私、好きな人がいるんです。うちの寮長なんですけど。そういうと、大抵の人は「えっ!?」と驚いた顔をしたり、「はぁ?」と嫌悪感を表したり、とにかく良い反応はされない。挙げ句の果てには「キミの寮ってオクタヴィネル寮じゃなかったの?」などと、腕章を見ればすぐ分かる事を聞いてこられる事もあった。
しかし、みんながこのような反応をするのも仕方ないとは思う。うちの寮長、アズールは性格がひんまがった悪徳商売人であり、うちの学園にはその被害者がわんさかいるからだ。私もそのうちの1人…にはなれなかった。
入学式の日、アズールに一目惚れをした私は、その日のうちに告白をして、見事玉砕した。けれど、生来諦めの悪さだけが取り柄だった私は、諦めずに毎日毎日アズールにアピールをした結果、「貴方は下僕にもしたくない」という最低の評価を頂き、2年に上がってもノートすら貸してもらえない日々が続いていた。
「あっ、アズールだ!」
「また貴方ですか。生憎、私は忙しいんですよ。ほら、どこかで遊んできなさい」
「そんな犬みたいな扱いやだ!かまってかまってかまって!!」
「犬みたいなのはどちらですか…」
はぁと溜息をついて私から離れようとするアズール。むぅっとしょげてみるけど、彼の手には沢山の書類らしきものがあるから、本当に忙しいのだろう。仕方ないから、今は諦めて、後でお茶でも淹れていってあげよう。
⚪︎●⚪︎●
夜になっても案の定アズールは寮長室から出てこなかった。アズール不足だ、寂しい。当初の予定通り、アザールのためにお茶を淹れて、寮長室の前でふぅと息を吐く。トントンと二回ノックをして、アズールの部屋に入る。
「お仕事お疲れ様です…」
「貴方ですか」
真剣な時の寮長は、少しだけ私に優しい。多分、こういう時は邪魔しないという事を知っているから。そっと机の上にティーカップを置いたら、難しそうな書類に目を通しながらそれに口をつけてくれた。
全く、そんなに私の事信用して大丈夫なの?まだ成功していないけど、いつか魔法薬学で惚れ薬を作るのに成功したら、真っ先にアズールに飲ませるような人間なんだけど。なーんて、心の中では思うけれど、バレたら私の唯一の楽しみであるこの時間も無くなってしまうだろうから、そっと口を閉じる。
「ふぅ」
「あっ、アズール終わった?」
難しそうな書類達を片付け始めたアズールを見て、すっと背筋が伸びた。私がサバナクロー生みたいに耳や尻尾が生えていたら、多分、耳はぴんと伸びたし、尻尾もぶんぶん振っているから、さっきアズールに言われた犬という表現はやっぱり正しいのかもしれない。
「さすがに疲れました」
「じゃあ肩揉みましょうか!」
「出て行って下さいの意味なんですけど」
ギロリと私を睨みつける割に、近づいていく私を静止しようとはしない。これは大丈夫な時だ。昔、こんな風に父親に肩揉みをしたっけ。なんてことを思い出しながら、アズールの肩を揉んであげる。
「ねぇアズール」
「…なんですか」
「好きだよ」
ぽつりと溢れた言葉。もう何度もアズールに言ってるのに、伝わらない言葉。
「何度も言ってるでしょう。ボクは女性と付き合う気は、今は更々ないんですよ」
「じゃあ、いつならいいの?」
「……」
この質問も、もう何度したかわからない。けれど、アズールはいつも答えてくれない。こんなに近くに好きな人がいるのに、私は何もできない。するりと首に手を回して、アズールの肩に顔を埋める。アズールは、何も言わない。