手足をもがれても戦え!そう熱く語っていたあの人はそんな状況に陥ったことがあったんだろうか。急に頭に浮かんだその言葉は、私がアカデミー生のときに鼻で笑って聞き流したものなのに…
命懸けで夜の住宅街を走り抜ける私はもうヘトヘトで、思考もろくにまとまらない。それなのに嫌味のようにその言葉だけが妙に木霊する。
仕方ないじゃない、そんなこと言われたって。喰種とまともに戦ったことも無い新人捜査官の私がクインケも持たずに一体どうしろって言うのよ…。
息を切らしながらも ちらりと後ろを振り返ると追いかけてくる2人分の人影は止まらずについてくる。
「おい!このクソアマが!てめぇ 逃げてんじゃねぇよ!」
ダメだ。このままじゃ絶対に追いつかれちゃう。ふと 目に飛び込んできた 薄暗い脇道に入りこむ。薄暗い路地はそれだけで気持ち悪いけど、明かりがないここなら…と少しだけ奥まった場所に座り込んで、バレないようにと静かに息を飲んだ。
ザッザッザッザッと2人分の足音が大きくなって心臓がどくどくと早鐘を鳴らす。どれくらい時間が経ったのか分からない…。ただバレないように、それでもいつ アイツらがやってきてもいいように周りから聞こえる音を集中して拾う。
大きな音で聞こえていたはずの足音が遠ざかって聞こえなくなって…しばらく経った。
はぁ と大きく息を吐いてから胸に手を当てると、相変わらずおかしなくらいに大きく脈打っていて…
『はっ。ちゃんと…怖いんじゃん、、わたし…。』
初めて陥った命懸けのピンチが通り過ぎたあとには今まで感じたことの無い 変な気持ちだけが残った。
いつまでもうずくまってられないや。と意を決して立ち上がった。大丈夫、もう気配もしないし、諦めてくれたんだろう。ここはどこだろう、随分走ったからなぁとスマホで地図アプリを立ち上げながら 路地を出た。
「あ、いたいた お姉さん。待ってたよ。」
路地を出た角、急に話しかけられたその声はさっきまで口汚く私を罵っていた声と同じもの。
バチリと合った目線は舐め回すように私を見る。
また降り掛かってきた命の危機に、体はとっさに反応して慌てて元来た路地に踵を返す。
くるりと反転して駆け出そうとした体はどんっと音を立てて大きな男の体にぶつかった。
思わぬ衝撃に耐えきれなくて、弾き飛ばされた体はしりもちをついた。
「逃げられると追いかけたくなるんだよね…。俺たち喰種ってさぁ…」
だらだらと涎を垂らしながら話しかけてくる男は嬉々とした瞳で私を見る。
それがなんだかすごくムカついた。自分が圧倒的強者たど疑わず、弱者を嬲ろうとするその表情…。分かってる。だってどうやったって勝てる相手じゃない。相手は男の喰種2人。かたや私はクインケも持たないただの新人捜査官の女。でも…そうなら、最後くらい…自分が思うようにしたかった。こんなヤツらに弄ばれて死ぬなんて絶対に嫌だ。何か言ってやろうと開こうとした口はガタガタと震えて歯がぶつかる音をさせるだけで、なんの言葉も出せない。だからぐっと歯を食いしばって、目一杯その男を睨みつけた。虚勢でも…何でも良かった。こいつらの意のままになんてなりたくなくて、ただそれだけだった。
「あ"?てめぇ、生意気なツラしやがって!所詮俺らの食い物でしかねぇくせに!」
しゃがみこんで私の髪を引っ張って無理やり上を向かせた男は相変わらず口汚く罵ってくる。
どうしようも出来ない力の差を感じさせられるそれに…それでも負けたくなくて睨みつける視線だけはやめなかった。
「へぇ…。楽しそうなことしてんじゃん。俺も混ぜてよ。」
目の前でも背後でもない、私の頭上から聞いたことのないテノールが響いた。
「あ"?何者だ、てm」
私の髪を掴んだまま、謎の男に凄んだその男の声が不意に途絶えた。慌てて目を移すとそこにあったはずの頭はなくなってて、しゃがみこんでいた体はゴロリと後ろにころがった。
