シエジタでエア無配を作るワンライっぽいの。
文庫or新書ページメーカーで画像4枚以内なので2000字ほどのお話。
『幸福は君の手の中に』とはあまり関係のない話です。以下から。
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騎空艇グランサイファーには、多数の団員が乗り合わせている。その人柄は個性豊かで、種族も年齢もバラバラの人々がこうして団体生活を送っているというのは、奇妙なものを感じる。ダイダロイトベルトで出会った星晶獣が司っていたものを考えれば、『奇妙な縁』とでも言えばいいのだろうか。
そんな奇妙な縁で繋がったたくさんの人々は、もちろん生活リズムもバラバラで、だからこそ、グランサイファーの艇内はいつでも人が溢れているような様相だった。通路も、食堂も、談話室も、甲板も。その用は様々だが、何がしかの理由でどこかに誰かがいて、そして誰かと話をしているという状況。
だからこそ、自室以外で一人になれる場所を見つけるのは、結構難しい。
誰かに話を聞いてほしいというわけでもない。でも、部屋にいると余計に考え込んでしまって嫌だ。
そんな鬱屈とした気持ちをどうにか少しでも晴らしたくて、広い艇内を歩き回る。
……でも、みんなは元気そうでよかった。
ルリアとビィが、カタリナが、オイゲンが、イオとロゼッタが。そして、この旅に付いてきてくれると言ってくれた皆が。この大きくなった騎空団で交流を深めてくれているのは、団長としてはすごく嬉しいことではある。もちろん、揉め事も多くあるから、一概に楽しいってことを喜んでいいわけではないことは、分かっている。
「あれ? 団長ちゃん?」
談話室を覗いた後に立ち去ろうとすると、目の前から金髪の男が歩いてくるのが見えた。前髪を一房だけ跳ねさせている男は、この騎空団の一員でもあり、そして全空最強の武器の使い手集団『十天衆』の頭目でもあるシエテだ。
「どうしたの、団長ちゃん。入らないの?」
「え? ……あ、はい。ちょっと……」
「……ふぅん?」
シエテは歯切れ悪くジータを見下ろして何か考え込んだ後、こっち、と言ってジータを促した。
何も言わずにシエテが向かった先は甲板だった。だが、シエテはまだ歩みを止めず、そのまま見張り台の方へと向かい、上っていく。そうして梯子を上り終えると、そこには誰もいない。シエテは黙ってそこに座り、横を示した。
おずおずとジータが座ると、何かあったわけ、と問いかけてくる。
「……何かがあったわけじゃないんです。……でも、怖くなった、というか」
「怖い、ね」
その言葉に、はい、と頷いた。
「みんな、私を頼ってくれています。私の言うことを信頼してくれて。……でも、怖くなるんです。私がしていることは間違っていないのか、って。みんなを危険に晒してないのかな、って」
実力は、もちろん信頼している。適正に合わせて依頼を割り振ってもいる。だが、それが正しいのか分からない。特に、魔物討伐や盗賊や野盗の制圧の依頼に関しては。
「依頼者の皆さんのためとはいえ、本当にこの人数で、この人選で間違ってないのか不安になる時があるんです。大怪我をしてこないか、……死んで、しまわないか」
「……あぁ、それで」
シエテが不意に納得したように呟いた。そして、ジータの手よりも大きな手が頭にそっと触れる。
「ジータ、俺の方見て」
俯いていた膝から顔を上げて隣に座るシエテを見ると、あまり見ないような真剣な表情でこちらを見下ろしていた。
「今のやり方はやめたほうがいい」
「今の、って……」
「お前が剣を持って戦う依頼にできる限り行くことだ。それ、かなりの負担になってるだろ」
「そんなことは……」
ないです、と言おうとして唇を噛んだ。シエテの言う通り、かなりの負担になっていた。だから最近は、近場の依頼であるならルリアとビィは置いて行くことも多い。彼らが疲れ切っているのが目に見えて分かる時があるからだ。それでも付いてこようとはするが、疲労の色が濃い彼らをジータ個人の不安を払拭するために付き合わせることは忍びなく、それとなく理由を付けて艇に残していた。それが、彼らにとって更なる心配を呼んでいるのは、ジータだって分かっている。だが、どうしても怖いのだ。信じて送り出した皆が、無事に戻ってきてくれるのかどうかが。
