~「監禁する才能が無い攻め×のほほんとして逃げる気の薄い受け(怖い)」の会話文~
監禁してるはずの受けが生き生きと街中で歩く姿を見つけて、「………………いやいや流石に見間違いだろ??」と自分を納得させるも、後日職場に忘れた書類持って普通にやって来たし。
あまりの衝撃に呆然のまま一日過ごして無意識の内に帰宅したら、律儀に足枷嵌めた受けが「おかえり~」と出迎えてくる話
「いや居るのかよ」
「え」
「なに四六時中家にいました~今日も退屈な時間を生き抜きました~みたいな面して居るんだよ逃げろや」
「どうしたのおかえり」
「ただいま」
「取り敢えず立とうか?」
「……おう」
「……お前さ、職場に来たよな?からかってんの?それとも来たのはお前の兄弟だったり?」
「俺の家族関係とかアンタが一番知ってるでしょ」
「じゃあドッペルゲンガー?」
「もしかして仕事疲れた?」
「どの口が言う」
「この口だけど、ただいまのキスでもする?」
「……する」
「するんだ……」
「外出たよな?」
「疲れてんの?」
「職場来てたよな?」
「疲れてんだよな?あっ、2回目は嫌です。よく考えたらうがいしてないばっちい」
「傷つくからばっちぃはやめて」
「いやだって、アンタがダウンしたら職場近くのスーパーまで買い出しに行くの俺だし……」
「出てんじゃねぇか」
「あっしまった」
「ばか」
「……いや出てない、出てないんで」
「職場近くの買い出し場所まで把握してたろ」
「二駅先で降りて徒歩5分」
「完全把握」
「いいから手洗いうがいしてください」
「…………お前はしたのか?」
「失礼な、したよちゃんと…………あっしまった」
「やっぱり出てんじゃねぇか!」
「何で隠すんだよ。てか何で逃げてないんだよ」
「?居ちゃダメだった」
「ダメだろ」
「じゃあ嫌だった?」
「それは、嫌じゃないけど」
「チョロ……」
「チョロくもない」
「…………だって、アンタ、さ、外の話したら不機嫌になるじゃん」
「監禁してるんだから当たり前だろ……」
「前提の監禁を当たり前のように話さないでほしい……そこらへんズレてんなら他もズラして欲しい……」
「てか本気で監禁してたの?」
「は?」
「テレビとか置いてあるじゃん」
「音がないと狂うって聞いたから」
「ネットも繋がんじゃん」
「履歴はちゃんと確認してる」
「Cookie削除って知ってる?」
「?欲しがってたバターなら買ってきたぞ」
「そっちのクッキーじゃない……」
「俺はお前のクッキーが食べたくなってきた」
「明日焼くよ分かったから、ちょっと可愛いのなんなんだアンタは監禁向いてないよ」
「……お前、もしかして寂しくて出てったとか?」
「ごめん普通に退屈で」
「驚くぐらい可愛くなかった」
「大体定期的に隣人さん遊びに来るからそんな寂しくないよ」
「待て家主も知らない客を招くな混乱するから」
「えっ、マジで?足枷して遊んでんの?危ないぞその隣人。通報しろよ」
「外聞悪いし流石に外すけど……」
「外せんのそれ?どうやって?」
「えっ……こうやって」
「うわ」
「ここに力入れて、」
「ひぇ」
「ボキンッて」
「怖」
「このあと嵌め治して遊ぶ」
「リアルに関節外しながら出す声じゃなかった」
「ちょっと痛い」
「じゃあ話の続きだけど……」
「続けるな一旦関節嵌めるか足枷外すかかしろ」
「なら前者で」
「後者のあと前者だよばか欲張りにいけ」
「話の続きだけどさ」
「痛くないか?」
「大丈夫、で、話の続きだけど」
「包帯と湿布……あっ、温湿布と冷湿布どっちがいいんだっけ」
「話の」
「撫でるか?いやでも触らない方がいいか。伸ばした方が楽ならソファーに」
