杉元佐一と尾形百之助を二人並べて、
どちらが素直じゃ無いかと問い掛けた時、
恐らく大抵の人間が尾形の事を指すだろう。
確かに屁理屈や的確に心を抉る嫌味など、
尾形の言葉を額面通りに受け取るのは難しい。
だが、実際は事実と異なる。
もしも恋人の事の事を好きか?と問い掛けられた時、
何でも無い顔で、当然だろう?と応え、
むしろ何でそんな当たり前の事聞くの?と首を傾げるのは尾形の方。
杉元は、そういった色恋についてとことん弱く、
顔を真っ赤にして好意を否定する、
言うなれば小学生男児のような男なのだ。
天性の皮肉屋により勘違いされがちだが尾形はむしろ、正直すぎるだけ。
外聞の性質が本来と異なる2人は、
実は恋人同士である。
素直じゃ無い杉元と素直すぎる尾形。
この2人が些細な擦れ違いから、
周りを巻き込んだ大騒動を引き起こす事を、
まだ、だれも知らない。
「なー、尾形ぁ!今日サークルの飲み会だろー??
俺も参加しちゃ駄目??」
朝から甘えた声を出して腰に手を回す杉元を、
濡れた顔を拭きながら鏡越しに見た尾形は一言「なんで」と問い掛けた。
杉元と尾形は同じ大学に通うが、別の学部である。
教育学部の杉元と薬学部の尾形。
文系と理系で、校舎も違うので本来であれば余り関わりの無い筈の2人だが、
矢鱈と顔の広い共通の友人、白石によって引き合わされた。
初めこそ、歯に衣着せない尾形の言動に杉元が腹をたてては喧嘩をしていたが、
尾形は言葉こそ選べないが基本、
間違ったことは言っていない。
その事に気付いてからは、
言葉の内容を理解しようとすれば
杉元自身も付き合い易くなり、
尾形もまた、自分の言葉を正しく理解しようとする杉元を見て、
言葉を噛み砕き、投げつけていた言葉をきちんと選んで手渡すようになった。
そんな歩み寄りによって、根が単純な杉元は彼に対しての認識を大きく変える。
そして、その好意が発展していくのに、そう時間はかからなかった。
杉元から告白し、2人は付き合い始め、
居心地がいいからという理由で尾形が杉元のアパートに半同棲的に転がり込んできて、
現在に至る。
何だかんだ喧嘩をしながらも、2人の関係は良好だった。
けれど、杉元には、ついてまわる不安が消えない。
気紛れな尾形の事。
いつか、自分と同じように尾形の良さに気付いてしまったら。
そう思うと気が気がじゃないのだ。
特徴的だが顔も良く、男のくせに妙な色気がある。
元々異性愛者だった杉元が陥落してしまった程なのだから、
酒の席に尾形を1人で参加させるのが心配で仕方が無い。
けれど、それを言ったら信用していないと思われてしまいそうで、
彼に伝える勇気も杉元には無かった。
「……別にいいけど」
尾形が所属しているサバゲ部は一回の活動に人数を割く事から、
基本的に外部の人間に対して寛容である。
それを知ってからというもの頻繁に参加したがる杉元に、
尾形は気付かれないように溜息を吐き出した。
杉元は顔が良い。
勿論、顔を横切る大きな傷のせいで誤解されがちだが、
本来の杉元は人懐っこい性格である。
サバゲ部にはミリオタ女子と呼ばれる女性陣も多く存在している為、
イケメンで、なおかつ大型犬の様に愛想を振りまく杉元は、
彼女たちにとって速攻狙うべき的だ。