「誰も言ってないみたいだから言っておくけど」
何も答えられないでいると、シエテがまた口を開いた。
「お前のエゴが誰よりも皆に心配を掛けていることに気付いているのか」
「心配……? 私が、皆に、ですか?」
「そう。ルリアに言われたよ。ジータが心配だって。休みなしで依頼に行くのに笑って大丈夫しか言わなくて逆に怖いって」
「ルリア……」
脳裏に過ぎる、明るい笑顔を浮かべる少女の姿。きっと彼女はシエテだけではなく、ランスロットやシャルロッテなど、人を率いる立場の団員に同じことを問いかけているはずだ。そして、きっと、こうも問うているだろう。
私は、何ができますか、と。
「もっとさ、俺達を信頼してよ。お前の団員だろ。お前が選んで送り出すんだろ」
「そうですけど、でも! 何が起きるか、分からないじゃないですか……」
「だからジータが付いて行ってるって? けどさ、はっきり言うぞ」
シエテは言葉を切って、ジータの顔を覗き込んだ。
「こんな疲れ切ってるジータが、一番の足手まといで、不確定要素だ」
そっと顔に触れる指は、目の下をなぞっていた。
「不安で押し潰されそうなくせに出てくるな。あんまり眠れていないのもバレバレだ。それで、お前と一緒に依頼に行った団員が、一番お前のことを心配してる。……知ってたか?」
首を横に振った。そこまで見ている余裕などなかった。ただがむしゃらに、皆を無事に帰さなければ、と気を張っていたためだ。
「もっと甘えろ、ジータ。お前は皆の団長だけど、まだ子どもなんだから」
「でも……」
「そんなんで幻滅する団員はいないと思ってるよ、少なくとも、俺は」
急に柔らかな声になって、俯かせそうになっていた顔をまた上げた。目の前のシエテは、優しく笑っている。
「ここ、誰も来ないようにするから。しばらく一人でゆっくり休んでなよ。部屋じゃない場所で一人になりたかったんだろ?」
ジータが答える前にシエテは立ち上がった。
「ローアインやヴェインに頼んでお茶の用意してもらうから、少し落ち着いたなら談話室においで。待ってるからさ、団長ちゃん」
じゃあ、と言ってシエテは見張り台から下りてしまった。ジータが引き留める間もなく、だ。
「……逆に、心配を……」
呟いて、立てた膝に顔を埋めた。
不安で、心配で、だからこそ皆と一緒に行動していたそれが、逆に皆の不安を煽っているなど考えたこともなかった。
「……子ども、だなぁ」
そして、自分自身が、一番周りを見れていなかったことも。今シエテに指摘されなければ、きっといつまでも気付かなかっただろう。皆、気付いていてもジータを気遣って言わないことが多い優しい人達だから。
そう思うと、シエテの言葉は刺さるものはあったが、ありがたかった。
そして、もう一つ。
「シエテさん、ずるい」
シエテは、分かっていたのだ。談話室に入らずに立ち去ろうとしたあの時から。
一人で気分転換をしたいだけでなく、本当は話を聞いてほしかったことも。
どうしてだろう、と思う。シエテはいつもそうだ。ジータの不安を的確に見抜いて、指摘し、そして向き合わせようとする。励ますだけではなく厳しい言葉も掛けてくる。
シエテ一人だけが、そうやって、優しさと厳しさを以てジータにアドバイスを送るのだ。
それが、どんなにありがたいことか、彼は気付いているだろうか。
そして、自分もシエテにそうありたいと思っても、不安を感じさせない彼がどこまでも眩しくて、理想の団長像であると、彼は気付いているだろうか。
「言っても、信じてくれないかな」
のらりくらりと皆の言葉を交わす男だ。そして用心深い男でもある。シエテが理想だと告げたところで、彼は笑って「またまたぁ」なんて言うのだろう。
あはは、と笑って空を見た。穏やかな、空だ。見ているだけで心が落ち着くような。
シエテにいつか恩返しをしたい、とまた一つ心に決めて、ジータは一人、その空を見上げ続けていた。
心の中が空っぽになって、皆の言葉をまっすぐに受け止められる、その時まで。