<エアスケブ会場>
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<主へし>
藤の花は長谷部に良く似合う花だ。ゆかりのある花であるという。そういう話をしていたのはいつだったか。もう忘れてしまったが、よく覚えている。
「失礼いたします」
穏やかな声とともに襖が開いた。夜が漏れ出て畳を濡らす。滴るように藤が揺れている。僕は目を細め、声のしたほうにのろのろと視線を動かした。
「……いかがでしょうか?」
うつくしい男が藤を身に纏ってそこにいた。しずかな夜に降り立った、藤の精のようだと僕は思う。ほとんど枯れて出ない声を絞り、きれいだ、と応えたつもりだった。
「今宵は一段と……、藤も見頃に咲いていますね」
咳き込む僕の背を抱いて、長谷部はそう囁いた。僕にだけしか聞かせる必要のない声はしずかだ。昔は短刀たちの悪戯に怒って、太刀の酒癖の悪さに荒げて、戦場では高らかに吼えていたものだった。
「ほんとうに、よろしかったのですか? 俺にこんな……、着物を仕立ててくださるなんて」
もう使いどころのない金だ。倉庫に眠らせておいても何の意味もない小判を、こうして使うのも悪くないだろう。言いたくて、やはり声が出ない。それでもせめてその、花のような男のさまを刻んで覚えておきたくて身体を起こした。萎えて衰えた身体が軋むように痛むけれど、長谷部がうつくしいのでそんなことはどうでもよくなった。
「……」
藤の季節が終わるころまで僕は永らえるのだろうか。そんなこともいまはどうでもいい。ただひとり僕に残った刀剣男士がそっと背を撫でる。少し身を引いて、その新しい装束が見える位置に座った。藤を背にした長谷部はやはり、この世ならざる美しさだった。こんなにうつくしい男が地獄で待っていてくれるのならば、何も怖くないと思うほどには。
「……、ありがとう、ございます。主」
目元を細めた長谷部が言う。けっきょく僕とは違ってその目じりに皺の一筋も刻まれなかったうつくしい神とともに朽ちるこの藤の楽園に、僕は満ち満ちた充足を感じたのだった。
<におわせえっちなつるさに♂>
「本当に立てもしないんだが」
「そうか、そうか」
にやつく男の眼差しはどう見積もっても愉快そうで、眉間に皺を寄せても金のまなこが蕩けるばかり。暖簾に腕押しとはまさにこのことで、大の字に転がる審神者がどれだけ不服を示しても鶴丸にはちらとも堪えたようすがない。腹立たしくて背を向けてしまいたいが寝返りを打つのもままならず、審神者は自由にならぬ身体を忌々しく見下ろした。ついついはしゃいでしまいはしたが審神者だとて男であり、このていたらくは矜持に響く。
「手加減してくれてもいいと思うんだが、どうなんだ? 鶴丸」
「しただろう。まさかきみ、本気で俺に乱暴をされたかったのかい?」
「違う! お前ならもっとうまくやれただろうって、俺はそう言ってるんだ」
少し離れて審神者のこのざまを見守っていた鶴丸が距離を詰め、傍らに膝をついて座った。伸びてきた手は乾いていて、ひんやりと冷たく心地よい。それで鶴丸が息すら上げていないのが知れて、腰も砕けて汗みずくの自分を顧みてますます不服が膨らんだ。
「わざとか? 俺にいじわるをしたのか?」
「おいおい、心外だなあ、きみ。だいじなきみにそんなことをするわけがないだろう」
時間にしたらたった半刻かそこらだろう。それだけで翻弄され、蹂躙され、このざまだ。審神者がひっしに食らいついていたのはものの四半刻かそこらで、それ以降はずっともういい、許してくれ、と、ひいひい言いながら許しを請うばかりだった。
「……こんなことをしなくとも、きみには俺がいるだろう?」
放り捨てられた木刀が視線の先にある。甘ったるい声とともに頤に手をかけられて、首を動かすのもおっくうな審神者の身体が軽々と引き起こされた。知り合いの審神者が刀剣男士と乱取りの手合せをやっていたのを見かけて、いいなあ、と思ったのが運の尽きだった。このあいだの剣術稽古で懲りたはずだったのに鶴丸に手合せをやってみたいとお願いをしたらこのざまで、審神者は生まれたての子鹿にされている。