ヒュっと自分の喉からマヌケな音が響いたのが聞こえた。
「あー、しょうもな…。」
つまらなそうな吐息とともに言葉を吐いた男は、立っていた塀の上から私の目の前に飛び降りてきた。
すらりと背の高いその男も どうやら喰種みたいで…
ミシミシと嫌な音を立てて 真っ赤な血を滴らせる赫子がギラギラと黒光りする。明かりのない薄暗い路地の中でもさらに真っ黒で、呼吸するように静かに蠢く大きな尾赫は息を飲むほどにきれいで…。抜けた腰のせいで身動きも取れず、蠢くそれから目を離せなかった。
「遊びたんねぇからさ…。お前は粘れよ。」
私の後ろに立っている男に向けられたはずの言葉は、凄まじいほどの狂気と殺気を帯びていて身体の震えが止められない。ニヤリと不敵に笑ったその恐ろしい表情を最後に、かろうじて繋いでいた私の意識は途絶えた。
沈んでた意識が浮上して、ふわりとした布団から感じる温もりと匂いはいつも通りのもので、浮かびかけた意識がまた遠ざかる。あったかい…。ぽわぽわした心地のまま、欲望に任せて二度寝をしてしまおうと 薄く開けた目を閉じた瞬間…ガコン!と大きく響いた音で遠のきかけた意識が完全に覚醒した。
あれ?そういえばあの喰種たちは…?そこを思い出すとあの時の記憶がぶわっと蘇ってきた。そういえば、あの黒い尾赫の喰種は?私 どうやって家まで帰ってきたんだっけ?そうやって次々思案してる間も寝室の外から感じる人の気配は無くならない。なんで…?
疑問は山ほどあるけど、とりあえず急を要するものたちから片付けていくしかない。今大事なのは一人暮らしのはずの私のマンションで、私ではない別の人の気配がすること。どうしよう、何者だろう…。思うことは沢山あるけどいつまでもウジウジしてられない。動かなきゃ解決しないんだからと自分を律して、寝室から抜け出して恐る恐るリビングダイニングに繋がる扉をゆっくり開けた。
ゆっくり慎重に開いたはずの扉は、ガチャリと思ったより大きめの音を響かせた。
その音に思わず肩を跳ねさせてしまったけど、ゆっくり深呼吸してから扉をするすると押す。中の様子を伺うように隙間から覗いたりしたけど見える景色はいつもとほとんど変わらない。なに?なんだったんだろう…と思った瞬間、視界の隅 ちょうどここからは死角になるような位置にある本棚の下に 本が乱雑に落ちてる ことに気づいた。あんな置き方…私絶対しないのになぁ。なんて考えながら様子を伺うけどそれ以外に気配はしなくて…。勘違いかなぁ、あんな怖い喰種の顔見たからビビってんのかぁ…。私らしくもないそれに内心小さく笑った。それに気づいたらビクビクしてた自分が 何だかバカらしくなって…グイッと扉を押してリビングに入る。
『え?』
「あ、起きた! おはよ、CCGのおねーさん。」
本当にビックリする出来事に遭遇すると人は本当に呆然としてしまうんだと、どこかにいる妙に冷静な自分が納得した。
いや、だって…仕方ないでしょ これは。だって、だって目の前にいるのは…あのとき、目に映った生き物 全てを嬲り殺しそうなほどの殺気を放っていた真っ黒い尾赫の喰種で。なんで、そいつが私の家に? というか、なんでCCGだって…。
「おぉ、ビックリした顔はめっちゃかわいいじゃん。最高だわ…。」
あのときとは全く違う、ニコニコと幼げな印象を受ける笑顔。
聞きたいことは山ほどあるはずなのに、言葉が上手に出てこない。
『な、なんで…』
やっと絞り出したのは次々浮かぶ疑問を代表した言葉だけ。
「ん?」
自分が思ってたよりも小さかったはずのそれを 彼は聞き逃さず、小さく首を傾げた。
「あー、お姉さん家に連れて帰ってあげようと思ってカバン漁ったら色々出てきて…。これとか。」
