花畑、そこに君はいた。一面に赤いチューリップが咲いた中で君が僕のほうを見て笑いかけてくれた。無邪気に笑っていた君に花束を作ろうと目の前の花に手を伸ばす。でも、君はそれを阻んだ。
「どうして」
僕の問いに君が曖昧に微笑んだ。何も言わず、ただ僕の手を握って、僕の目をまっすぐみつめて、微笑んでいた。
風が吹く。僕の頬を君が優しく撫でる。どうしてか、元気でおしゃべりだった君が一度も言葉を発さない。不思議に思って、君の目を見つめる。相変わらず、君は静かに微笑んでいた。でも、少し泣いていた。
「ねえ、どうしたの?」
問いかけても君は答えない。僕は考えようとする。でも、君の心を考えようとすればするほど、何かが僕の考えに蓋をする。なにか思い出してはいけないような、思い出さなくてはいけないようなことがあった気がする。
酷い頭痛と目眩がして、君の姿が揺らいだ。
また風が吹いた。その風が、チューリップの花を散らした。そして、君の姿を散らした。
君との思い出の場所に来れば、君と会える。
そんな僕の考えをも風が散らした。
結局君はもういない。僕の中には僕の中の幻覚、幻想、思い出としてしか存在し得ない。赤い、お気に入りの靴を履いた君が花畑の中で僕に笑いかけることはもう無いのだ。
わかっていたはずだ。わかっていたはずなのに、僕はそれでも君の幻想を見るために、君との思い出の場所に足を運ぶのだ。