人は本当に悲しいとき、涙が出ないのだと知った。
別れよう、そう言いだしたのはレンからだったにも関わらず、自分よりも苦しそうな顔をするレンが可哀想で、そこにはもう少しだって責める気持ちは生まれなかった。
俺はやっぱりレンが好きで、レンが輝くところを一番近いところで見ることができるなら、その場所の名前が恋人だとかそんなものでなくてもいいと思った。
「オレ、本当に翔のこと好きなのに」
「悲しくないんじゃなくて、本当に悲しいからこそ、涙が出ねぇってこともあるだろ」
うつむいたレンの表情を隠す前髪をどかしてやると、深いブルーの瞳が可哀想なほど不安に揺れていた。翔はできるだけゆっくりレンの手を引いて、ソファに座らせてやる。こういう時、直ぐにでも全身で彼を抱きしめてやれたらいいのだが、生憎そうもいかないので、座らせてから自分の胸を貸してやるのだ。
「お前、なんでそう自分のことになるとわかんなくなっちゃうかねぇ。自分の出てるドラマとか見直したことねーの?そういう演技だって、してんじゃん」
飽きれたように笑う翔の声が温かくて、それに溶かされるみたいに、レンの眼からは水が零れ落ちた。心が緊張して、固まってたんだよ。お前の心が。
「ほら。やっぱり俺の思った通り」
「しょう……」
「お前に心が無いなんて、そんなことあるわけないだろ。お前は俺が知ってる誰より優しいやつだよ」
「そんなわけ、」
「ないとか、言うなよ。俺はお前の優しいところが好きなんだから」
「……うん」
「わかんねーなら頷かなくてもいいんだよ。そーゆーとこも、俺は優しいなって思ってんだけど」
背中をゆっくり撫でてやると、甘えるようにレンの身体が傾いた。できることなら、こうしてずっと暖かな部屋の中でお前を甘やかしていたい。けれど、そうしなくたって生きていけないほど、レンはもう弱くも無いから。
「……レン」
「ん?」
「いや、なんでもない。お前、泣きすぎて目腫らすなよ」
「わかってるよ」
明日も明後日も、お前はアイドルで、俺もアイドルだ。
翔の声が耳の奥で響いている。恋よりもアイドルを選ぶことを許すキミの心も、それを受け入れてしまったオレの心も、もう何もかも全てが嫌で投げ出したいと思うのに、オレは笑顔で今日も歌っている。「例え世界を敵に回してもキミを愛そう」そう歌いながら、ただ仕事を続けたいが為に簡単に恋を捨ててしまう自分が存在している。
オレは一体なにになりたいのだろう。どこへ向かっているのだろう。
止まることのできないこの身体を動かす熱も、キミが心なのだと教えてくれるなら、きっと大丈夫だと、言えるから。
カット
Latest / 94:22
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
診断
初公開日: 2020年04月27日
最終更新日: 2020年04月27日
ブックマーク
スキ!
コメント
「人は本当に悲しいとき、涙が出ないのだと知った」で始まり、「きっと大丈夫だって、今なら言える」で終わる文章。
終わらせられなかったら諦める。