「はは、しかし、立てんか。仕方ない、俺が背負っていってやろうな」
鶴丸の優美に見えて粗野にも感じる流れるような演舞のまねごとをさせてもらおうとして、それこそ手取り足取り教わっていた。そのはずだ。腰を落とせだの構えが違うだのなんだかんだと言いながら背に手を添えられて言われた通りにやっていただけなのに自力では立てないほどに疲弊していて、これは間違いなく確信犯であろうと思う。とはいえ即日全身筋肉痛の俎上の魚に出来ることはなにもなく、心底愉快そうに笑う男の罠にかかった審神者がまったくかれの好きにされたのは、いかに先詠みの才を持つ審神者にとっても到底予測不能の出来事であった。
<つるさにに絡む髭切のおはなし>
「ありゃ。こんなところにいたのかい。むこうで探していたよ? ええと、なんだっけ。五条の白いの」
真上から覗き込まれて、審神者は思わず丸く目を見開いた。この間まで凍えるように寒かったのにいつのまにか夏が来ていたのか、と錯覚するような気温になって行き倒れていたのだ。暦の上ではまだ春真っ盛りというところだというのに、クーラーを起動させようとして博多に怒られたほどだった。まだ早いばい、と眦をきりきり吊り上げた出納番長に言われて仕方なくあきらめて、扇風機を蔵から引っ張り出すのも汗をかきそうだったので、せめて日陰で涼しい部屋がないかと本丸をさ迷い歩いて辿り着いたのがここだった。茫洋とした思考のままポケット端末を叩いていくつかの書類を開いては流し見て、いつのまにか眠っていたらしい。
「髭切……」
「涼しいねえ、この部屋。風が通るのかな」
源氏の重宝、つかみどころのないふわふわと浮世離れしたうつくしい審神者の刀剣男士。髭切はその長い脚を窮屈そうに折りたたんでしゃがみこみ、審神者の顔を間近く見下ろしている。声をかけられて目を開けて真っ先に飛び込んできたのがかれの花のかんばせであったので、すぐには声も出なかった。
「あのとてもかしこい子がね、君を呼んでいるよ」
ぼうっと髭切を見上げていると、ふいにそのかんばせが綻んだ。鬼を斬った逸話を持つ故か、弟と揃いで鋭い牙をもつかれの白い歯がこぼれる。かれもまたずいぶんと人の身と心に馴染んだのなあと思うのと、おのれもかれに馴染んだのだろうな、という心地がいっしょになってやってきた。
「かしこい子?」
「うん。ほら、夏になると本丸の至る所に生えてくる……、熱源のあるほうに涼しい風を送ってくれるというやつさ」
「ああ、扇風機な……」
審神者が本丸に持ち込んだ扇風機は当然最新式で、涼風を効率的に循環させるものだ。その仕組みを教えてやったのは去年の夏だったか。おやこの子は僕が動くと風向きが変わるんだねえ、とその大きな瞳をきらきらと輝かせていた髭切が驚いていたので、審神者も科学に興味を示したかと一通りその仕組みを語ってやった記憶がある。どうやらかれもそれを覚えていたらしい。
「そう。それをね、君があんまりに溶けているものだから、五条の刀が蔵から連れ出したそうだよ。それで君を探していたというわけ」
「鶴丸……」
慈しみ深く愛情深い真白の麗人がこの暑い中むっと空気の籠った蔵から髭切いわくのかしこい子たちを探し出してくれたということか。感激した審神者が思わずその名を呼ぶ。ここまで持ってきてそれで俺を囲んでほしい、と思った。審神者は注がれる愛情をほしいままに咀嚼して、こうしてぶくぶくと心を肥やしているので。
「でもまあここなら寝苦しくはなさそうだねえ」
なにせ鶴丸はこの暑い中でも羽織でもこもこと膨らんでいるのだ。正絹は冬に温かく夏には風通しがいいというが元来体温の低いあの男はそれほど暑がっていなかった。髭切は武装を解いて内番着のシャツを腕まくりした気楽な姿で、ジャージの上などどこに置いてきたかもわからぬ有様である。いくかのシンパシーを感じて、審神者は浮かんだ汗を手の甲で拭ってからごろりと寝返りを打った。身体の熱が移っていないところの畳はひんやりとして心地がよい。
