外に視線を移せば、雨足がまた一つ強くなっていた。
風と雨が窓ガラスを叩く音が段々と大きくなっていく。
本来であれば本日の予定は演習であったのだが、上空の風速があまりにも強く、落雷の心配も懸念された為、急遽中止となったのだった。
「雨、強くなってきましたね」
「ああ、この様子だと落ち着くまでフライトは無理だろうな」
「デスクワーク日和ですね」
窓の外から彼女へと視線を移せば、珍しく悪戯をした子供のような笑顔を浮かべている。
「残念ながらそのようだな」
「私たちは上級大尉が大人しくされているので、今日は珍しくゆっくりと業務に取り組めますね」
彼女を含めた技術者がいつものように忙しく動き回っていないのは、フライト前の細かいチェックやフライト後の分析などがないからか。
「定次業務は完了したので、残りは雑務だけです。本日分のフラッグの調整結果、ご確認をお願いします」
「ああ、ありがとう」
差し出されたバインダーを受け取ろうとして、彼女の目を見た時に違和感を感じた。
「どうしたんですか、大尉?」
「いや、気のせいかもしれんが、今日はいつもより君が小柄に感じてな…」
少しの間彼女は眉を寄せて考えると、何か思い付いたかのように目を大きく開いた。
本人は自覚がないらしいが、感情全てが顔に出るタイプのようだった。
「多分それ、今日はヒールを履いていないからですよ」
「そうか。今日は予報が雨だったからな」
「そうです。かなり強くなると言うことでヒールは危ないかと思いまして。今日はレインブーツです」
足元を見ればいつもの高いヒールではなく、底が平らなブーツを履いていた。
「成る程。それでは確かに印象が変わるはずだな」
「男性は基本ヒール履きませんもんね」
「そう考えると、女性はファッションによっては見える世界が変わっているのかもしれんな」
ふと、気になったことを確かめたくて私は屈んだ。
「…突然のスクワットですか?」
「どうしてそういう発想になるのかね。会話の途中にいきなりスクワットしていたらそれは奇行だろう」
「大尉はいつも奇行に走ってるじゃないですか。主にフラッグで」
「全くもって失礼だな。君の前で奇行をした覚えはない」
「じゃあ、カルチャーショックか何かです。で、何してるんですか」
「君の目にはどのように世界が映っているのかと思ってな」
この視点からだと天井も高く感じるし、おそらくカタギリあたりを相手にしていたら、見上げているうちに首が痛くなりそうだ。
「私の視点になってみて、大尉はどう思ったんですか?」
「世界が少し大きく感じるな」
「じゃあ、私の方がなんだかお得感ありますね」
「何故かな」
「だって小さいより大きい方がやれること増えそうじゃないですか。ケーキだって小さいものより大きい方が嬉しいですよ」
彼女のアーモンド色の瞳が雨の空へと移る。
「空もフラッグも大尉よりも大きく見えてます」
「それは確かに、少し羨ましいな」
「でしょう?」
空を見上げて微笑んでいる横顔が青空を見るよりも眩しく感じた。
「いい話を聞かせてくれたお礼に、ケーキをご馳走させてもらえないかな」
「え、いいんですか!?」
彼女が振り向いて、見上げた先は私となる。
今日一番の嬉しそうな顔を見て、こちらまで嬉しくなってしまう。
「今日の報告書だけ送信したら、私も今日は完了だ。少しだけ待っていてくれるか」
「じゃあ、雑務が終わったら休憩室で待ってますね」
「すまないが、そうしてくれ」
「じゃあ、今日の調整結果にサインをください!」
「了解した」
彼女から報告書を受け取って、書類に目を落とした。
end