"hi, my dear friends Jiro-san and Ichiro-san.
Sorry for long time no see. We conducted a fieldwork along the Congo River in Central African Rep for some time past. You could be suprised at it because our Subrosa didn't say it to you as a usual."
朝起きると見覚えのあるメールアドレスから、解読不能なメールが送られてきていた。しかし、冒頭の文だけで二郎はそれが誰から来たのか、どんな内容なのか、わかって飛び起きる。にいちゃーん! とドアを開ける前から階下の兄に向かって叫んだ。
「イヴさんからメール来てる! パソコン開けていい?」
「お、久しぶりだな」
「前きたのいつだっけ」
「結構前だよなあ、三か月ぐらいまえなんじゃないか?」
「イヴさん……ゲ、五か月前だ」
パソコンを開けて、メールを開く。携帯機器でも見れるけど、翻訳サイトを使わなくちゃどうしても読めないから、イヴさんからのメールは兄ちゃんと一緒にパソコンで見るようにしている。イヴさんのメールをテキストファイルに落として、さらにいつも使っている翻訳サイトに一文ずつ入れていく。
『こんにちは、私の親愛なる友人の二郎さんと一郎さん。
長い間ごぶさたしてごめんなさい。ここしばらくの間、私たちは中央アフリカのコンゴ川付近でフィールドワークを実施していたの。いつもどおり、サブローザはあなたたちにこのことを言ってなかったでしょうから、きっと驚かれたでしょうね。それともいつものことだから、呆れているかしら』
「中王アフリカのコンゴ? サバンナかな」
「うーん、どうなんだろうな。熱そうだけど」
「三郎、アイツ熱いの苦手だったけど元気にしてっかなあ」
ワガママ言って周りの人に迷惑かけてないといいけど。三郎は高校卒業後、いつの間にか奨学金を得てドイツの大学に進学し、いろいろと場所を点々としたあげく、今はアメリカの大学院だか研究所だかにいるらしい。けど、三郎と一緒の研究をしているイヴさんが言うには、今三郎がいるのはアフリカのコンゴ。自分の弟ながら、その行く末もやっていることもまったくわからない。
イヴさんと俺たちは、二年ほど前からメールをしている。『ビューティだけど気難しくて寂しがり屋なアジア人』の三郎のことを弟のようにかわいがっているらしいが、ある時覗き見た家族へのメールのそっけなさに呆れて勝手に俺たちのメールアドレスをメモしてメールを送ってきたらしい。『サブローザには毎日エキサイティングなことばっかり起こっているのにそれを伝えないなんてもったいないと思ったの』という内容の英語の文章と一緒に送られてきたのは、十匹ぐらいのチンパンジーに群がられて頭を噛まれ俺たちが見たことないくらい猿に頬を引き延ばされた三郎の哀れな写真だった。(突然送られてきたそのメールを、当時の俺とにいちゃんは翻訳サイトに流し込むなんてこともできずに寂雷さんにメールを転送した。先日最新作がロードショーしたばかりの某かの惑星に、俺たちの曲がりなりにも可愛い弟が迷い込み拉致されてしまったかもしれないなんて、そんなことは一ミリも思っていないが……いや一ミリくらいはそういう展開になったかもしれないと期待したけど……事情も内容も理解できなくて、とにかく英語がわかる人に解読してもらわなくてはいけなかった。その後翻訳サイトという便利なものを使えるようになった俺たちは何とか彼女のメールを自力で読めるようになったし、なんならちょっとは英語もわかるようになったし返事もできるようになった。学校の英語なんて万年赤点だったのに、人間やればできるもんだなぁと思う。)
それから、当の本人のあずかり知らぬところで、山田家とイヴさんの文通は始まった。弁当をチンパンジーに横取りされる三郎や、オラウータンの子どもにしっこを掛けられる三郎や、さまざまなエピソードが写真付きで送られてくるのが俺と兄ちゃんの日々の楽しみになった。三郎だって決して連絡を寄越さないわけじゃないけれど、俺にはわかんねえ研究の話や初めて訪れた土地の話。日本にいた時は同年代の友だちなんていた素振りもなかった三郎が、異国の地でのびのびと暮らしている様子がうかがえるのもなかなか感慨深いものがある。けれども、その神妙な感傷すら、イヴさんからのメッセージに込められたあまりに天才的な三郎の日常には霞んでしまう。彼女のメールからうかがえる生意気な弟は、一緒に暮らしていない分直接的な憎らしさが薄まって、ただただ愛らしい存在に思えるのだ。
『今回のフィールドワーク