彼女を見送って数秒、
「ねえ」
今度は隣から、別の声がかかる。続いて瑛一のところにやってきたのもまた女の子で、彼女はピンクのクレヨンを握りしめていた。
「私のもあげる。使って」
先の少女に続いた勢いのためか、些か声に自信があるみたいに聞こえた。さっきの子のクレヨンを断らなかったのだから、自分もまた受け取ってもらえるだろうという、打算的な意思を感じる。きっと無意識なのだろうけれど。クラスでも大人しい子供だった赤のクレヨンの子に比べ、ピンクのクレヨンの子は活発で明るくて友達の多い人気者だったから、余計にそう感じたのかもしれない。子供が持てる自信も傲慢さも、周囲から愛されている結果の発露にすぎない。
彼女は瑛一に押し付けるだけ押し付けて逃げるようなことはしなかった。眼鏡の奥からじっと見つめ返す瑛一の眼差しを受けて立つ。なるほど、自信のある子は綺麗で、より一層輝くみたいだ。瑛一はそういう対比を見ると、日陰の方に感情移入してしまう。
とはいえ、瑛一は彼女のピンクを断るわけにもいかない。描いている絵の題材を思えば暖色が多く揃うのはありがたいのだが、ピンクは足りている。瑛一はクラスから浮いているとはいってもーー浮いているからこそ、クラス内に軋轢が生じることは避けたい。ここで彼女のものだけ返還したら、諍いになる。
「ありがとう。使わせてもらう」
サービスに、にっこりと笑顔をつけて彼女の手からピンクを受け取ると、少女は頬を淡くピンクに染め上げながら嬉しそうに微笑んだ。その目の奥が、優越感に光る様も瑛一は見逃さない。
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初公開日: 2020年04月08日
最終更新日: 2020年04月08日
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コメント
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いやほんと音瑛打ってるだけなんで気にしないでください