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高村に連れ出され、草野がやってきたのは電車を乗り継いで一時間ほどの場所だった。
てっきり近隣を歩くぐらいだろうと思っていた草野は、いきなり駅に連れて行かれて、ちょっと驚いたりした。
そんな彼に高村は、悪戯を企む少年のような顔をして告げた。
「草野くんを連れて行きたい場所があるんだ。行き先は着いてからのお楽しみだよ」
大好きな恋人の端正な顔に、そんな愛嬌のある表情を広げられて。草野の心臓はきゅうきゅうと締めつけられた。言葉なんて、簡単に封じられてしまう。もう黙って従うよりなかった。
そうして電車に揺られて辿り着いた場所は、何とも長閑な場所だった。
列車を降りれば、目に入るのは民家ばかり。寄せ集まった家々の隙間を埋めるようにして、侘しい色合いの草木や田畑の姿が見える。帝國図書館近辺の、少し歩けば商業施設が所狭しと立ち並んでいるような、そんな都会の風景とはまるで違う。ゆったりと流れる空気が、草野の胸の内に懐かしさを呼び起こした。
たった一時間で、ずいぶんと変わるものである。
乗り合わせた他の人々の様子をちらりと窺えば、列車を降りる人は存外に多かった。華やかな晴れ着姿の人間もちらほらと見えるので、近くに神社でもあるのかもしれない。
だとすると、高村の最終的な目的地はそこだろうか。
彼はまだ、何も言わない。
流れていく人波に従い、草野は高村と共に改札を潜る。
すぐに高村が手を引いた。
「草野くん、こっちだよ。ここから、少し歩くからね」
迷いなく彼が導く方向も、やはり列車を降りた人々と同じだった。
手を繋ぐなんて何でもない行為に、つい身が固くなる。周囲に人目があると思うと、それだけでいやに気恥ずかしくて、緊張してしまう。
カツリカツリと歌うように響く高村の下駄の音が、いやに大きく聞こえたりした。草野の足音は静かなものだから、余計にである。
草野の足元は、いつもの履きなれたショートブーツだった。
高村は頭から爪先まで、しっかり草野の服装を決めていたらしい。図書館を出るときに、勧められたのがこれだった。
特に逆らう理由もないので言われた通りにブーツを履けば、高村は改めて草野の全身を見て、満足そうに頷いていた。
その時のことを振り返って、草野は思う。何だか調子が狂ってしまうと。
特別なことをしているわけでもないのに、高村が草野のちょっとしたことで嬉しそうにするのが、妙にくすぐったくて落ち着かない。繋がれた手の温もりに心が蕩けそうになる。
草野は隣を歩く高村の横顔を盗み見た。
上機嫌は図書館を出た時から変わらずで、頬は薄絹で薔薇を包んだかのよう。口元は柔く弧を描いて、今に鼻歌の一つでも歌いだしそうである。
草野は寄る辺のないような気持になって、片手にはめたぎゃわずに視線を送った。
頼れる友はただ、小さな両手をぐっとにぎりしめて、愛らしいウインクを一つ飛ばしてきただけである。頑張れと、そういうことらしい。
草野はもにもにと意味もなく、口元を歪めたりした。
草野は高村と共に、見知らぬ道を進んだ。最初は民家の間を伸びるような広々とした道が、行くほどに少しずつ細くなっていく。民家の姿も徐々に減り始め、草木の姿が目立つようになったかと思うと、平らな道はいつしか緩やかな坂道へと変化していた。