その証拠に杉元がバイトなどで参加できなかった飲み会などで、
尾形は何度も「今日は杉元君こないの?」と見知らぬ女に問いかけられている。
その都度、曖昧に誤魔化すのだが、内心気が気じゃない。
元々性に対して強い拘りのなかった尾形と違って、杉元は異性愛者だったのだ。
守ってあげたくなるような、そんな女性に彼が惹かれてしまったなら、
自分に勝ち目はないのだから。
「「はぁ……」」
どちらともなく吐き出された溜息。
お互い同じような内容で悩んでいる事なんて露とも気付かない二人なのであった。
その夜、学生御用達の居酒屋で、
総勢20名程集まった飲み会はどんちゃん騒ぎとなった。
杉元が誘って連れてきた白石は女性陣に囲まれて鼻の下を伸ばしている。
何となく、自然と対面に座った杉元と尾形は、
特に騒ぎに混じる事なくいつものように飲んでいた。
杉元は尾形をちらりと見ると、一生懸命枝豆と格闘している。
サバゲ―で狙った的は百発百中の腕を持つ尾形は意外と不器用だ。
今も力加減を誤って飛び出した枝豆に驚いてこっそりと慌てている。
あぁ、可愛いな。
そんな姿を誰も見ていない事を確認して、杉元はホッと一息つく。
「いえ~い!杉元ぉ~飲んでる~?」
「うっ酒くせ!」
ガバッと抱き着いてきた白石に顔を顰めた杉元は、
まとわりつく彼の頭をぺしんっと一発叩く。
白石に続いてわらわらと集まってきた女性陣は、
杉元を見ると嬉しそうに表情を綻ばせていた。
それを視界にいれて、尾形は不機嫌そうに眉を寄せる。
きゃっきゃと騒ぐ声が耳障りで、尾形はグイっと酒を煽った。
「もぉ~尾形ちゃんも、杉元も!こんな所で二人で向かい合ってさぁ!
こ~んなに可愛い子たちがいっぱいいるのにお前らホモかよ~」
白石に悪気はない。
知らないのだから仕方ない。
そうは思うが、彼の言葉は杉元と尾形に重くのしかかる。
「なんだよ、白石、仲間に入れてほしいのか?」
先に口を開いたのは尾形だった。
フッと瞳を歪めて笑いながらグラスを置いた尾形は、
挑発するような表情で白石を見る。
それを向けられた白石と、その隣に座る女性が一瞬息を呑むのが分かった。
「やだぁ!尾形君ってなんかエロいよね!」とはしゃぐ声に不機嫌になった杉元は、
ドンっとグラスを強めに置くが、その音は喧騒に掻き消される。
俺の尾形をエロい目で見んじゃねぇよ!そう言えたならどんなに良かったか。
杉元君も尾形君もフリーなの?と問いかけてくる女性陣に、
何て答えていいものか分からず迷っていると、白石が「この二人はダメだよ~」と笑う。
「特に杉元にはだ~いすきな彼女いるもんね~?」
「は!?」
突然投げ掛けられた言葉に驚いた杉元は、
核心を持った白石の顔にザッと顔を青くさせた。
普段の白石なら、人の秘密を嬉々として話すような男では無い。
酔いすぎだこの馬鹿と心の中で罵っていると、
ショックだとか誰?だとか詮索するような声があがった。
「相手はわかんないけどぉ、そうなんじゃ無いの??
付き合ってるかどうかはおいといて、
好きな子はいるでしょー!」
ピュウッと口笛をふいた白石に、
杉本の顔が真っ赤に染まる。
尾形の前で頷くのは恥ずかしすぎる。
心なしかじっと見られてるような気がして、
余計に緊張してしまった杉元は白石の頭を再び叩いた。
「別にそんなんじゃねぇし!
