もう鰯雲ですねー、と海が空を指さして笑う。朗らかに。一点の曇りも無く。
確かに、ついこないだまでそこにはモクモクとした入道雲が浮かんでいたので、季節が移るのは早いという後輩の言葉はもっともだ、多少若さは足りないかもしれないが。
だけどそれよりも、『海が空を指さしている』という脳内に浮かんだ字面のインパクトがあまりに虚構じみていて、おお、とかうん、とか言って頷くだけなのに半笑いになるのを堪えられない。
あっかんわオレ、我ながらキッショ。
その脇で、イコさんはせやなぁ、とふんわり同意して、ナスカレー食いたいわあと続けて言った。いやどういう繋がりやねん。と思ったのはどうやらオレだけで、海は大声で腹減りました!と宣ったし、隠岐はどっか寄りましょ、とスマホを弄り始めた。そうしながらマリオはどうする?と確認するんも忘れんあたりコイツはほんまキチッとしとる。腹立つわあ。聞かれた方は、偶には付き合おかな、と答えて落ちかけた鞄の持ち手を肩に掛け直した。のを見たときに天啓みたいにしてオレは自分の鞄の中身を、というか中に入れ忘れたものの存在を思い出した。
「うぅわ」
「どしたん水上、はよ行くで」
もう頭ん中カレーの事しか無いみたいなイコさんに手を振る。しゃーなしや。
「あー、隊室に忘れモンしました、すんませんけどオレ抜きで行ってきて」
「ええ?すぐやん、待ってるけど?」
マリオがきょとんとして言ってくれるけど、まあ腹ペコさんたちに大人しゅう待っててもらうんも気が引けるし。
「いや、めんどい課題やってこと思い出してん、ついでやし向こうで聞ける奴おったら済ませてくるわ」
「そう?そしたらまた明日な」
「おん」
ウチはかなり仲良しな隊やと思うけど、こういうときはサラっとしとるんが、ええとこやなと思う。特に残念がられもしないで、間食しに行く面々に手を振って、もと来た道をとぼとぼ戻った。
街路樹として植わっている紅葉は淡く色づいて、でもまだ歩道を埋めるほどには熟れていないので、足音も淋しいまんまや。
ちょっとの道行きがやけに長く感じる、億劫さが都度積もっていく。知らん振りでどんどん歩いて本部の扉を潜った。さて誰ぞおるかいな。
端末出してチャットアプリを開く。蔵っちとかやとベストなんやけど。
「おっと」
都合窺いの文字を入力する前に目の端に掠めた人物に目標を定めた。ラッキー。
「荒船」
「おお、おつかれ」
「珍しない?」
ラウンジに長居してるイメージ皆無なんやけど。
「あー今日は偶々。シアタールーム空いてなくて」
「シアタールームて。普通に隊室やろ」
笑てるけどおまえ、それわりとアレやぞ、職権乱用てやつやぞ、隊長さん。
「まあええけど、良いトコおったわ、課題手伝おて」
「何でだよ」
何でて。
「縁?暇してんのちゃうの」
「暇ではない」
ひょいと指される黒い画面のままのタブレット。
「ほん?独り上映会かい」
【んんん一旦休憩】
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10.アーティフィー(紅葉 戻る 雲)
初公開日: 2020年05月05日
最終更新日: 2020年05月08日
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コメント
#文字書きワードパレットに挑戦。
お題)水上さんあたりで。