『……あんた、誰? 死神……?』
『死にたいなら一思いにやってやる。俺は死にたがる奴が殺したくなるほど嫌いなんだ』
『死にたいなんて言ってない!』
 威圧感のある低い声と、きゃんきゃんと甲高い声のやり取り。主演のヴォルフと準主演のゼロが出会うシーン。秋組第二回公演『異邦人』の第一幕だ。
「はい、そこまで。どうですか?」
「思ったよりやりにくくはないな」
「……疲れる」
 しかしいづみに遮られてそう応じたのは、冬組の丞と密だった。大あくびをする密に苦笑し、紬も続ける。
「あはは。俺も悪くないと思います。難しいかなと思ったけど、意外とはまってるんじゃないでしょうか」
「密くんの女性役というのも面白いね。レディとしてその身のこなしはどうかと思うが……」
「ゼロは女性というより少女、むしろ少年っぽいキャラクターだからね。あんまり女性っぽくしなくてもいいんじゃないかな」
「あまり違和感は感じなかった」
 誉、東、ガイもそう言ってうなずく。手応えを感じ、いづみはほっと胸を撫で下ろした。
(うまくいくか心配だったけど、よかった……)
    *
 発端は数日前に遡る。いづみと左京が同席したリーダー会議で、次の公演について話し合った。
 各組主演のバトンを回し終え、ミックス公演も全員が経験した。何か新しいことをしてみたい、という議論の中、いづみが発言した。
「公演をシャッフルってできないかな?」
「公演をシャッフル?」
「うん。ええと、周年記念の冊子とかで『他の組の公演でやりたい役はありますか』ってインタビューしたことあると思うんだけど……」
「あー、そういう感じか」
「え、どういう感じ?」
 呑み込みの早い万里がうなずく一方、咲也は首をかしげた。天馬と紬も首をかしげている。万里はいづみを見ながら端的に言う。
「つまり俺が『真夜中の住人』の玲央をやったりするってことだろ」
「うん、だいたいそう。みんな他の組の演目もやってみたいってたまに言ってるでしょ? 例えば秋組が冬組の演目をやったり、春組が夏組の演目をやったり……そういうのってどうかな」
「面白そうです!」
 いづみの説明に咲也が目を輝かせた。天馬や紬も興味深そうにうなずいている。
 一方、渋い顔をしたのが左京だ。
「面白いだけじゃ乗り切れねえぞ。各組の固定ファンもついてきてる。この役にはこの役者じゃないと、って客もいるんだ。そういう客層のことも考えて……」
「は、怖じ気づいてんのかよオッサン。他のやつらに自分の役をうまくやられちゃ困るもんなあ」
「なんだと?」
 万里に挑発され、左京の眉間のしわが深くなる。まあまあと仲裁に入った紬が、あくまでも穏やかな、しかし確固たる意志をもった物腰で言った。
「自分の役を愛してくれるお客さんは大切です。でも、挑戦も必要だと思います。俺はやってみたいです」
「……まあ、挑戦が必要という点には俺も同意だ。食われるつもりもねえ」
「じゃあ、OKですか?」
 顔を輝かせたいづみに、左京は大きなため息をつき、念を押すように言った。
「周年記念のイベントとは違う、普段の公演の延長だ。しっかり細かいところ詰めて、気を引き締めて取りかかれよ」
「はい!」
 そして厳正なくじ引きの結果、トップバッターは冬組、演目は『異邦人』となったのだった。
    *
 いづみが回想していると、稽古場のドアが開いた。
「今いい? 採寸したいんだけど」
 顔を覗かせたのは幸だった。ちょうど稽古も一段落したところだ。入ってもらうことにする。
 幸は手際よくメジャーを操って各自のサイズを測った。秋組の寸法と照らし合わせながら、ほっとため息をつく。
「……うん、メインのふたりはそんなに調整しなくても衣装使い回せそう」
「よかった。体格、近いもんね」
 演目をシャッフルする上での一番の気がかりが衣装だった。多少の差異なら調整する、と幸は言ったが、さすがにゼロの衣装を丞に着せるわけにはいかない。大柄な臣の役は丞へ、小柄な太一の役は密へ、と自然に決まった。もちろん演技力も加味してのことだが。
「ナインも問題なし。ドムはちょっと腰とか詰めたほうがいいかも。ジョンは逆に大きくしなきゃ」
 左京が演じたナインは東、万里が演じたドムは誉、十座が演じたジョンはガイが務める。左京と東は体格がほとんど同じだが、誉はがっしりしている万里より細身だし、反対にガイは十座より体ができている。それぞれ身長はほとんど変わらないが、細かい部分では調整が必要だろう。
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冬組異邦人
初公開日: 2020年04月10日
最終更新日: 2020年04月10日
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コメント
配信してみたかったのでやってみます。
キーボードがたまに暴走して予測変換がおかしくなりますが気にしないでください。
冬組が秋組第二回公演「異邦人」を演じることになったら、という話。
綴シト
ツイッターで言ってたジャスミンの香りがするシトロンの綴シト短くまとめることを目標にします
やどかり