「ボクらの使命って、一体何なんだろうね」
硝子ペンの先をインク壷に浸しながら、ゼノンが呟く。視線は手元のノートへ落とされたままだったが独り言にしては明瞭な響きを持っており、アポストロスはそれを自分に向けられた言葉だと認識した。
「定められた夢の配達であろう」
「それは使命を果たすための一手段だろう? ボクの言っているのは、もっと本質的な部分のことさ」
「……星の望むこと、ではなかろうか」
「じゃあ、さ、」
ゼノンはペンを走らせる手をピタリと止め、顔を上げた。
「星が望むからボクらの使命になるの? それとも、ボクらの使命だから星が望むの?」
それをきっかけに、耳が痛くなる程の静寂が辺りを支配する。
アポストロスは仮面の下で自分の額に嫌な汗が滲むのを感じた。
もしも星が望むことだからこそ使命なのだとすれば、それが果たされるべき使命であるということそのものに何の根拠もないことになる。今まで信じてきた「使命を果たすことが善である」という前提が崩れてしまうのだ。
善や使命を決めるのが星なのであれば、星自身が悪と定義されるようなシステムを星は定めない。絶対王政の頂点に立つ者が、自身の行為を違法とするような法を定めないのと同じだ。
しかし、使命だからこそ星がそれを望むのだとすれば、使命や善といったものと星は独立した存在であることになる。また別の根拠、善の基準、その拠り所が必要になる。
「それは……」
アポストロスは台詞の続きを探した。何か反駁をしたかった。
──今まで自分が繰り返してきたことは一体何だったというのか。
月が七度ばかり傾いた頃になってようやく、見兼ねたゼノンがふぅと息をつく。心持ち、隈が濃さを増したようだった。
「……なんてね。ただの冗句だと思って聞き流してくれて構わないよ」
いってらっしゃい、と言いながら、ゼノンは再び手元へ視線を落とす。インク壷の中では相変わらず、玄いインクがゆらゆらと水面を揺らしている。