「鶴丸に俺はここにいるって言ってきてくれ……」
「まあしばらくすれば探し当てるんじゃないかなあ?」
これで快眠できると思ったのに髭切の答えはあっさりとしていた。果てはとなりにごろりと転がる始末である。さては髭切は審神者を探しに来たわけでなく涼しい昼寝場所を探しに来ただけか、と審神者が気付いたのはその時になってからだった。
「そこを何とか……」
「ははは」
ちっとも笑っていない棒読みの声を最後に髭切は身じろぎすらせず黙り込む。寝る気だな、と思って審神者もそうそうに諦めた。そうだ。ここは極楽のように涼しいわけではないが寝苦しいほどでもない。すぐにとろりと瞼が蕩けた審神者が汗だくの鶴丸に叩き起こされるのは、これより四半刻ののちであった。
<喧嘩して仲直りするつるさに>
<鶴丸に叱られて珍しく逆ギレする審神者しかもそれを本丸の刀たちに目撃されるつるさに>
「もう知らん! 俺は悪くない! おまえが心配性すぎるんだ!」
まったくもって駄々を捏ねるこどもの如くに主が声を荒げたので、今剣は思わず顔を上げてそちらを振り向いた。何やらいつもの如くに丁々発止鶴丸と掛け合っていたのは知っていたが、内容までは耳に入っていなかったのだ。見れば、樫の文机に手をついて勢いよく立ち上がった主が大股に広間を出て行くところである。天を仰いだ鶴丸が、ふかぶかと嘆息をついてぐしゃりと苛立ち混じりに髪を掻き回しているのが見えた。
「なんだなんだ、喧嘩か?」
主の声も耳に入らぬほど今剣が集中していた理由、すなわち白熱していた薬研との石取り遊びも手が止まる。薬研が先に問うたので、鶴丸の視線がこちらを向いてくしゃりと歪んだ。
「……いや」
「今のは……主の駄々だなあ」
しみじみ、とばかりに零すのは同じく広間に居た貞宗だ。この本丸においては非常に珍しく主を贔屓せずに鶴丸の味方をしてやる稀有な短刀男士である。ともかくかれが言うのであればそうなのだろう、と判断し、主が足音を響かせながら向かった先に意識を向ける。前庭であった。
「いいのか? 鶴さん。主をほっといて」
「しかしなあ、ならんものはならんだろう」
なにやら鶴丸は貞宗となにやらを言い合っているようだが今剣の興味はすでに主に移っていた。薬研も愉快そうに鶴丸のほうに寄っていったので足音を立てずに駆け出して、広間を出てすぐの柱を蹴って屋根上に上がり、ひといきに前庭までの道を奔る。たからかに足音を立てる主の姿はすぐに見つかった。
「あるじさまー!」
雨樋を蹴って飛び降りて、かれの眼前へと着地をする。これが岩融ならば肩に飛び乗るところだが如何せん主は人の子で、その身体は脆すぎる。かれが腰をぐきっとやっても手入部屋では治らないのだ。今剣は思慮分別のある刀であった。
「わっ、い、今剣」
ふざけているときならばまだしも主がここまで感情を表情に乗せているのは珍しい。いったいなにを言い合っていたのか、と、なまあたたかい目で見守っている鶴丸の翼下の雛に餌を与えるがごとくの甲斐甲斐しさを思い出して今剣が不思議に思っていると、かれは僅かに首を振っていつもどおりの表情をなんとか取り繕ったようだった。
「どこかにいくんですか?」
「う、うん、まあ、ちょっとな。すぐ戻るよ」
「あそびにいくんですか? ぼくもつれていってください!」
今剣がかれの首に飛びつくと、危なげのない手つきで抱きあげてくれた主が背後を振り向く素振りをした。おそらくはあの真白の太刀が追ってきているものではないか、と思ったのだろうが、あの甲斐性のない男は飛び出したかれを追いかけてくるでもなしにむずかしい顔で虚空を睨むばかりであったのでとうぜんそれはない。あにさまは少々お鶴に手厳しいな、と末弟などは言うけれど、今剣にとってはなにより大事な主君のことがいちばんである。
「遊びに……、まあ、そうだな。遊びに行くんだ。じゃあ一緒に行こう」
