夢を見た。
いや、夢と言うべきか。夢にしては変に現実味を帯びており、現実にしてはふわふわとした違和感を感じた。私も夢はよく見る方だけど、このような内容は初めてだった。しっかりと見えてはいないけれど、牢獄のような場所で暴力を受ける幼い子供がいた。その幼い子供は、父親らしき男から髪を引っ張られ、顔を殴られ、床にへばりついて、大声で泣いていた。やめて、痛い、助けて、と叫んでいる。
??「…………」
私はそれを宙に浮いているような状態で見つめていた。許せない、止めてあげたいのに、助けたいのに、見たくないのに、身体が動かない。その光景を見ているだけしか出来ないなんて、夢とはいえ、どうしてだろうか。暴力を振るっている男は、とても愉快そうに、楽しそうに笑っていた。幼い子供の身体が完全に動かなくなって、男は立ち上がってこちらを振り向いた。何故か、その視線から目が逸らせない。身体が動かないからか。
??「オマエモコロシテアゲル」
【アノコノヨウニ】
男はニヤリと笑い、私から背を向けた。私が見ていたその夢は、そこで、途切れた。
これは夢なんだよね?
=2F 客間1=
夢を見た。
とはいっても、内容を全て覚えているわけじゃない。一部の記憶だろう。しかし、あの夢、とてもじゃないが、いい気分はしない。ゆっくりと目を開いたが、あまりの眩しさに目が開けきれず、手で押さえる。段々と目を慣れさせ、視界がぼやけながら、前をぼーっと見ていた。
??「…………」
あれ、良く考えれば、私は何で寝ていたんだろう。寝る前の記憶はないが、いつの間にか寝ていたみたいで、目を開けた先に見えるのは真っ白な天井。しかし、真っ白な天井にしては、違和感を覚えた。
??「っ……いった……」
起き上がると、何故か頭が痛くて、またベッドに逆戻り。身体は気持ち良く寝ていたような感覚はするんだけど、あの夢といい、起きたら頭痛くなるとか、憂鬱になる。もう一度ゆっくりと起きると、もう頭痛はなくなっていた。
??「……ここ、どこ?」
【No.02】篠田 優衣(シノダ ユイ)
どう考えても、頬を少し引っ張っても、痛い。私、誘拐でもされたのかな。まず、ここは私の家ではない。確か私は、そうだ、体育があって、教室に戻って藤詠君と副臣君と話をしながら、皆の準備が終わるのを待っていたんだ。それから何故か眠たくなって、それで、うん。それから思い出せない。とにかく、私は学校にいた。それなのに私は教室にいない。家でもない、知らない場所にいる。この部屋はまるでゲームで見た某ホラーゲームの世界のようだ。
優衣「いやいやいや…そんな事はない、はず…」
枕元にあった自分の眼鏡をはめて、身体を起こし、ベッドの下にあった靴を履いて立ち上がり、身体を少し動かす。この部屋の状況は、真っ白い壁に机、椅子、ベッド、そして押入、いや、クローゼットだ。窓はない。扉には鍵が掛かっていて、こちらから開けないと今の所開く様子はない。これからどうしようかと左手を腰に当て、右手を顎に添えた。
優衣「……ん?これは……?」
立ち上がった事により視野が広くなり、机の上に鍵とメモがあった事に気付いた。さっき見渡したが、見落としたのだろう、と思いながら机の上にある鍵とメモを取り、メモの内容を見る。
優衣「……"私の初恋の人は誰だ"?」
そんな事を聞かれても、初恋か。
優衣「私は誰だったっけな……」
それはいいとして、このメモは取っておこう。ポケットにメモと鍵を忍ばせると、ポケットに何かが入っている事に気付いた。これは、私の相棒、携帯じゃないか。電波は入っていなかったが、妙な数字がある、百という数字だ。これが何を意味するのかは分からない。
優衣「…ま、圏外よりマシかな」
とりあえず一旦電話を掛けようとして、電話番号を入力して携帯を耳に当てる。しかし、虚しい事にその電話は繋がる事は無かった。うん、予想はしていた。
優衣「やっぱり繋がるわけがないか…」
