「自宅から、か」
 プロデューサーは神妙な顔の大河タケルに対し、そうだよと軽く返事をした。世間が大変なことになっているので、残念ながらライブのみならず、あらゆる収録やらレッスンやらが中止になっている。打ち合わせなどもってのほか、ということで、現在虎牙道もテレワーク中というわけだ。もっとも、漣に関してはそんなことできるはずもなく——どうも道流と一緒のようだが。
「とにかく今はこんな時だからさ、それでもファンのみんなに声を届けたいっていう気持ちを組んで、とりあえず環境だけは整えたよ」
 プロデューサーはそう言って、詳しくはまた後でメールで連絡するねと画面の向こうで笑う。
 どうやら——スタジオに入ってそこで収録するというのも難しいらしく、自宅からファンへのメッセージやらなんやらを、生配信したらどうだろうということだった。しかしどうにも想像がつかない。タケルは首を傾げた。
「けど、何をどうするんだ」
「だからほら、ユーチューバー的な感じだよ」
「自宅にいながら配信するってことっスか」
 道流の言葉に「そうそう」とプロデューサーは嬉しそうに笑った。
「内容はまあ、最近のこととか、裏話とか。ほら、よくラジオで話してるような内容だよ」
 漣が道流の後ろで「めんどくせェ」と呻いた。
「自分、料理配信とかやってみたいっス」
「それいいね! けどお願いだから自宅は特定されない程度にね。円城寺道流の自宅のコンロは何口だからきっとここだ〜とかバレたらやばい」
「コンロの口数でわかる人、いますか」
「わかんないよ今時」
 神妙な声のプロデューサーがおかしくて、タケルはちょっとだけ笑った。
「まあとにかくやって見てよ。不安だったらこんな感じで繋いだままでもいいからさ」
 かくして。大河タケルは初めて、自室の一角から一人で生配信をすることになったのである。
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がさり。
ごそごそ。
耳につけたイヤホンが妙な音を立てる。
目の前にはパソコン。背景はプロデューサーにチェックしてもらったから問題なし。事前にツイッターで予告もした。話す内容はなんとなく決めている。
大河タケルはそして、意を決して——配信ボタンを押した。
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こんばんは。
えっと、これ、聞こえてるのか?
あ、ハートマーク。ありがとう。
いいねみたいな機能なのか。
少し、緊張してる。いつもは一人であまり話さないから。アイツはさておき、円城寺さんと一緒にラジオすることが多くて。
こうして話すの、久しぶりな気がするな。
短い間だけど、家でゆっくり聞いてくれたら嬉しい。
交代制だから、明日とかは多分、ほかのメンバーが話すんじゃないか。
円城寺さんは、料理配信したいって言ってた。俺も聞いてみたい。
ハート、ありがとう。
そうそう、最近あったことを話そうと思ったんだ。
この前、舞台の千秋楽があった。
みんな、見てくれたか?
そのうち、きっと3人で話す機会もあると思う。
今日は少し裏話をしようと思ったんだ。
ほら、いつもとは少し違う役柄だったから、なかなか役に入り込むのが難しくて。特にアイツは、円城寺さんの誘いを断るくらい没頭してた。
あの眼鏡、伊達だったんだけど、落ち着かないってずっと裏でうるさかったんだ。
俺はその——衣装がな。
あれすごく着るのが大変なんだ。楽屋裏は空調聞いてて結構寒いし、だから上着を着たりしてたんだけど。他のみんなはそれなりに厚着だったからなんだか変な感じでさ。
確かに、アクションの時は動きやすかったけど。
ハートありがとう。
ああ、ラジオも聞いてくれてるんだな、嬉しい。
えっと、そうそうアクションの話だ。
舞台だから、実際のこう、息づかいとかもダイレクトに観客に伝わるわけだろ。それがすごく新鮮というか、ライブを思い出した。ドラマとか映画だとどうしても伝わりにくいようなことが、ちゃんと伝わるから。だからこそ、演技だけど、演技に見えないように本気で取り組んだつもりだ。
アイツはスーツで動きにくいってずっと文句言ってた。円城寺さんもスーツだったけど、そこはやっぱり流石だよな。
二人で戦うシーンは、
ああ、あれはな、、そもそも最初は息が合わない感じだったんだ。特にアイツが普段とその、キャラクターが全然違うから、そのキャラクターのままっていうのがどうもなれなくて。けど円城寺さんが、いつもの二人でいいって言ってくれたんだ。もちろんあれはレナートとダニーの二人だけど、これまでもライブでやってきたようなことを思い出せばいいって。
それで、まあ、ちょっとはやりやすくなったっていうか。
そんな感じだ。
けど、一人称が「僕」っていうのは、やっぱり似合わないよな。
あのあともたまに、寝言で「僕は」っていってる。アイツなりに、多分、すごく努力したんだと思う。セリフの漢字読めなくて、プロデューサーにふりがなふってもらったり。
だからこっちも負けてられないってさ。円城寺さんと特訓したんだ。
そうそう、あのあとみんなで醤油ラーメン食べたんだ。円城寺さんはうまいって言ってたけど、俺はやっぱり円城寺さんのラーメンの方がうまいと思う。
多分、それはアイツも同じだ。
っと、そろそろ時間みたいだ。
あんまり長い話ができなかったけど、こんな感じで配信できたらって思ってる。
俺たちも早く、ファンのみんなに会いたいけど。今はとにかく、元気でいて欲しい。
たくさんハートくれてサンキュ。
それじゃ。
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 大河タケルは息を吐き出して、配信停止ボタンを押した。こっそり繋いでいたプロデユーサーから、お疲れ様とコメントが来た。
 どうにもなれない。思い返せばメンバーの話ばかりしたような気もする。何が正解かはわからないけれど、これでだれかが元気になればいいと、そんなことを考えた。しかし——アイツは果たして一人でこれができるものかと、少しだけ心配になる。人のことは言えないが、生放送で余計なことを言わないといいなと、そんなことを考えた。
(了)
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❄️
こんばんは!待ってました(^^)
15:00
❄️
ラジオいつも聴いてます(^^)
33:24
❄️
お疲れ様(^^)
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虎牙道が生配信する話
初公開日: 2020年04月04日
最終更新日: 2020年04月04日
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虎牙道が生配信するSS的な何か
実験的なものです 漣タケ風味かもしれない