↓前回のもの
 同居人の片割れは、ほっとけなくてつい世話を焼いてしまう、弟のような人だった。弟、と言えば、蒼星のこともそれなりに面倒を見ていると思う。でも、蒼星はつい頼りたくなってしまうこともあるし、兄貴みたいな面もある。顔は似ているけれど、中身は全く似通っていない。
 実際、俺だって弟だし? 年上の人を弟というのは失礼にあたるかもしれない。強いて言えば、小学校六年生が、一年生の面倒を見てあげるのに近いのかな。迷っている手を引いて、こっちだよと教えてあげたくなる。
 紅陽さんは、イタコ型の有名な俳優だけど、嘘をつくのが下手だ。全部顔に出てる。眉毛をハの字に曲げて、困ってますって文字を貼り付けているのも同然だった。
「どうしたの……?」
「あ~、いや、その~……。もうちょっとだけいない?」
 それじゃあ、と立つ袖を思わず掴んでしまった。困らせたかな。でも、直感で今帰しちゃいけないなと思った。もうすぐ、蒼星も帰ってくるしさ。苦し紛れの言い訳。大嘘だった。蒼星がいつ帰宅するかなんて知らない。でも、紅陽は少しも文句を言うことなく、その場に座った。
 紅陽の来訪は突然だった。いつもより前髪が乱れてきたから、走ってきたんだろう。「お邪魔します」という控えめな声は、居間にいる俺にも届いた。
「あ、紅陽さん。おつかれさま」
「……こんにちは。紡くん」
 ちょっと間があったな。一瞬だけ、俺を見てがっかりしていた。蒼星に用事があったんだろう。あいにくあいつはいない。教授の呼び出しだとか、なんとか。ぶつくさ言いながら出て行ったのは丁度三十分前。見事にすれ違っていた。
「紅陽、今日は仕事?」
「深夜ラジオがね。その前に顔だけでも見ておこうかなと」
「律儀だなー」
 律儀というかブラコンに近いと思う。名古屋に来るときは必ず顔を出しているし、休みの日には洗濯畳み、部屋の片付け。俺なら姉貴にそんなまめなことできないだろうな。
 感心しつつ、お茶を出してたわいもない話をした。蒼星は迷惑かけてない? とか 大学生活はどう? とか、当たり障りのないものばかり。二人きりになると、未だに何を話せばいいのかわからない。そうして一時間くらい経った頃、空気に耐えきれなかったのか、帰るといった彼を引き留めてしまった。
「はぁ、引き留めてどうするつもりだよ」
 ケトルのスイッチを入れ、キッチンでため息をつく。お茶のおかわりでもと、言い出したのは自分だが、もう帰っているかもしれないな。
 ストレートに「悩みくらい話せ」といっても口を割らないだろう。話の切り出し方に迷いながらキッチンを出る。紅陽は、まだいた。携帯とにらめっこしている。蒼星と連絡がついたのかな。俺がソファに座ると、彼は顔を上げた。ありがとうといった笑顔が歪で、明らかに無理をしていた。
「これ、飲むと落ち着くよ」
 目の前に赤いマグカップを差し出す。ハチミツ入りのホットミルク。まだ日は高かったけど、不安な時に飲んだら落ち着くものがこれしか思いつかなかったから、仕方ない。
「君にはお見通しなんだね」
「男前が台無しだからな」
 紅陽は目を丸くしたけど、観念したように目を伏せる。両手で大事そうにカップを包んで、一口含んだ。緊張がほどけるように、肩の力が抜ける。
「最近眠れないんだ」
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紡紅続き
初公開日: 2020年04月25日
最終更新日: 2020年04月25日
前回の続き。四月の紡紅の日なので書き上げたい。
※特ストまでのネタバレを含みます。
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