繋がらない、という事はこのまま警察にかけても意味がないだろう。携帯の中は唯一、一つのアプリが入っており、RINEだけ、しかし登録されているのは、驚く事に何故か同級生達のみだった。最悪、これ今までのRINEの内容消えたって事とかないよね。しかも他のアプリはどうなっているんだ。これ残ってなかったは許さない。そしてよく画面を見つめると、100だったものが99になっていた。数字が減ったという事は、これは携帯のライフか。ならば携帯は何かしらに使えると予想。
優衣「さて…とりあえず、行ってみるか」
この部屋にある唯一の扉を見つめる。扉の向こうからは何一つ物音が聞こえない。扉の先に何かがいるかもしれないけど、とても静かだ。鍵を開けて、ドアノブをゆっくりと回すが、出るか迷った。
優衣「…怖いなぁ」
私は正直、そんな勇気がある人じゃないし、どっちかと言えばビビリな方だ。
優衣「……まぁ、仕方ないか」
幸い、この部屋には鍵が着いている。もし某ホラゲのような化け物が来たら、鍵閉めてこの机でガードしてクローゼットに隠れよう。
優衣「……行こう」
もし、ここに知り合いがいるのなら、合流したい。作戦を立てて、鍵を開け、扉をゆっくりと音を立てずに開いた。
=2F 廊下=
右よし、左よし。一歩一歩踏み出し、音を立てずに扉を閉める。さっきの部屋にもなかったけど、まさか廊下まで窓がないとは思っていなかった。
優衣「…………」
ここは一体何処で、何階なのだろうか。すぐ右手に扉があり、左手前にも扉、そして長い廊下、また奥にも扉。ここは電気が通っているようで、この廊下は電気で照らされて明るい。でも丁度この廊下の左側に、反対側に行ける通路があるのだが、奥は少し暗い。という事は電気がついていないのか。
優衣「…………」
暗いから今の所、通路は進まない方がいいだろうな、というか進みたくないというのが私の本音。声は出さない。息をするのも気を付ける。何がいるの分からないから。とりあえず怖いのは嫌だから通路の電気スイッチは無いのか。それとも携帯のライトを付けてみるか。携帯を操作していると、何かが微かに聞こえたような気がして、顔を上げた。
"…………パタ…………パタ…………"
優衣「……?」
足音か、小さく何かがかける音が聞こえる。靴のような音が聞こえたが、その音はこの階から聞こえているわけではなかった。つまりは下の階か、上の階からの足音。音に集中していると、その音は確かにこっちへと来ていた。怖い、部屋戻ろうかな。
"………………タパタパタバタバタバタバタバタバタ!"
次に音と共に聴こえたのは、人の声だった。私は恐怖心が勝ち、一歩一歩下がり、部屋の扉のドアを掴んだ。
??「え!マジ何なのあれ!?有り得ないでしょう!ちょっと!」
??「と、りあえず!行こう!」
扉を開いて中へ戻ろうとしたが、声が聞こえたが事により、私は戻るのをやめる。ここからじゃ声しか分からなかったが、あの声を、私が聞き間違えるわけが無い。
優衣「……貴大」
私の恋人と、もう一人はナミーちゃんか。しかし、二人共声が異常だ、という事はやっぱり何かがいるのか。でも今喜んで彼らを迎え入れる自信はない、どうする。そう考えていると、すぐに私の視界に入ってきた、同級生達の姿。
【No.12】白泉 貴大(シライズミ タカヒロ)
【No.04】南富 裕太(ナミトミ ユウタ)
貴大「うおっ、びっくりした!しのちゃん!?」
裕太「えっ」
優衣「二人とも、どうし」
貴大「っそこ!どっちかの部屋に入って!!」
優衣「え、じゃあこっち」
貴大「わかった!南富!」
裕太「うん!」
押されるように入った部屋は、私が先程寝ていた部屋だ。
=2F 客間1=
貴大「南富、手伝って…!」
裕太「うん…!」
入った瞬間、貴大はドアノブを確認し、鍵を閉める。貴大はナミーちゃんと一緒に、近くにあった机や本棚を扉の前に移動して塞ぎ、扉から何歩か下がる。
優衣「ねぇ、しらい」
何があったのか聞きたくて声をかけようとしたが、"ドン!"と勢いよく何かが扉にぶつかって、それから削るような音が聞こえて、遮られた。私は驚いて扉の先を見つめるが、傍に来てくれた貴大が、私を背に隠すように立ち塞がった。
"ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ"
扉から聴こえる削る音。何を、なんて考えなくても分かる。扉を削っているんだ。
"ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ"
音はまだ響いている。私も含め、二人とも無言のまま扉を見つめている。
"ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ"
このままで大丈夫なのか、一体外から聴こえるこの音は何なのだろうか。
"ガリガリガリガリガリ…ガリガリ…ガリ………ガリ……………………………………"
しばらくすると、削っている音が無くなった。
貴大「…はぁ……行ったか……」
裕太「良かった……」
その場に座り込む二人。一体何があったのだろうか。色々聞きたい事があるけど、二人はとても青い顔をしている。とりあえず二人が話し出すまで待っておこうと思い、私もベッドに腰掛けた。
その後、数分も立たないうちに、ナミーちゃんが口を開いた。
裕太「えっと…篠田さん、いつ起きた?」
優衣「起き…あ、えと、ナミーちゃん達と会う5分前くらい…」
貴大「じゃあ本当に部屋を出たばっか?」
優衣「うん」
貴大「何も会わなかった?」
優衣「…うん?二人に会うまで何も……」
貴大「……そっ、か」
貴大にちょいちょいと手招きされて、私は近付いた。
優衣「白泉君…?」
声を掛けようとしたが、先に抱き締められた。
優衣「ちょ、白泉く…」
私と貴大が付き合っている事は、一応公表はしていないが、ほぼ皆知っている。だから私は二人きり以外では名前を呼ばないようにしている。
貴大「…はぁぁ、篠田ちゃん」
優衣「…白泉君」
貴大「…名前、一旦呼んで」
優衣「え…貴大…?」
貴大「…怪我、とかしてない?」
優衣「大丈夫」
貴大「…具合は?」
優衣「大丈夫。貴大こそ、大丈夫?」
貴大「…今、安心した」
優衣「…そう」
貴大「…………無事で、良かった」
優衣「……貴大…」
私を抱き締める腕は力の入れ過ぎで震えているのか、はたまた恐怖から震えているのか分からなかったが、余程の事があったのだろう。あの貴大から想像出来ない姿を私は今見ている。それでも、彼の震えはしばらく収まらなかった。
=2F 客間1=
しばらく抱きしめられていたその後、ナミーちゃんが気まずそうにしていたので、私達の関係を話した。まぁ、ナミーちゃんも気付いていたみたいなので、もう暗黙の了解のような状況だった。しかし、今はそんな呑気に喋っている状況ではない。
優衣「じゃあ白泉君達の話を聞かせてもらおうかな…?」
とりあえず部屋に籠っていては埒があかないので、まずは現状把握から始める事にした。
貴大「実は俺、この部屋の隣の部屋で目が覚めたんだよね、
ちなみに隣の部屋には内側からかけられる鍵はなかった」
優衣「鍵がない部屋もあるんだ…」
貴大「だから多分入ってくるだろうね、さっきの、得体のしれない”何か”が」
まだ分からないけど、鍵がついている部屋は安全、鍵がついていない部屋は危険かもしれない。
貴大「それで、俺が寝ていた部屋のベッドの枕元にあったこの鍵、一階の和室の鍵を手に入れて、一階へ降りてこの鍵で開く部屋を探した。ちなみに一階にある部屋全部この鍵で開けられるか調べたけど、俺が持っていた鍵では一つの部屋しか開かなかった」
優衣「という事は、私がここで見つけたこの鍵も、何処か別の部屋のカギになるのかな…?」
裕太「多分、そうだと思う。俺の鍵も何処か別の部屋のだと思うし…」
優衣「なるほどねぇ…」
貴大から出された鍵、それは私の持っている鍵と似ていて、違いをあげるとしたら手持ちの部分の模様が違う事ぐらいだった。貴大が持っていたこの鍵は一階の和室の鍵という事は、私の鍵も一階かもしれない。その代わり、ナミーちゃんが持っていた二つの鍵は、形も模様も違うから、別の階の鍵かもしれない。貴大は闇雲に探したそうだから、私も一階を闇雲に探すしかないのか。
