「ダンデのポケモンにはなりたくないけど、犬になら、なってやってもいいかもな」
酩酊した声が鼓膜を揺らす。君、飲みすぎだぞと言おうとして、その前に聞き慣れない単語が耳に引っ掛かった。
「イヌ……?」
「ポケモンの祖先とされる絶滅した生物。お前、ポケモン進化学の時寝てたタイプだろ。そりゃ過去問手に入ればB浮きは確実だけど、天下のチャンピオンがそれってどうなの」
「寝てなかった。ただ、あまり興味はなかったことは事実だ」
それと、もうチャンピオンじゃないと言ったら、あの時はチャンピオンだったろ、と返ってくる。ぐうの音も出なかった。
ユニバーシティでは、きっと俺はいい学生ではなかった。チャンピオンには〓も必要だと、十四歳から通わされた学び舎には、人よりも二年ほど長く在籍していた。院に進んだわけではない。
「水曜の午後は出られない時が多かったんだ」
「そういうことにしておいてやるよ」
その代わり、と注がれたエールを飲み干す。弱い酒精は喉を灼くほどではないが、生温い炭酸は想像以上に腹にたまる。
「キバナ、残飯処理を俺に推しつけないでくれ」
「わん!」
イヌが鳴いた。半分くらいは欠席してしまった講義を思い出す。イヌはワンと鳴き、ネコはにゃあと鳴く。良きパートナーとしてヒトの生活に溶け込んでいた彼らの存在は、ポケモンと似ている。唯一違うのは、彼らが戦う術を持っていなかったことだ。もちろん鋭い爪や牙はあったが、リザードンの炎や、〓のような、ヒトを圧倒する力は持っていなかった。