今剣は主の懐刀だ。銃兵と重歩兵をひとつずつ袂に入れているのを確かめて、はい、と無邪気な顔で笑ってかれの頭に頬を摺り寄せた。そうと決まれば棚から牡丹餅で手に入れた機会である。かれの腕から飛び降りて、その手を引いて早足になる。案の定時間遡行を行うゲートまで進んだ主がなにやらのコードを打ち込むなか、ついに事の重大さに気付いたらしい鶴丸が前庭から門を認めて叫んでいたが無視をした。まったくおまえはつめがあまいのです、という思いで睨みつけたさきの鶴丸の顔にありありと浮かぶ驚愕にひとつ留飲を下ろす。
そうして主が遡行したさきは今剣もまた少々目を瞠るほどには無法な場所であったので、のちほど鶴丸にちくりと釘を刺すにせよ、ことわりがかれの方にあるのは明らかであったのだが。
「あるじさまにはしょうしょうおきゅうをすえておきましたので」
「……そうか」
「きちんとおまもりするように。よいですね」
仁王立つ今剣のまえで正座をした鶴丸は諾として頷くばかりだ。『少々』のお灸が堪えたらしい主が顔面を蒼白にした鶴丸の胸に逃げるように飛び込んでいったので、主もどうやら無事にかれの理を理解したものだろう。今剣は主の懐刀だ。懐刀としてその程度はし果せなければならぬので、しばらく主が今剣と話す際に鶴丸を盾のようにして間に挟んだのは甘んじて受け止めることにした。
<エエ声の山鳥毛とさにわ>
「小鳥よ、佳い夜だな」
この本丸の主は健啖家だ。それを汲んでかあるいは一番刀の差配もあってのことだろうが、この豊かな霊力に包まれた過ごしやすい本丸のうち、ことさらに料理には手が込められているように思う。かれが夕餉のあとに晩酌を始めるときに饗されるのもまた、いつも目を瞠るような美酒佳肴ばかりであった。
「っひ! び、びっくりした……」
たまには静かに呑みたい日もあるのか、いつもであれば広間のどんちゃん騒ぎの中央でのびのびと過ごす主の背を池のある庭がよく見える縁側に認めて近寄ったのは、そんなかれのことをよく知りたいと思ったからだ。この身があらためて主を戴き、しかもその男は将として山鳥毛を奮う審神者なる人の子であるという。運のよいことに先日同派の刀である南泉とともにとある『秘密』を共有することとなった山鳥毛は、機会があればこうしてかれに声をかけることにしている。
福岡一文字一家の惣領というのはやはり少々御しがたく思えるものか、主はその度に僅かな強張りや緊張を見せているように思う。きみはおしだしがよいからね、と小豆も眉を下げて言っていたものだ。かれはといえばすいーつ作りとやらですっかりと主を篭絡しており、小豆が広間に顔を出すと主はいつもきらきらと目を輝かせてその手のうちにある甘味に飛びつくほどだというのに。
「あ、あなたか。山鳥毛」
「ああ。邪魔をしたかな?」
「い―――、いや、大丈夫だ。そうだな、良い夜だ」
山鳥毛がかれの隣に腰を下ろすと、かれははたはたと手を彷徨わせて何かを探したらしい。どうやら一献くれようとしたようだが、おそらくひとりの時間を過ごすはずだった主の手元の盆の上には猪口はひとつしか乗っていないようだった。
「ああ、いや。酒はいい。ありがとう」
「そ、そうか?」
審神者なる者。いまを生きる人の子。山鳥毛は、ただかれと話がしたいだけだ。酒を酌み交わすのももちろん良いが、素面で憶えておきたいこともある。ただでさえ数えるほどしかないふたりで話す機会が降って湧いたので、山鳥毛は古臭いと自称する身にしてはめずらしく、少々高揚しているのかもしれなかった。
「こうして手酌をすることもあるのか」
「まあ……、たまにはな。でもあなたのように、だれかが付き合ってくれることも多いよ」
盆の上には美しい硝子の徳利と揃いの猪口、それからさまざまな酒の肴が彩りよく盛り合わせられた漆の皿がある。折しもの半月を準えたのだろう、盆にも同じ紋様が描かれているのが風流であった。どうやら今宵のかれの佳肴は、かれの一番刀の差配であるらしい。
「そうか。小鳥はこの本丸の止り木でもあるのだな」