成り行きで一緒にいるだけで…っ」
「えー?やっぱりいるんだぁ!ショック~」
キャッキャと飽きもせず、
それはそれで騒ぎ出す女性陣にうんざりしながら溜め息を吐き出すと、
今度は尾形に同じような話が振られる。
いつの間にか頼んでいたジョッキからチラリと顔を上げた尾形が、
下らねぇこと言ってんじゃねぇよと一蹴した。
何となく尾形の不機嫌を察したのか、
散り散りになった面々にホッとしていた杉元は気付かない。
尾形の瞳が、物憂い気に伏せられていた事を。
「なぁ、何か怒ってる?」
飲み会の帰り道、黙って先を歩く尾形に杉元は困ったように問い掛けた。
やはり原因は白石達に絡まれたことだろうかと推察した杉元は、
あいつらにも悪気はないんだしさぁとフォローをいれる。
「……別に、怒ってるわけじゃねぇ」
確かに、ポツリと呟かれた尾形の声には怒りを感じない。
けれど、辛いときに辛いと言えない彼が、
何かを耐える時と同じ空気を感じて、
杉元は咄嗟に尾形の手を掴んだ。
驚いた様に目を瞬かせた尾形は、
次いで苦笑いのような表情を浮かべたかと思うと、
スルッと手を外してしまう。
行き場の無い手を彷徨わせた杉元に向かって、
尾形はゆっくり首を振った。
「別に怒ってねぇよ。
普通そうだよなぁって思っただけだ」
「普通って……?」
何でもねぇよと言った彼は、杉元を置いてさっさと先に行ってしまう。
何もかも諦めたような、そんな顔に苛立ちを覚えて、
その日、杉元は尾形を手酷く抱いた。
もうやめてくれと懇願する尾形の言葉を無視して突き上げれば、
「あっあっ」と言葉にならない声を上げる。
快楽に蕩ける尾形の顔を見下ろすと愛しさが湧いてきて、
杉元は普段は伝えられない言葉をこの時ばかりは口にした。
「可愛い……、好きだよ、尾形」
ギュッと中が締め付けられるのがわかって、
限界に達しそうなのを堪えながらうわごとのように、
好き、好き、と繰り返していると、
尾形の瞳から涙が零れた。
「ふ、ぁ…っ」
ビクンッと一際大きく体をはねさせて、尾形が達したのが分かる。
お互いの呼吸だけが響く部屋の中、
汗まみれになった杉元は尾形の頬をするりと撫でた。
「尾形、好きだよ」
「……あぁ」
受け入れてもらえたと嬉しそうに笑った杉元は、
尾形が何か言いたげにしていた事に気付かなかったのだった。
次の日の朝、目が覚めた時にはもう既に杉元の隣は抜け殻で、
尾形は暫く自分の家に帰るという旨のメールを残すのみ。
昨夜の彼の様子がいつもと異なっていたことを、今更ながらに考える。
虫の居所が悪かったのか、何にせよ、
その一端である白石には一言文句を言ってやらねばと、
杉元は出掛ける準備を始めた。
薬学部の尾形は研究の為に籠もることが多々あるので、
杉元は今回もきっとそうなのだろうと思う。
本格的に2人で住み始めてもいいのに、尾形はいつもそれを拒否した。
「お互い1人になりたい時もあるだろう」という意見に、
2つ部屋がある所に住めば良いと提案するも、
家賃がもったいないと一蹴されてしまう。
殆どこっちにいるのに、
それは良いんですかねぇとも思うが、
それが尾形なりの断りなのだと気付けば、
杉元もそれ以上何も言わなかった。
誰だって傷付くのはいやなのだ。
同じ大学構内、校舎も違えば会うことも中々無い。
気付けば1週間。
杉元は尾形の顔を見ていない。
何となく、メールもし辛くて、杉元は溜め息を吐き出した。
「辛気くさい顔をしてどうした?」
顔を上げれば、1つ下の学年に入ってきた鯉登が、前の席に腰を下ろす所だった。
「坊ちゃんが何でここにいるんだよ」
「坊ちゃんって言うな!!
