らく『ゴールデンアークス』というギルドの冒険者達は、完全に浮足立って混乱していた。
 まぁ、そんな状態の相手に、実力だけは間違いなく高い『アベンチャーエール』の冒険者が後れを取る訳もない。数分もすれば、マスターが突撃して悲鳴が上がった方向から、光の柱のような物が上がった。
「ナイスセーブ! あ、ちなみにあの光が「おたから箱」に攻撃が入った印ね。入った攻撃が大きいほど強い光になるから、あれは多分空っぽになったんじゃないかしら」
「そりゃまぁ……マスターの一撃がクリーンヒットすればそうもなるだろう」
「まさしくそうね!」
 スピカが、積年の恨み! といった調子で清々しそうにしている。よほど毎度毎度叩いてきた相手のようだ。……まぁ、うん。命を奪いに行っていいのは、奪われる覚悟のある奴だけだ、と、言うしな……。
「なーにが『ゴールデンアークス(黄金の箱)』よ! いいとこ盗賊じゃないの! 自力でまともに『スポット』を攻略する事自体をほとんど放棄してる不良ギルドの癖に!」
 前言撤回、容赦など一切しなくていい類だったようだ。
 しかしそんな奴らでも別に冒険者としての資格を無くしたり、そういう事は無いようだ。そもそも感知していないのか、わざと放置しているのか、あるいはまともな所が更に頑張るようになればそれでいいのかは分からないが。
 ……なお、戦闘自体はそんなにかからなかった。まぁそれはそうか。
「よぉし、この調子でいくぞぉ!!」
「「「応!!!」」」
「意外とあーいう不良ギルドって多いのよね。堕落の味はそんなに甘いのかしら。だからシューさん、よろしく!」
「努力はしよう」
 ……どうやら、冒険者同士で戦っても返り血などは残らないらしい。
 その後も何度か襲撃があったが、『アベンチャーエール』に対する対抗策はパターン化しているのだろう。全く同じ展開で片付けられた。……というか、パターン化出来る程簡単だから襲われる対象に選ばれるというべきか。
 『スポット』の数にして50近くを攻略し、複数のギルドを返り討ちにしたとあって流石にちょっと「おたから箱」が重い。重量の軽減まではついていなかったらしい。ポーチの方にはついているから、「ちょっと重い」程度で済んでいるが。
 しかしそろそろ数時間は戦い詰めだ。いい加減、稼ぎを確実に持って帰るという意味でも一度撤退した方がよさそうなものだが……うん。周りにそんな気が一切ないな。
「おや」
「げっ」
 と思いつつ次の『スポット』へと向かう扉をくぐった先で、見知らぬ声とマスターのうめき声が聞こえた。何だ、また他のギルドと鉢合わせたのか?
「驚きましたねぇ。まさかあの脳筋……失礼。前衛だけは粒ぞろいの『アベンチャーエール』がここまで生き残っているとはぁ。運が良かったんですかねぇ?」
「やかましいわ、頭でっかち野郎が。俺達が生き残ってるのがそんなにおかしいかよ、えぇ?」
「はははまさかまさか。まだまだ知らないことが多いのだなぁと、わが身の未熟に気付いているだけですよぉ?」
 …………あー、うん。大体分かった気がする。スピカは……あ、もう前の方に行ってるな。
「で、なぁに? 『ジーニャスタッフ』さん。私達、先に進みたいんだけど」
「これはこれは、麗しのスピカキャッツさん。今日こそは色よいお返事を貰えるのですかなぁ?」
「イヤよ、あなたみたいな嫌味で小物な人しかいないギルドなんて願い下げだわ」
 うーん辛辣。……いや、見つかったらまずいのはこっちも同じか。隠蔽度を上げておこう。
 スピカの容赦ない言葉に、流石に顔を引きつらせているのは……黒いローブの上に黒いマントを羽織った姿の男。ぺったりと撫でつけたような73分けの髪は鮮やかな水色。そのせいか、恐らくは単に色が白いだけの肌が青白く見える。
 顔のパーツが全部細い線のようで、そこだけ存在感の強い分厚いモノクルを右目にひっかけている。……言っては悪いが鼻も低いのによく落ちないな? 手はマントの下に隠れて見えないが、たぶん何かしら武器を持っているのだろう。
「……本日も、なんともつれませんねぇ」
「耳が更に悪くなったの? 邪魔だからどいてって言ってるんだけど」
 しかし辛辣だな、スピカ。そんなに嫌いか。
 ……いや、言葉に出しているのがスピカだけで、他の冒険者も大概殺気立ってるな。これ、何かの理由で先に殴りかかるのを我慢している、ってだけじゃないか?
 どう動いたもんかなぁ、と思いつつ、右手をコートの内で動かす。様々な玉の種類があるが、動き方次第でどれを使うのが最適かが変わって来るからなかなか難しい。
「まぁまぁ、しばらくぶりにお会いしたのですから、どうです? お茶の一つでも」
「いらないわ。みんな、行きましょう」
「そうだな。下っ手くそなナンパ野郎に付きやってやる義理はねぇ。攻略を続けるぞ!」
 見事に『ジーニャスタッフ』とやらの……恐らく、マスターなのだろう。水色髪の男を振って戻ってくるスピカ。それにマスターが応じて、応!!! と圧力すら感じる応答が『アベンチャーエール』の冒険者から返った。
 そのまま本当に、足並みをそろえて走っていく。もちろん遅れないように、目立たないように、一番内側の位置を維持しながらそれに追随したのだが……。
「振られてしまいましたねぇ」
 ……ちら、と最後。そんな事を言う男を振り返り、その粘つくような笑みに、嫌な予感を覚えていた。
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文字通り世界の皺寄せを受ける話 19
初公開日: 2020年05月09日
最終更新日: 2020年05月09日
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コメント
これは多分現代ファンタジーな感じ。
18の続き。
心の底から清々してます!! 12
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天宮 ぴぅ の 初配信 っ 嵐 トか ぁんち ゃめて − ✖
ぴぅ
zat夢文庫版書き下ろし原稿
「雑渡昆奈門と先見の仙女」のイベント頒布用文庫本の書き下ろし用の話。
砂凪