混血児――それは原始の青き竜の亡骸に栄える東域の民と、祖の金の竜の亡骸に栄える西域ダゲル帝国の民との間に生まれる禁忌の子供だ。
 神話の時代に遡れば青き竜と金の竜は互いに争い、果てた。その呪いは今でも続いており、東と西の争いは絶えることがない。
 神話の時代から数百年、今では西から東へと亡命してくる者もいる。差別はなくならないが、惹かれ合い、結婚が許されないまでも共に寄り添って生きていく夫婦も見かけるようになった。
 しかし、共に生きることはできても、子をなすことはできない。なしてはいけない――聖書にも記されている大罪の一つである。
 それは、西と東での姦通を禁ずるものであるが、事実できた子は死産や流産などで生まれてくることができない。神は混血児の誕生を望まないのだ。
 それでも、極稀に混血児が生まれる時もあるという。生まれ落ちたそれは、総じて化物であり、人に害なす存在である。故に生まれてしまった場合、教会がそれを引き取り、処分することになっていた。
 その混血児が【青い竜】などと噂されるようになったのは、ただ一人の例外のせいである。
 禁忌の子供が、正義とされる東の地の始祖と同じ色を持つとは皮肉な話ではないか。
 ドアドルクは、その存在のことを知っていた。ジーナがドアドルクを頼った勘は正しいと言える。どこで情報を仕入れたかはわからないが、【青い竜】の子供を南の国から北の国へと移送したのは他でもない若きドアドルクだった。だからドアドルクは知っている。|は、ジーナ・ルッキーナが求める義理の兄などでは断じてない。
 ――なるほど、この子は他人の前世の記憶を読み取ることはできるが、今世の記憶を知ることはできないのだな。
 ドアドルクには、目の前の大人びて見える少女の思考が今は手に取るようにわかった。彼女は人の前世を読むことでふつうの子供よりは多くの知識と情報を得てはいるが、ただそれだけのことなのだ。混血児は生まれても処分される。その混血児は【青い竜】と呼ばれており、それが北の国に保護されているという噂がある。……ならば、その子供が自分の兄である可能性も|ゼロではない――そう考え、藁にもすがる思いなのだろう。
 身寄りもなく、両親を亡くし、ただ途方に暮れた少女なのだ。
 彼女に真実を伝えることもできるが、さて……とドアドルクは思案する。実際、これは案外いい契機なのではないかという考えが過ぎった。十数年前は彼を北の国に引き渡さざるを得なかったが、ドアドルクにとっても彼は手中に収めておきたい存在だ。それはドアドルクの持つ〈使命〉に必要なことなのだ。
 他人のことなどどうでもいい、というジーナの読みは当たっている。事実ドアドルクは振る舞いこそ柔和であるが、自分の愛する者にしか情を移さない。長い時を記憶を保持したまま生き続けているので、人生というものにも飽き飽きしている。損得感情ですら動かない。彼を動かすのは〈使命〉に関係のあることか、面白そうだと思ったことだけである。
 今回の案件は、そのどちらでもあった。ドアドルクは大変退屈していた。今のドアドルクの生において、かつてとは比較にならないほどの前世のピースが揃っている。だのに現状は停滞していて、出来ることは観測と観察だけであった。ジーナ・ルッキーナの存在は青天の霹靂で、同時に棚ぼたでもある。
 自分の前世を知っていても、他人の前世を知る人間はふつういないのだ。
 時折前世占いを謳い、店を構える人間はいる。しかしそういった輩は決してドアドルクの前世を読み取ることはできない。時折ひやかしに鑑定を受け、やっぱり偽物だったなと嘲笑うための暇潰し程度にしかならなかった。しかし、だ。
 彼女は、本物だ。
 さて、どこまで見えているかは詳細を詰めていないので判断がつかない。しかしドアドルクにとっては彼女が自分の転生の回数も、記憶保持も、そして〈未練〉がありそれが人探しであることも看破した、それだけで相当な価値がある。
 ――仲間に入れたい。
 ドアドルクはジーナににっこりと笑い返した。
「……いいでしょう。ただし、彼があなたの探し人かはわかりませんが、それでもいいんですか?」
「いいの。本人じゃなくても、会えばわかることがきっとあるでしょう」
 ――なるほど、|の前世も読むつもりか。これは面白い。
 願ったり叶ったりだ。緩やかな絶望にあるドアドルクの相棒にとってもこれはいい刺激となるだろう。
「わかりました、請け負いましょう。ただし、あなたには数名会ってもらう人間がいます。いわゆる、僕の仲間の紹介というやつですね」
「仲間……? よくわからないけど、いいわよ。私友達もいないから」
「悲しいカミングアウトはいりませんよ……。では郵便を出しましょう。前世からの友と、そして……僕の息子に会ってもらいたい」
 言葉の後半は、少し声が掠れた。ドアドルクは自嘲する。
 ――あの子に父だと言えていないのに、会ったばかりの子供には言えるなんてな。
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ブルーサーガの2話目あたり
初公開日: 2020年04月11日
最終更新日: 2020年04月11日
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