ラッキースケベ書きます。
「失礼します」
やたら日当たりの良い部屋の持ち主に、声をかける。
「隊長、チャイナさんが来てますけど」
午前は内勤となっている沖田隊長は、机上の書類と睨みあっていた。
「チャイナが?なんで」
「なんかゲームを貸せやらなんやらで...」
「またス〇ッチかィ。俺、ちょうど今から巡回なんだけど」
と言いつつ、ため息をつきながらゆっくりと立ち上がる。
チャイナさんのことになるとチョロいよな、この人。
「んじゃ、着替えたら俺が直接持っていくわ」
着流しの帯を解いて、おもむろに肩を露出する隊長。
「了解でーす」
男所帯であるため隊長の裸も見慣れたものだが、俺は静かに襖を閉めた。
「ねー、まだアルか?早く貸してヨ」
「ちゃ、チャイナさん!?」
振り返ると、廊下の向こうからひょっこりと顔を出すチャイナさんがいる。
「ちょっとー、門の前で待ってて下さいって言ったじゃないですか」
「だって遅いんだモン。ス〇ッチだけ渡してくれれば、すぐ万事屋に帰るアル。ネ?」
その自慢の顔立ちと声でカバーしているが、もはや言っていることはカツアゲである。
「沖田、そこにいるんでショ?」
チャイナさんはあっという間に俺の前を通り過ぎて、隊長の部屋の襖に手をかける。
「待っ...隊長は今...!」
スパン!と勢いよく襖が開く。
「......あ?」
上半身裸で、ベルトを締めている隊長が目に飛び込んできた。
その光景は、当然チャイナさんの目にも同じように映っているわけで。
「ギャァァァア!!」
と声をあげて、すぐさま俺の背後へと回った。
「なっ...何してるアルかオマエ!」
「...着替えだけど。見りゃ分かるだろィ」
「は、はは早く服着ろヨ!!」
バックルをカチンと鳴らして、こちらに近寄ってくる隊長。
「人を露出狂みてえに言うんじゃねーよ。なに、見とれてんの?チャイナさんってばスケベ。」
ご満悦な顔で、俺の後ろに隠れているチャイナさんを覗きこんでいる。
「見とれるわけないダロ!そんな貧相な体!!銀ちゃんのほうがムキムキだモン!!」
突如発せられた【銀ちゃん】のワードに、隊長はすかさず青筋を立てた。
「誰が貧相でィ。ペチャパイに言われたくねーわ」
「うっさい!セクハラ!!」
あのー、すいません。俺を挟んで喧嘩するの、やめてもらっていいですか?
「おいチャイナ、こっち来い」
「いーやーアール!」
チャイナさんは俺の背中をギリギリと握って、沖田隊長を威嚇した。
「テメー...俺の前で他の男に引っ付くなんざいい度胸してんじゃねーか」
痺れを切らした隊長は、ぐっと手を伸ばしてチャイナさんの腕を掴む。
「ひゃっ!?」
強めに腕を引っ張ると、チャイナさんはそのまま隊長の胸にダイブする形になった。
「...っ、ギャァァァア!!」
屯所中に響き渡るレベルの、本日2度目の叫び声。
「かはッ、」
チャイナさんは隊長を突き飛ばして、一目散に廊下の向こうまで駆けていく。
「クッソ...覚えてろィ、あの女」
隊長はその場に尻もちをついたまま、上裸で舌打ちをした。
*
「うおっ!?お、お疲れ様です」
その日の夜。
稽古場の前を通り過ぎると、ひとり黙々と腕立て伏せをする隊長を目撃する。
「あー、ザキか」
「隊長ってば、稽古着も着たままで...筋トレですか?...あ、もしかして昼間チャイナさんに言われたこと気にして...」
そう言いかけると、上下していた腕がピタッと止まった。
「...は?決して絶対断じて全然そんなんじゃねえから」
ギンッと俺を睨みつけて再開された腕立て伏せは、さっきよりスピードアップしている。
