足元に揺れるかれんな花びらに気付いて、一歩足を引いた。
 ぐしゃりと踏み潰してやりたい気持ちと、守ってやりたい気持ちが、千々に入り乱れる。
「おにいちゃん、ネムの髪と、同じ色ね。かわいいね」
 三つ葉、四つ葉の葉をむしり、冠を編んでやる。
 家の中からは、罵声と食器の割れる音。かなしいくらいに青く澄んだ空には、紫煙を吐き出したような薄い雲がのんきに浮かんでいた。
 振り返れば、左馬刻の人生は負け続けだった。どんな過程を歩もうと、最期にわらっていたやつが勝ちだ。
 幾らそうおもっても、信じ込もうとしても、敗北の事実は消えない。かみしめた唇からは鉄のにおいがする。
 かぎなれた暴力の気配を察知して、猫の額ほどの裏庭で踏みしめた土と、よく似たにおい。
 誰も彼もが、左馬刻のもとを去ってゆく。去ってほしくない存在ほど。その都度、胸にぽかりと開く穴を、紫煙で埋める、埋める、埋める。空虚は、ひろがってゆく。
 
 なんにも見ていないような左馬刻の視線は、にがい記憶をほうふつさせた。彼も、終わりの日々は、こんな茫洋とした表情を浮かべてはいなかったか。彼をこちら側につなぎとめる鎹となれなかった後悔は、砕けたガラスの破片のように銃兎の胸にめり込んで、からだの一部になっている。
 陽光に透ける銀髪をがしりと掻き毟り、しゃがみ込んだ左馬刻の背に、理鶯が広いてのひらをのせる。撥ねのけられることを無意識のうちに恐怖した、銃兎の胸中を見透かしたかのように。
「貴君はもう、一人ではない」
「いなくなんな」
 母をさがす、迷子のこどものような。
 合歓、とさきほど、愛撫するように、妹に呼び掛けたのに近しい、声音。
 このおとこは、あの力強く、黒く、重たく、鈍く光るリリックを紡ぐ同じ喉元で、こんなにも、ささやくように、いつくしむように、ことばを紡ぐのか。
 ゆらりと浮く、うすいからだ。知っている、知らない、背負ってきたもののおもさ。
「当たり前だろ」
 
 
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