外出自粛、つまり、外に出るな、ということ。これって、俺のようなオタクには願ったり叶ったりの状態じゃないのか? と思わずにはいられない。日常生活に追われて積みゲ―になっていたアレやコレを、一気に消化できるかもしれない、またとないチャンス。この期を逃してはならない、と、食料品や飲み物なんかの生活必需品を買い揃えて、俺はひとり、部屋に籠ってこの天国のような時を満喫していた。きっと皆本主任にバレたら怒られる生活だとは思うが、バレなければなんてことはない。もう皆本主任の手から離れて自立した生活を送っている今の俺は、多少堕落したプライベートを送っていても、仕事に支障を来さなければ許されるはず、だと思う。大人ってサイコー、と思いながら今日も封を開けたばかりのゲームを開始した。引きこもってゲームばかりしている生活を異常だと言われようと、我々はそういう人種なのだ。リア充とは住む世界が違う。それに、ふと正気に戻って誰かと喋りたいなと思っても、俺には仲間のティムがいる。それに、こうなってしまってからは顔を合わせてはいないけれど、毎日決まった時間に電話をしている葵どのもいる。彼女と会えないのは辛いけれど、こんなご時世だから、簡単に逢いに行くこともできないし、仕方がないと受け入れている。時折、電話がビデオ通話になって、葵どのの表情を見れているだけ自分たちは恵まれている。これ以上我儘なんて言ってはいけないのだ、と自分に言い聞かせて寂しさを埋めるようにせっせとゲームの消化に打ち込んだ。
 そうして一週間が過ぎれば、山のように積んであったゲームも消化してしまい、気になっていたあのゲームにも手を出してみようかと通販サイトを閲覧している時だった。突然震え出したスマートフォンに驚いて椅子から転げそうになるのを何とか持ち堪えて画面を見ると、葵どのの表示。こんな時間に珍しい。何かあったのか、と慌てて画面をスワイプして通話できる状態を整えた。
「もしもし葵どの? どうされました?」
 しっかり椅子に座り直して、ヘッドフォンを外しながら電話の向こうの葵どのに声を掛ける。すると、葵どのは、ふ、と細い息を吐いて、恐る恐るといった様子で口を開いた。
「……バレット」
 あまりにも心細い声色に、何があったのかと気を引き締める。
「大丈夫ですか? 何かあったんですか?」
 今にも消えてしまいそうな葵どのの様子に、努めて冷静さを保ちながら声を掛け続ける。いつもと様子の違う葵どのに動揺しながら、動揺が伝わらないように気を付けて優しく声を掛けていると、一旦ひと呼吸を置いてから、葵どのは小さく呟いた。
「あんな……バレット……」
「はい、なんでしょう」
「……みんな、我慢したはるのに。ウチ、我慢できそうにないねん」
「え?」
「怒られるかもしれへんけど、今からそっち行ってもエエ?」
「え!? いや、外出ちゃダメですよ!」
「わかってる……やから……」
 ヒュパ、と空気が揺れる音と共に、俺の部屋に現れた葵どの。
「これやったら、外、出てへんのと一緒やろ?」
 眉を八の字にして、今にも泣きそうな顔で、首を傾げた葵どのが俺に向かって笑いかけている。その力無い姿に驚いて、慌てて葵どのに駆け寄った。
「テレポート、使ったんですか?」
「せや……ウチの寮から、バレットの寮くらいやったら、一回のテレポートで移動できるな、思て……」
 思いついてしもたら、もう、止まれへんかった、と葵どのは顔をくしゃくしゃにして笑った。笑っているのに、今にも泣いてしまいそうなその顔に、思わずぎゅっと抱き寄せる。
「ゴメン、ゴメンな。バレット。ウチ、何か、急に不安になってもうて。みんなで家におらなアカンっていうのわかってるんやけど、不安に圧し潰されてまいそうで……堪らんくなって、来てもうた」
 ぎゅう、と背中に這わされた葵どのの手が震えていて、そこから葵どのが感じていた不安がどれだけのものだったのかというのが伝わってくる。確かに、葵どのは俺とは違って、ずっと家に籠るような生活をするタイプの人ではない。家に閉じこもってばかりいては、ストレスも溜まってしまうだろう。そんなことにも気付けなかった自分が申し訳なくて、葵どのを抱き潰してしまわない程度に強く抱き締めた。
「すみません。俺、葵どのを気遣ってあげられなくて……」
「ちゃうねん、バレットは悪くないねん。みんな我慢してはるねんから、ウチだけ、こんな、裏技使って、逢いに来て、こんなん、ズルい」
 俺の肩に顔を埋めてポツポツと呟く葵どのが、愛おしくて、きゅっと胸が締め付けられる。そっと葵どのから身体を離して、安心させるように微笑みながら顔を覗き込んだ。
「……バレなきゃ、大丈夫ですよ」
 そっと頬に手を添えて、顔を近付けると、急に慌てだした葵どのが顔を背けて叫んだ。
「ウ、ウチ! まだ手洗いうがいしてへんから!」
 清潔にしてからやないと、アカンと思う、と顔を真っ赤にして言う葵どのが可愛くて、クスリと笑って。
「……そうですね。じゃあ、行きましょうか。洗面所」
 そっと葵どのの腰を抱いて洗面所のあるバスルームへと誘導した。
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外出自粛って、要は外に出んかったらエエんやろ?
初公開日: 2020年04月10日
最終更新日: 2020年04月10日
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