「遅い…。」
ぼくは今、とある場所に来ていた。2日ほど前に、アルに突然呼び出されたのだ。アルは、ぼくがナイトレイブンカレッジに通っていたときの友達だ。でも、卒業してからは、めっきり会わなくなった。最後に会ってから、もう3年ほどは経っている。
「自分で呼んだのに、15分も遅れてるってなに?」
痺れを切らし、ぶつぶつと呟きはじめたそのとき、とんでもない強さで、グイッと両腕を後ろに引っぱられた。
「痛っ…!再会して早々、腕を引っぱるなんていい度胸してる…って…あれ…?」
そう言いながら後ろを振り向くと、そこにはアルではなく、真っ黒なスーツを着た男が二人立っていた。
「失礼します。」
謎の男たちはそれだけボソッと言うと、腕をつかんだまま、ぼくのことをズルズルと引きずりはじめた。抵抗しようにも、相手は二人の巨大な男。ぼくはあっという間に、近くに止まっていた車に連れて行かれた。ぼくは男たちに挟まれる形で、後部座席に座らされた。運転席には、誰も座っていない。
「ちょっと…!そんなぐいぐい押さないで。なにが狙いなの?」
「スノウ様、これをお読みください。」
左側にいる男が、ぼくに封筒を渡してくる。ぼくは、それを恐る恐る受け取り、読みはじめた。
『拝啓 愛しい人。どうしていますか?』
「なに…?ラブレター?誰からの?」
「話はその手紙を読んでからです。」
それを聞いたぼくは、仕方なく手紙へ目を戻した。
『僕たちが3年生のとき、スノウくんはオーバーブロットしたよね。あのときは本当に冷や冷やしたよ。』
『僕が一時期、恋愛フラグ?というものを立てまくって、色々噂が流れたときもあったね。あれはあれで、なかなか面白かったよ。』
『スノウくんは、ニックとも仲良くしてくれていたよね。雑貨屋さんを何件もいっしょに巡ってたりして。』
この「スノウくん」という呼び方。柔らかな語尾。「僕」という一人称。いざ読み進めてみると、この手紙を書いた主が誰か、という謎はあっさり解けた。彼は、最初に「愛しい人」と言ったかと思えば、そのあとは、思い出話ばかりしている。だから、彼の意図は全くつかめない。
『そんな思い出が、今でも僕の心臓を刺している。 敬具』
結局、ずっと思い出話が続いていき、最後は、こんな文で締めくくられていた。よくわからないなと思いつつ、ふとため息をつくと、いきなり後部座席のドアが開いた。
「ばぁ!」
「うわっ…!?」
ドアを開けたのは、手紙を書いた主、アルだった。ぼくは、思わず驚きの声をあげ、アルの顔をまじまじと見つめてしまった。さっきから色々なことが起こりすぎて、全然状況の把握ができない。
「びっくりしたでしょ。」
「え…、そりゃあ、ねえ。」
「あはは。かなりびっくりしてるみたいだね。ドッキリ大成功〜!」
「というか、色々ぼくはなにもわかってないから、早く説明してほしい…。」
「ああ、そうだね。それじゃあ、行こう。ホテル。」
「ホテル…!?な、なにする気なの…?」
アルはぼくの質問を無視し、スーツの男たちに声をかけた。
「では、お二人は先に御屋敷にお戻りくださいませ。」
「承知致しました。」
一度男たちは車から降り、それぞれ運転席と助手席についた。
「ほら。早く来て!」
アルがぼくに手招きしながらそう言う。ぼくは言う通りに、車から降りた。
「ホテルって…、なに…。」
「さあね。」
ぼくはもう一度聞いてみたが、さらりとかわされてしまった。そのあと、アルの言うホテルに向かう道では、手紙でも書いてあったように、学生時代の思い出話に花を咲かせていた。ぼく自身も、この話をすることで、このあと起こることを無闇に考えずに済んだ。
「着いたよ。」
「そ、そう…。」
着いてしまった。ついつい震えた声で返事をしてしまう。この返事をしたあとから、部屋に着くまでの記憶はほとんどない。知らぬ間に部屋へ着いていた。
「どうぞ。このソファに座って。」
「うん…。」
いよいよか…と思いながら、ぼくはソファに座る。そして、アルはぼくの隣に腰をかけた。
「ねえ、スノウくん。もしかして…、勘違いしてない?」
「えっ!?」
アルはそう言いながらぼくの顔を覗きこみ、真っ直ぐにこちらを見つめながら微笑んだ。
「やましいことなんてしないよ。本当に状況説明するために連れてきただけ。」
「なんだ…。最初からそう言ってよ。」
「僕は一言も、"やましいことする"とは言ってないもの。」
アルはニヤリと笑った。学生時代のときから変わらない、人をおちょくるときの顔だ。
「はぁ…。それなら、さっさと説明してよ!」
「はいはい、仰せのままに。まず、さっきのドッキリの話から。あれは、普通に驚かせたかっただけ。御主人様にも手伝ってもらって。」
「人を驚かせるためだけに、あそこまでする?」
「スノウくんは、並大抵のことでは驚かなさそうだったから。次に、このホテルの話。このホテルは、御主人様の家が経営してるホテル。だから、話し合いの場として貸してもらった。」
ここまで話すと、アルは息を整える。まるで、なにかを決心するように。
「あと…。今日の本題である、手紙の話。」
アルが緊張している様子が、こちらにまで伝わってくる。あまりにも改まった風に言うものだから、なんだかぼくまで緊張してきた。
「あの手紙は…、本来なら卒業式の日にスノウくんへ渡すものだった。」
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