ロドスの深部。
穏やかな人工の明かりの中で、花々が空調が起こす温風に揺れている。
「あら、ドクターくん。ようこそ」
温室へてくてくと足音を響かせて入ってきたドクターに、パフューマ-……ラナは穏やかに笑みを浮かべる。ドクターの背後には、今日の秘書であるクーリエが付き従っていた。
このところ、何かとドクターはこの温室へやってくる。
新しく来たエンカクの趣味がきっかけなのか、あるいはドクターが温室を好んでいるのか、そこは定かではないがラナにとっては歓迎に値する出来事だ。ドクターはほっとくと上級理性剤で蒸発した理性を補填しては、飽きることなく指揮を執るところがあった。新たな戦地を開拓することもあれば、以前も赴いた場所へ物資を取りに行くこともある。
さらに時に原石を砕いてまで指揮を執るので、休息とは無縁であることも少なくない。
指揮が終われば基地の整備の指示を出し、疲労した職員を休ませ、購買所で必要物品を購入する。
そんなドクターが、たとえ自分のためではないとはしても、温室へ来てくれることがラナには喜ばしかった。
「そう言えば、昨日までは龍門付近に行っていたのよね?」
クーリエに尋ねれば、頷きが返る。
「ええ。資金提供の関係で、お近づきになれそうな方がいらっしゃったので」
「ドクターくん、もしかしてそれでお疲れなのかしら?」
「大正解ですよ。……肉体的疲労というより、気疲れですが」
「うんうん。お金を出してくれる相手だもの、気遣うわよね」
ラナがそう言うと、妙な沈黙が落ちた。ドクターはてくてくと歩いて、ローマンカモミールの芝生へぼすりと横たわる。クーリエがさっと近づいて、枕代わりに自分の上着を脱いで置いた。
着やせするタイプなのか、均整の取れた細身の体を露にしつつ、顔には苦笑をにじませてクーリエが言う。
「いえ、その。気を使ったのは、ええと。シルバーアッシュ様と、エンカクさんに対してでして……」
「……ええと?」
事態が良く飲み込めず、ラナが首を傾げる。
クーリエは振り返ると、ドクターへ声をかけた。
「代わりに説明しますよ、よいですかドクター」
ひらひらと片手をあげ、ドクターが親指と人差し指で輪を作る。どうやら『OK』ということらしい。
「昨日あったのは、ロドスで生産できる金属に関する商談なんです。シルバーアッシュ様はその補佐で、エンカクさんは護衛の一人です」
「なるほどねぇ。……でもそれで、どうしてその二人が、気疲れの原因に?」
首を傾げるラナに、クーリエが苦笑して話を続ける。
こういう話だった。
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ロドスの持つ生産技術の中でも、特別画期的なものに『黄金』がある。龍門を中心に流通する金の延べ棒の形をした通貨であり、その精度と品質から取引の数は非常に多い。そのため声をかける資産家も少なくはなく、この度、交易所が『3』になったことをきっかけに、取引先を増やす計画が持ち上がった。
その1つとして名乗りを上げた、龍門の商家の客間で、ドクターはマスクはそのままに取引相手と相対していた。
いや、相対している、というと語弊がある。
「なるほど。良い目と耳をお持ちのようだ」
「いやはや、寄る年波には勝てませぬわ。最近は、こう、箪笥を揺らす騒ぎでも音が聞こえませんのでなぁ」
「箪笥を揺らすような騒ぎに立ち会えるのであれば、未だにご立派という証拠では」
「いやいや。愛でるに良い花が多くてのぅ、つい立派なままになってしまうのだ。あっは、はっ、はっ、はっ」
先ほどからこの調子で、商家の長との会話のほぼ全てを、シルバーアッシュが取り仕切っていた。婉曲表現とそこはかとない嫌味の応酬に、ドクターには口を挟む暇がない。
結論を言えば『取引先の1つにするにあたり、他の取引先と同様に支払いをお願いしたい』というのが、ロドスの意向だ。
一方でこの商家の長は、そこに色を付ける代わりに『おまけ』が欲しいのである。
「特にあのオーキッドと言ったか、彼女は良かったのぅ。それからチェン殿の元からホシグマ殿が一時的に配備されているとか、彼女も良いのぅ」
やんぬるかな。
長の希望するおまけとは『取引時に、贔屓にしたい子をおいて欲しい』ということだった。
ぶっちゃけ、風俗店じゃないんだけどなんでそんなこと言ってるの、というドクターの実に簡素な疑問はさておいて。
途中までは長とドクターが話をしていたが、この『贔屓したい子』の話で長が『イェラグの巫女もよいのう』と言い出したのが大問題だった。イェラグの巫女と来たら、それはプラマニクスの他には誰も居ない。
シルバーアッシュの妹、というところはもちろんだが、そもそもロドスにプラマニクスは居ないことになっている。
いつの間にかやってきたのはもうどうしようもない。が、最低でも現在進行形で戦場に出ていることは隠さないと、イェラグの民衆に大損害だ。まさか、国の支柱で、カランドの巫女で、イェラグ全土の宗教的なリーダーである彼女が、現在進行形で感染者塗れのロドスにいること自体が、おそらくは危険視される可能性が非常に高い。
何だったら、蔓珠院の長老団がロドスそのものに難癖をつけてくるだろう。
(どこから知ったんだ、この老人……)
色ボケ老人と罵るのは簡単だが、手札を増やすのに役立っていればもはや止める者はいなかったのかもしれない。龍門ならではの絢爛豪華な赤金の細工を背景に、カラカラと笑う老人は、実に楽しそうだった。
「なるほど。肉感のある、真面目そうな女性がお好みということでしょうか?」
「そうそう。なかなかよいと思うぞ、うむ。ロドスは別嬪が多いからな」
(舌戦の参考:あとで京極夏彦成分チャージして書く、婉曲?)
(おじいちゃんの参考:あとでロロリトのムービー見る)
(孫娘参照:あとでロロリトの姪っ子見る)
(おじいちゃん深層:半分、興味本位。半分、生き残り戦略。ウルサスの件を見て、ロドスの実力を今後のためにも自分の眼でチェックしておきたくなった。ロドスの女性陣べっぴんさんは本心。基本的に下半身に忠実に生きている。ガチ敵対の予定はなかったのだが、うっかりカランドの巫女の話出したせいで話が吹っ飛んだ挙句、私有の護衛を第二スキル発動エンカクさんにボコられる羽目になったが、楽しかったし戦闘狂の孫娘も喜んでたのでロドスとはうまいこと丸く収めて取引を続けることにした。)
「……では御身は、イェラグの民の誇りを、白濁に浸したいとおっしゃるか」
「んん? ……いや。巫女の背徳感はたまらんが、ふむ」
そこじゃない。
ドクターの胸中のつぶやきを、おそらく長は知らないだろう。
「盟友。条件云々と言うことを、抜きにしてもかまわないか」
逃げるか、いや。
それとも、立ち向かうべきか。
判断を迷ったドクターを、子どもでも抱えるかのような勢いでシルバーアッシュが抱え上げた。代わりに、この狭い通路で抜刀
・抜刀:狭いので短刀という概念を突き崩してみたいけどちょっと想像がつかぬ
・居合:入ってきたものを切ればいいので殿要素が強い。
「── ……そら、殺気が丸出しだ」
ぐるん。
開店した
「……ほぉ」
細くなった眼の奥で、
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