あーヤベ、完全に地雷踏んだわコレ。
「たっ、隊長ォオ!!何ですか!?筋トレですか!?次は腹筋ですか!?背筋ですか!?この神山がお供いたします!!」
するとどこから嗅ぎつけてきたのか、神山は鼻息を荒くして稽古場に飛び込んできた。
「チッ...めんどくせーのが来やがった...」
「それにしても隊長!これ以上体を鍛えてどうするおつもりですか!私はサービス過多で死んでしまいそうです!」
煙たがられているのも華麗にスルーして、隊長の元へと駆け寄る。これが彼の通常運転なのだからすごい。
「おーう、そのまま死んでくれィ」
「きめ細やかな肌に程よくついた筋肉、数々の死線をくぐり抜けてきた刀傷...沖田隊長の体は至高ですね...」
神山が言うと、妙に説得力があって気持ち悪い。
隊長がいい体してんのは事実だけど。
「...程よく、じゃダメなんでィ。きっと」
隊長はツッコミを放棄して、ぽつりと呟く。
「何をおっしゃいます。腹筋、背筋、胸筋に始まり、腕、肩、その他...どれを取っても最高です!もちろん下半身グフォアッッ」
神山が床に投げ飛ばされると同時に、ピシッとヒビの入る音がした。
「神山ァ...いい加減にしねーとその瓶底メガネかち割るぞ...?」
「も、もう割れてます...」
屍となった神山とただのナレーションに成り果てた俺を置き去りに、沖田隊長は稽古場を後にした。
*
1週間後。
「あれー?沖田くんじゃん。団子いっしょにどう?」
「旦那ァ...それ、俺に奢らせる魂胆でしょう?」
俺のイライラの原因のひとり(とばっちり)である甘党侍は、店頭で団子をむさぼっていた。
「バレた?ははは。」
「ま、いいですぜ。俺ァ食いませんけど、奢りまさァ」
長椅子にドカッと座り込んで、足を組む。
「え。それ沖田くん損しかしてないじゃん。すげーありがたいんだけどさ、なにか企んでんの?」
「いやー、別に。旦那にたらふく食わせて太らせて、筋肉を脂肪で埋めてやろうと思ってるだけでさァ」
「よく分かんねえけど怖え!!銀さん、小太りのアラサーにはなりたくないっ!!」
とはいえ、ゴチでーすと上機嫌で手を合わせてきた。
「せっかく奢ってくれるんだったら、テイクアウトしようかな。新八と神楽の分も」
「......あいつの胃袋は無限大なんで。...今日のところはせいぜい10本までですぜ」
「ありがと、彼氏サン?」
結局、全部で17本奢る羽目になった。
「...で、最近神楽とはどうなの?」
「...!」
さすが、天下の白夜叉を太らせようとした代償はデカいなと俺は観念した。
「...前に一悶着ありましてね。1週間会ってませんぜ」
「ふーん。道理で。神楽も寂しそうにしてるぜ」
「...ス〇ッチないから暇なだけでしょうよ」
「いや?いつもリビングで膝抱えてウダウダやってんのよ。総くーん、会いたいヨー。って」
後半部分は確実に嘘だろィ。
「俺が口挟むことじゃねーんだろうけど。早く仲直りしなよ?まずは話し合わねーと。あ、体でぶつかり合うとかそういうのは、お父さん求めてないからね?」
「心配には及びませんぜ。キスまでしかしてねーんで」
「ゲホッ...今ので十分ダメージ食らったわ...」
まあ、手ェ出そうとした時もあったけど。
見事に拒否られた。
早すぎたというのは痛いほど分かっている。
「...沖田くん、マジで食べないの?減量中?それにしては前よりガッチリしてない?」
まったく、この人は。どれだけ俺の心をえぐれば気が済むのだろうか。
「...はあ。......1週間で分かるもんなんですね」
色々考えて、絞り出した一言。