談話室を出る#name2#の背を見送り、青江は鶴丸に視線を向けて声を上げる。
「終われたと思った。というと、まだ続きがあるのかい。」
「あの夜以降、女は俺をつけまわすようになった。
獲物を待つ夜叉のように、じっとり俺を見ているんだ。」
「…つまり君、付けられたまま此処に来たのかい?」
「そうなるな。」
「一期、君は鶴丸殿の屋敷から一緒に来たのだったね。女はいたかな。」
「女…?私は見ていませんが、厚は?」
「女学生やらばあちゃんなんかはいたけど、そんな妖しめいた奴はいなかったな。」
青江は軽く頭痛を催した頭を黒革の手袋を嵌めた指で押さえた。怪異は彼の専門分野であり、幾つも解消へ導いて来たとは言え、自身の拠点である屋敷に入ってくるとなると別だ。家には一般人も居るのだし、いちいち"処理"していたら生活どころでは無くなってしまう。それに、出来れば自身を追ってきているというのは散歩に行った件よりも先に教えて欲しかったのだ。
夕闇に染まる廊下は、今までいた応接室よりも静まり返っている。ぺたぺたと自分の足音しか聞こえない空間。それは台所も同じだった。薬缶を火にかけ、ポットの茶葉を交換する為に戸棚に近づいたとき、「コツコツ」と木を叩くような音が聞こえた。おそらく目線の丁度中央に来るあたり。玄関の扉からする音なのだろう。
コツコツ コツコツ
ノックの間に重厚な扉に遮られる様にくぐもった「クスクス」と言う静かな笑い声も聞こえて来る。
扉を叩く者が通常の客人ではないというのは#name2#にも分かっていた。
「チャイムがあるのに。」
少し間を置いてから重い扉を押し開けても、目に入るのは閑散とした並木通りだけである。一体何が扉を叩いていたのか。それはきっと依頼人を着けてきたものであろう。
薬缶が大きな音で鳴いている。
「#name2#、少し厄介なことになってしまったよ。」
茶葉を換えて応接室に戻れば、鶴丸國永は申し訳なさそうな顔。一期と厚の顔色は青ざめている。青江はニッカリと笑いながら#name2#にいった。
「何故です?」
「鶴丸殿は"鬼"をつれて家に来たようでね。」
「あら、そうでしょうね。今しがた何方かが玄関の扉をノックしてゆきました。」
「姿は見たのかい?」
「いいえ、何方もいらっしゃいませんでした。」
「本当にすまない事をした。」
「いいえ。どうしようも無いから此処にいらしたのでしょう。なら仕方の無いことです。」
私が声をかけると、俯いていた鶴丸様はぱっと顔を上げ綺麗な蜂蜜色で私を見つめて少し嬉しそうな顔をしていた。数秒そうしていると先生が手を打ち注目を集める。笑顔は引っ込め、対面に座る三方を見回す。
「君たち、今日はもう帰った方がいい。あまり遅くなると何が起こるかわからない。特に今日は…。
新月だからね。」
うろうろと揺らめく卓上のランプの灯りがこの部屋全員を濡らしている。