差し出されたのは 私の顔写真とCCGのバッジが付いてるCCGとしての身分証明書。こいつ…喰種なのに、、一体どういうつもりで…。
『何が目的?』
小さく後ろに下がって 相手との距離を取りつつ、感情の読めない顔を睨みつけた。
「あぁ。その顔最高だわ…。」
ぽろりと小さく吐息混じりに吐かれた言葉の意図が理解できない。でも意図なんて理解しなくていい。私が聞きたいのはなぜこいつがこんなことをするのか…。
『目的を答えなさい。』
本当のこいつはどちらなのか。出来れば今みたいなヘラヘラとした 何を考えてるかよく分からない弱い喰種だと思いたいのは恐らく私の願望で…。怖くない方へと逃げてしまってるだけなんだろう。
「その表情さぁ… 綺麗で好きなんだけど、そんな睨まないでよ。」
くしゃりと笑いかける そいつから目は離さない。
「俺はただ 綺麗なおねーさんと 仲良くしたいだけだよ。」
『私がCCGの人間だって、分かって言ってるの?…』
「もちろん。分かってるよ。先月CCGに配属されたばかりの新人捜査官の〇〇ちゃん。」
女の子は新人捜査官。夜、一人でたまたまクインケを持ってないときに喰種に襲われた。
自分の命なんてどうでもいいと思ってた女の子だけど、いざ殺されそうになると怖くなった。死にたくないと思った。(あとから女の子視点で描写)
たまたま通りかかった目黒が助ける。薄暗い路地のなかでもさらに真っ黒で呼吸するように静かに蠢く大きな尾赫は息を飲むほどにきれいだった。
「へぇ…楽しそうじゃん。俺も混ぜてよ。」
恐怖で気を失ってしまった女の子の荷物漁って、○○が捜査官であること、自宅とかを知る。○○の家につれてかえる。私が捜査官だから、根城にはつれてかなかったんだ。
怯えながらもキッと睨み付けたあの意思の強い瞳をもう一度みたいと思った。
きつい眼差しが好き。→気絶後 今は見えない悲しい。またみたい。
なんで助けたか。「きれいだったから。」『はぁ?』「きれいで、見てたいと思ったから助けた。そこに関して人間か喰種かは関係ないっしょ。」アホすぎて言葉もでないけどまっすぐでいいなとは思う。
その後ことごとく絡んでくる、ねぇー、一回味見さしてよ。減るもんじゃないんだしー。
俺あれ食ってみたいんだよね!チーズ。なんかびよーんってなってうまそうなやつ。普通にしてたら感じないけどやっぱりこいつ喰種なんだ。
○○はさ、なんで捜査官になったの?自分の命に価値が見いだせなかった。体力や運動神経や度胸にだけは自信があったから捜査官に。腕試し感覚。自分の命を大切だと思ってない。俺は○○さんに生きてて欲しいけどな。
(ねぇ、俺がもし死んだときにはさ、俺の赫子から作ったクインケは○○に使ってもらいたいなぁ)
ねぇもし○○さんが死んだらさ、おれがぜんぶたべてもいい?縁起でもないこというな。
目黒呼び。目黒が別の喰種に襲われて、家に来なくなった。ちょっと寂しい。
久々に来る。○○さん俺に会えなくて寂しかったっしょ。別に。嘘ついて強がっちゃってかーわい。
なんかふらついてる?怪我したこと隠してる。○○に弱ってるとこ見せたくなかったから、それなりに見えるようになるまでは家に来なかった。女の子的には、信頼されてないんだ。私が捜査官だから?もうだいぶ気になってる。
ふらついて目黒が倒れる。女の子気づく。
「私が捜査官だから?私に助けを求めたら殺されると思ったの?私ってそんなに信頼されてない?」
「ちがっ…。こんなのだせぇから。○○にカッコ悪いとこみられたくない。」
『それ、食べればなおる?食べていいよ、わたしのこと。』
「いやだ。○○さんのこと食べたくない。」
『もともと、何に使うか決められなかった命だった。目黒が助けてくれて、目黒と過ごしてたら。目黒になら食べられてもいいかなって思った。使い道決まってなかった命の使い道が変わっただけ。気にしないで』