料理なんて、食べられれば問題はない。手間暇とか愛情とか、かけるべき工程や努力は確かにあり、その分だけ美味しくなることもあるだろう。だが、今の状況としてはそんな理念は過ぎたるもので。今はただ、早急に美味しい料理を用意する必要があった。
「主さーん、野菜切り終わりましたよー!」
「お、ありがとう、堀川」
 ボウルの中に山ほど盛られたキャベツと玉ねぎ。それらをホットプレートへと追加すれば、じゅうじゅうという心地良い音が鳴り響いて。先に焼いていた豚バラ肉と合わせ、馴染ませていく。
「大将、麺を入れてもいいか?」
「ああ、頼むわ」
 すぐ横から薬研が中華麺の袋を破り、ホットプレートの中へ投入していく。それをほぐしながら全体に火が通るようにし、そうして先ほどの具材と混ぜたところで、ソースを手に取って。あれだけたくさん買ったはずだというのに、気が付けばいくつもの空の容器が転がっているのが見えた。
 最初に来たときは落ち着かないほどに広く感じた本丸も、いつの間にか両手を超えるほどの刀たちが集まり、昼夜を問わず騒がしくなってきている。同じ刀派のもの、所有者に縁があるもの、あるいは因縁があるものまで。刀剣というものの歴史はこれほどまでに古く、奥深いもので。戦争の真っただ中だというのに、この場所ではそれを忘れたかのように慌ただしくも楽しい時間が流れていた。
 だが、良いことづくめではないのが人生というものだ。メンバーが増えるにつれて問題になってくる課題は山ほどあり、その中のひとつに――そう、料理があった。栄養補給はもちろんのこと、人の身体を得た男士たちにとっても必要なもの。刀剣男士の中には料理上手な奴もいるらしいが、生憎ながらここにいるのは私も含めて素人ばかりで。だからこそ、今日という日まで食事の時間は手探りと挑戦の毎日だった。
 今日のお昼は焼きそばであり、フライパンで作るのが面倒くさいのと最大限人手を使うために、食堂でホットプレートを使い、班を分けながらそれぞれ調理をしている。野菜を切り、肉を炒め、麺とソースを入れてはただ混ぜて焼いていく。
「うっめぇ! なんかこう、祭りで食べたくなるよなあ」
「はい。それに、こうして皆さんで作ると、なんだかいつも以上に美味しく感じられます」
 頬張りながら、愛染と平野がそうこぼす。ほとんどはソースのおかげとはいえ、どうにか食べられる味になっていることに一安心する。今現在のメンバーは短刀が中心で、脇差より大きな刀は多くないのだが、それにしても全員がよく食べる。まあ、戦いで動き回っている以上、食事もたくさん必要だということは理解しているが、それにしても毎食ごとの食料の減りはえげつない。今はまだ十数人程度しかいないというのに、未顕現の男士はまだ半数以上もいるのだ。やはり、増えてきたら当番をしっかり決めて回していこう。料理は苦手だし、それを抜きにしても毎度毎度メニューを考えるのはかなりきつい。
「お、小夜。そっちは大丈夫か?」
 すぐ近くを通りかかった小夜に声をかければ、小さく頷いて。飲み物を追加したのか、麦茶ポットが握られている。
「……うん、こっちは平気。今は兄さまが焼いてくれてるし」
「お、本当だ。なんか意外だな、宗三が率先して動いてるの」
「……美味しかったみたいだから、たくさん食べたいんだと思うよ」
 それはまた、ますます意外だ。見た目だけなら和食が好きそうに見えるが、昔の記憶と味覚の好みは違うのだろうか。
 そうこうしているうちに十分に火が通り、焼きそばが完成する。ホットプレートに山盛りにされたこれも、ものの数分で彼らの胃袋の中だ。
 ふと、懐かしさに似た感情が目の前をよぎる。昔の私は、こうして作ってくれたものに対してきちんと感謝の気持ちを持っていたのだろうか。朝起きてご飯を食べられるのも、誰かが作ってくれていたからこそできたことだ。それだというのに、日々の忙しさにかまけて、意識すらしていなかったのではないか。こうして自分自身が経験するまで気付かないだけではなく、今さら昔のことを思い出すだなんて。あの頃の私は、徹頭徹尾自分のことだけしか頭になかったのだと思い知らされる。
「……ねえ」
 ふと、声をかけられて。顔を上げれば、大和守の姿がそこにはある。
「その、おかわりいいかな」
 遠慮がちに差し出された皿。それを受け取り、盛り付けてあげて。渡して瞬間、少し肉が多かったかもしれないことに気付く。
「ほい、どうぞ。……おいしいか?」
「え、まあ、悪くはないよ。変わった味だけど……あ、その、食べられないって意味じゃないから」
 ぎこちない言葉とやり取り。顕現して以降、どことなく距離を感じるのは気のせいではないのだろう。この刀は、大和守安定は、使い手であった沖田総司を誰よりも愛していた。だからこそ、その早すぎる死を悔やんでいるのは嫌というほどに伝わってきて。私の経歴は、いつ死ぬかもわからないこの身体は、そのことを多少なりとも意識させてしまうのだろう。
「あー! やすさだの、おにくがおおいです!」
 ひょい、と後ろから今剣が覗き込んで。途端、何かを思い付いたように声を上げると。
「でも、やすさだはあるじさまのりょうりがすきじゃないんですか? なら、ぼくがたべてあげますよ! みょうあんでしょう?」
 無邪気な声が食堂に響き、それまでの会話すら筒抜けになってしまう。いくつかの視線がこちらに向けられる中、大和守はただ狼狽えるように青の瞳をぱちぱちと瞬かせて。だが、その逃避を許さないかのように今剣の視線が捉える。
「え、いや、別にそんなことは……てか、嫌いならおかわりに来ないし」
「む、なら、ちゃんとたべるんですよ。せっかく、あるじさまがわけてくれたんですから」
 途端、今剣はやけにあっさりと引いて。そのまま自分のお皿をこちらに差し出してくる。それについでやれば、その面持ちがにこにこと笑いかけてくる。
「えへへ、ありがとうございます、あるじさま!」
「……その、ありがとう」
 お礼と共に二人は机について。束の間の空気はあっという間に過ぎ去り、後にはただせわしない昼食の光景だけが残されていた。
 いつか、あいつのことを理解してやれる日が来るのだろうか。あの悲しみを浮かべた瞳を癒してやれる日が来るのだろうか。その小さな痛みは、安っぽいソースの香りに紛れて、湯気と一緒に消えていくだけだった。
(完)
 
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本丸の日常
初公開日: 2020年04月03日
最終更新日: 2020年04月04日
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弊本丸のとりとめのない話を書いたり書かなかったり。