優衣「ナミーちゃんはどこにいたの?」
貴大「
和室、
部屋に入ったらナミーが寝てた」
裕太「えっと…俺も寝てたみたいで、気が付いたら白泉君がいた感じ」
優衣「なるほど」
裕太「それで、俺の寝ていた部屋にも二つの鍵があって、とりあえずこれからどうしようかって、話し合おうとした時に…」
そこまで話をしたナミーちゃんが黙り込み、貴大も真剣な顔になった。
優衣「…さっき扉をガリガリしてた奴と会ったんだね」
裕太「 …うん」
貴大「
部屋の外からガリガリって音が聞こえて、もしかしたら俺達以外にも人がいるのかなと思って、
俺がドア開けちゃって…そしたら、女がいた」
優衣「…女?」
若干予想は外れたが、とりあえず話を聞くことにした。
貴「女っていうか、女の子っぽい感じなんだけど…
高校生ぐらいの、
髪は肩に付くか付かないか位で、学生服っぽいやつ着てた
」
優衣「高校生か…」
なるほど、女と言えど、女の子ぐらい。髪がボブ位で制服を着ている。そこまで考えて、頭が痛くなった。その瞬間、一瞬だけ私の脳裏に映った、同級生と思わしき女の子の姿。あぁ、何で彼女の姿が浮かんだのだろうか。彼女はもう、この世にいないのに。
貴大「それで、俺その時その女の様子に気づいてなくて、普通に声かけちゃったんだよね。“大丈夫ですか?”って、そしたら…俺の顔見て一言、“コロス”って言われた」
優衣「うわぁ、“コロス”、かぁ。
…そして白泉君は馬鹿だね」
貴大「ん?」
優衣「いや何でもないよ」
裕太「そしたらどこから出したかわかんないけど、包丁取り出してきて、白泉君を刺そうとして…寸
前で白泉君が避けて、俺達は走って逃げたんだ」
優衣「…追いかけてきた?」
裕太「
うん、結構速かったけど、俺達の方が速かった」
優衣「マジか、えぇー…もし追い掛けられたら、逃げ切れるのかな?」
裕太「
その辺は大丈夫だと思う
…すっごく血だらけで、目が、なかったから」
優衣「…目がない、それって、視力あるのかな」
貴大「
途中にあった花瓶を落としたら、その花瓶に向かって包丁を刺していたから、視力はないはず」
優衣「という事は音に敏感、か」
後電気はスイッチで付けれるらしく、特に問題はないそうだ。
貴大「後、これは俺の考えなんだけど…多分、Q国メンバーは皆ここにいるような気がする、
俺達と同じように、別の部屋に」
つまり皆を集めると共に、ここから出る手段を探さないといけない。
貴大「…どうする?探す
?そ
れとも、待つ?」
優衣「探す、
怖いけど」
裕太「うん、探そう。
ちょっと、気が引けるけど」
貴大「じゃあそれでいこうかね
…絶対に音を立てないように」
そして私達三人は、部屋からまた出る事にした。
=2F 廊下=
貴大に聞いた話だと、ここは二階らしい。後、上に行く階段があったそうで、三階がある事も確認済み。そして部屋を出る前に確認したのだが、何と携帯が使える事が分かった。試しにLINEを送ってみると、携帯のライフは減るが連絡手段になる事と、個人LINEもグループLINEも出来るようだ。普通に写真も送れるし、電話も出来るから便利だ。
貴大「何かあった、もしくは逸れた場合はLINEで連絡しよう」
優衣「でも携帯のライフ減るから、使用回数は気を付けた方がいいと思う」
裕太「時間は表示してあるけど、これが正確なのかわかんないね…」
貴大「ストップウォッチを設置するとかどう?もしくはアラームか」
優衣「それはいいけど、音が鳴らないようにしよう。その…アレは音に敏感みたいだし」
貴大「そうだね、バイブレーションぐらいなら大丈夫じゃない?」
優衣「うん、多分大丈夫じゃない?」
再度確認したので、早速行動をすることになった。右にある扉はトイレらしく、そんなにスペースがないから、逃げる場所には選ばないよう気を付けないと。
【次回へと続く。】