今日は、月島がこっちで講義をすると聞いて、
あいつの雄姿を一目見てやろうと思ってな」
本来、杉元と鯉登はあまり接点はないが、
この大学の教授の息子である彼は、
准教授の月島にやたらと懐いており、
杉元の受けている講義で教壇に立つ事が多い月島を、
先程のような理由で追いかけている彼と何度か顔を合わせている内に、
交流が始まった。
どこから目線だよと呆れたように溜息を吐いた杉元は、
何故か誇らしげに「見事なもんだった」と答える鯉登を見て、
そういえばと思い出す。
「お前、尾形と同じ専修だったよな?」
「ん?あぁ……最近の奴はもっぱら研究室の方に籠ってるがな」
相変わらず嫌味な奴だと顔を顰める鯉登に対して、
忙しいのは本当なんだなとホッと胸を撫で下ろした。
「なんでお前が尾形の事なんて気にする?」
純粋に疑問に思ったのか問いかけてくる鯉登に、
杉元は思わず言葉を詰まらせる。
何度か合同の飲み会で一緒になった事はあるものの、
周囲にバレない様に付き合っているという事もあり、
些細な小競り合いなどを見せている内に、
何故か犬猿の仲だと認識されていた。
鯉登からしてみれば、
好きでもない相手の様子を聞いてくる杉元が、
不思議で仕方ないのだろう。
「別に…、何となく思い出しただけだけど…」
言い淀んだ杉元だったが、さして興味もないのだろう。
ふぅんと返事をした後、
トレイに乗ったカレーに口をつけ始めた鯉登を見て、
インド人みてぇだなと関係ない事を思った杉元は、
自らもさっさと食事を済ませてしまおうと箸を動かし始めた。
「そういえば、お前、付き合ってる人がいるらしいな」
「ぅぐ…っゲホ…ッはあぁ!?」
思わず咳込んだ杉元に、そっとコップを差し出した鯉登は、
「違うのか?」と首を傾げている。
一気に水で流し込んだ杉元は、何の話だよ!と声を荒げた。
「この間、サークルの飲み会でそんな話が出たって、女子が騒いでいた」
「……、そんな噂、鵜呑みにすんなよ。
付き合ってるっていうか…腐れ縁って言うか…そんな大層なもんじゃねぇよ」
「……ん?好きだから付き合ってるんじゃないのか…?」
「なんで、そんなに聞いてくるんだよ。
お前、別に俺にそんな興味ないだろ」
嫌そうに眉を寄せる杉元に、ふむ、と頷いた鯉登は、
「確かにお前にはさほど興味はないな」と答える。
だったら、何故と問いかけようとした杉元に、
鯉登は「好きな人がいるというのは、どういう事かと思ってな」と続けた。
「何?お前好きな子いるの?」
「それが分からないから聞いているんだ」
何を聞いていたと告げる鯉登の頭を、
一発殴ってやりたい衝動に駆られるが、
杉元は深呼吸して耐え、少し考えて、
「幸せな、事なんじゃねーの?」と答える。
「でも、お前はそういう訳じゃないんだな」
鯉登の言葉に何も言えなくなった杉元は、
少し、彼の真っすぐ差が羨ましいと思った。
「…お前は、そういう所は誠実なのだと思っていたんだけどな」
特に、呆れている訳でも軽蔑している訳でもないのだろう。
軽く告げられた言葉に厭味は無くて、
杉元にも怒りは沸いてこなかった。
それから食事を終えて別れた二人だったが、
杉元は、何とも言えないぐるぐるとしたものを抱えているような気がする。
最後に見た尾形は、一体何を言おうとしていたんだろうと思ったが、
スマホの画面を眺めて見るもののやはり、連絡は取れなかった。
ブーっと音を立てたスマホを見て、尾形は差出人を確認し、溜息を吐く。
自分から忙しいと言ったものの、こうも連絡がこないとは思わなかった。
互いが一人でいたから一緒にいるだけ。
それが杉元の本心で無い事は分かっているつもりだが、
どうも、上手に受け入れる事が出来ない。
それが、本音だったらと思うと、確認するのも躊躇われた。
「なんだ、息詰まってるな」
声をかけてきた月島に、尾形は苦笑いを浮かべる。
「おかげさまで」と返すと、月島は少し休憩しようと言って、
あらかじめ買ってきたのであろう缶コーヒーを差し出した、
礼を言ってそれを受け取ると、
尾形は今まで睨めっこしていたパソコンの画面を閉じ、
スマホを片手に再び溜息を吐き出した。