山鳥毛のようにかれと話がしたいと願う刀は多いだろう。請えば叶えてくれるものだ、と言っていたのは誰だったか。三日月宗近だっただろうか。この本丸には練度未達の山鳥毛には到底叶わぬような手練れの刀も多く、背に土をつけられるたびにおのれの不足にじりじりと焦がされるような心地になる。
「私もこの巣に―――きみの本丸という場に顕現してしばらく経ったが、きみの傍はいつも賑々しく鳥たちが集っている。慕われているのだな、小鳥は」
しみじみと思ってそう告げると、主はやはり肩を跳ねさせてから、それでも今度こそ目線を合わせて此方を見た。思えば武装も解いて気楽な姿をしており、かれの前に出るには相応しくなかったかと気恥ずかしく思う。主はいつも上質な着物に身を包んでいるから猶更だ。そろそろ戦装束以外の略式装でも整えておいたほうがいいだろうか。近々南泉あたりに相談してみるべきか。
「そ……、うだといいんだが。山鳥毛、もちろん、あなたも」
そんなことを考えているとは露知らぬだろう主がそれでも笑みを浮かべて言う。それからわずかに眦を緩め、ふいに裾を払って立ち上がった。
「やっぱり呑まないか? 肴も、追加、貰ってくるから」
そこまでかれに誘われて、首を横に振るわけにはいかなかった。あなたはここで待っていてくれ、と言われて足早に立ち去っていく背を見送り、山鳥毛はふと笑って庭先を見る。月が池に光を落とす、やはりとても佳い夜だった。
***
「きみ、どうした?」
ほとんど最後は転げるように近づいてきた足音に気付いて足を止めた鶴丸が振り向くと、主がたいそう困った顔をして鶴丸の袖を引くところだった。ひとりで呑みたい気分だったのか歌仙に貰った酒器を手にふらふらと縁側に出た主をそのうち迎えに行こうと思っていたのだが、思わぬ先客がいたので今日は譲るつもりでいたのだ。山鳥毛。遅く来た神格高き太刀は刀派の長を名乗るだけあって押し出しのよい刀であり、家長というものに対してあまりよい思い出のない主が少なからず扱いに砕心をしている刀のうちの一振りである。そのかれが主と親交を深めているのならば割り入ることはしないでおこうと思って踵を返したら、これだ。主とは目が合ったので、おそらくかれも鶴丸がそうしたことに気付いていたはずだった。
「……、鶴丸も来てくれ。たのむから」
「驚いたな。構わんが……、どうしてだい」
かれはことさらにかれの刀剣男士に甘い。出来る限りのことをしてやろうと意気込んでいるかれのことは鶴丸ももちろん良く知っているし、かれを慈しむ刀剣男士たちにとってふたりきりで話す機会が稀有で願ってもない機会であることも理解をしているはずだ。だから文字通りに驚いて問えば、一度視線を彷徨わせた主が結局諦めたように鶴丸の前で項垂れてみせる。
「声が良すぎて、話がちっとも入ってこない……」
「……、きみなあ……」
「おまえなあ、笑いごとじゃないんだぞ、いっぺん小鳥って呼ばれてみろよ……」
半眼になった主の鼻先をつまんでひとつ弾き、鶴丸は肩を竦めた。
「聞き捨てならんなあ、あるじ殿」
「いやほんと、いっぺん呼ばれてみろって……」
意図をして低めた声で言ってみたはいいものの主が真顔で首を横に振るので悋気もそうそうに引っ込む。けっきょく偶然を装って混ざった主と山鳥毛の酒宴において鶴丸はかれに『鳥……、いや、やはり鶴とお呼びするべきかな?』と呼びかけられ、主の言葉を納得させられることになったのだった。
おしまい!
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ななし@8d239d
つるさにに絡む髭切のおはなしをお願いします!
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大遅刻エアスケブ会場
初公開日: 2020年05月05日
最終更新日: 2020年05月06日
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よっぱらいがえあすけぶするよ~~~~~