「お前が携帯を気にするなんて珍しいな」
「気にしているように見えました?」
違うのか?と問いかけてくる月島に、
尾形はどうでしょうねと返す。
彼のこの何とも捉えようがない話し方はいつもの事で、
月島自身も気にした風はない。
だが、年長者として、それなりに、
彼が悩んでいるというのは理解出来たのだろう。
話して楽になるなら聞くぞと声をかけた。
「……月島さんは、好意を持った人間が、
自分の事を好きじゃないと知った時、どうしますか?」
「…なんだ、意外な悩みだったな」
まさか話すとも思っていなかったのだろう。
月島は一瞬、面食らった顔をしたが、
真剣に悩んでいる人間を茶化すような神経も持ち合わせていない。
うーん、と眉を寄せると缶コーヒーを意味もなくゆるゆると振って見せた。
「俺なら、という話になるが……恐らく切り替えるだろうな」
「切り替える…?それはどういう…」
「俺も正直、そんな惚れた腫れたを経験したことがないから分からんが、
好きだと好意を伝えて、相手からの返しがないなら、
やっぱり諦めるだろうな」
そういうもんですかと問いかける尾形に、月島はそういうもんだろうと答える。
「目には目を歯には歯をって考え方は極端だが、
やはり、一方的に相手を思うだけなのは疲れるだろう。
その苦労を買ってでもしたいという奴がいるのも否定はせんが、
俺には無理だな」
「……そうですよね」
相手を想っている分、同じだけ想ってほしい。
当たり前の感情は、まるで我儘かの様に言われるが、
誰だってみんなそうだろう。
けれど、尾形はその点において、
見返りを求めるという行為を敬遠していた。
望めば望んだだけ与えてくれる環境なんて知らない。
ましてや、好意を向けられる事だって。
「おっ月島ぁ!ここにいたのか!」
ガラっと音を立てて開けられた扉に、
月島の眉がピクリとはねた。
それを横目で確認した尾形は、開け放たれた扉の向こうで、
満面の笑みを浮かべる鯉登を見て肩を竦めて見せた。
「昨今の英才教育は漢字の読み方も教えてくれないらしい。
関係者以外立ち入り禁止の文字が読めないんですか?」
「キエェ…っ尾形貴様…また嫌味を言いよってっ」
「今のは貴方が悪い!研究室に無断で入ってくるとは何事ですか!」
叱りつける月島にキェ…ッとショックを受けたような顔をした鯉登だったが、
すぐさま許可を取ってくる!と言って駆け出して行った。
その姿がまるで犬のようで、尾形はくつくつと笑うと、
隣で溜息を吐き出した月島に「大変ですな」と告げる。
「…お前もあの人を一々揶揄うな。面倒くさい」
「面倒くさいという割には、可愛がっているじゃないですか」
それとこれとは話は別だと言った月島は、
バタバタと近付いてくる騒がしい足音に、再び溜息を吐き出した。
「月島ぁ!許可を取ってきたぞ!」
「研究室では静かに!!今は尾形が論文の整理をしています。
ここで見学をしたいなら、その書類整理を手伝ってください」
分かった!と言って尾形の傍に来た鯉登は、
どれから整理したらいい?と問いかける。
簡単に指示を出すとその通りに並べ替えてくれる鯉登に、
地頭は悪くないんだよなと失礼な事を思いながら、
それを眺めていると、そういえばと顔を上げた鯉登が、
尾形を見下ろした。
「杉元が、お前の事を気にしていたぞ」
「は?」
鯉登の口から出た名前に、尾形の心臓が一つ跳ねる。
平静を装って、そうですかと返すと、
返事がもらえたのが嬉しかったのか、
食堂で一緒になったんだけどなと続けた。
「あいつの彼女は可哀相だ」
「……どうしてです?」
「相手の子はきっと杉元を好きなんだろうが、
杉元はそうではないと言っていた。
想い方は人それぞれなんだろうが…。意外だったな」
尾形は、鯉登の言葉を静かに受け止める。
鳴らないスマホも、そういう事かと納得した。
「月島さん……先ほどの話ですが…」
「ん?」
「どうも、月島さんの言った通りだったようです。
見返りのない感情を持ち続けるのは
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