「…………頭、撫でてくれたら治るかもしれない」
「頭も悪いのか?」
「言い方に悪意を感じた」
「やべ、湿布切れてるかも」
「昨日買ってきたよ」
「おっ、ありがとう」
「どういたしまして」
「…………?」
「……………………」
「話なんだけど」
「おう」
「土日はアンタが一緒にいてくれるし、そんな寂しくないよ」
「……」
「でも平日はちょっと寂しいから」
「……」
「最近バイト始めた」
「社会に馴染みはじめるな」
「光熱費払ってもらうの申し訳ないし」
「監禁してんだしそのぐらいいいよ」
「中々聞かないフレーズだ……」
「俺も初めて言った……」
「でも、ほんと、何と言うか…………傷つけるかもだけど、アンタって監禁の才能無いから、ニートみたいで良心が痛む」
「足枷外されるのは想定外だろ」
「何だったら合鍵の場所も知ってるし……」
「木箱に入れてさらに南京錠掛けてるから大丈夫」
「さらに言えばへそくりの場所も知ってるし……」
「それは大丈夫じゃないな」
「お菓子の空箱に詰め込んどくのはどうかと思う」
「あっ、知らないかもだけど百均の南京錠はリアルにヘアピンで空くからね」
「マジで?」
「マジだから気をつけて」
「あけた?」
「玄関あけっぱで外出したら危ないでしょ」
「監禁されてる方が危ないと思う」
「出られる状態を監禁というの?」
「いま傷ついた」
「てか南京錠は開けれても閉めれないだろ?どうすんの?」
「ダイソーで新しいの買ってきてまた付けてた」
「鍵だけ無限に溜まるだろそれ」
「開け放題」
「出ないで欲しいんだけど」
「さっきからお前は文句ばっかだけど、じゃあ正しい監禁ってなんだよ」
「されてる側に聞いちゃうかぁ」
「現場の意見ってことで……」
「え~…………………………まず初手で足を折る?の?かな?」
「えっ」
「そのあと視界を奪って、食事抜いて、掃除しやすいよう空の浴室に入れて、プライドがズタズタになるまで放置して、精神的に追い詰めたら」
「まてまて」
「相手から分かる位置にカメラを置く」
「ストップ!ストップ!」
「それで、カメラに触ったらお仕置。触らなくても動いたりしたらお仕置。取り敢えず理由つけて抵抗しなくなるまで続ける」
「ストップが通じないのか?バベルった?止まって」
「慣れてきたら部屋に戻して、可愛がる」
「今更可愛がるな遅いわアイキャッチ飛び越えてED流れてるだろ」
「あっ、テレビ番組は都合の良い思想のだけ流すよ。頼れる場所を減らしていくから」
「取り入れて返答をするな怖い怖い怖い」
「聞こえてるって返事代わりのつもりで」
「止めてほしかったし、拷問と洗脳の方法は聞いてないんだけど……」
「えっ、監禁って拷問じゃないの……?」
「怖いこいつ怖いよ」
「クッキーに合う紅茶」
「まんじゅう怖いじゃないお前が怖い」
「俺はアンタのスマホのパスが誕生日なのが杜撰すぎて怖かった」
「………………………………ん?」
「お茶に濁す」
「濁しきれるか?本当か?なんか凄いこと言わなかったか?」
「明日はアールグレイでも淹れようか」
「やった」
「大体、本当にそんな監禁されてたらお前いまここに居ないだろ」
「?いるけど」
「そこは逃げろや」
「いや、痛いのは嫌だしさ」
「おう」
「苦しいのも嫌いだけどさ」
「うん」
「ここには好きなアンタが居るじゃん」
「……………………あのさ、お前、そんなんだから俺に監禁されるんだよ」
「出られる状態を監禁というの?」
「天丼で傷つけんのは止めようや」
「正直ほぼ同棲ウキウキ気分だったので、来週にはお揃いのパジャマでも買おうと思ってたし……」
「外出ワクワク満喫してんじゃねぇか」
「両親にも平日会いに行ってるし」
「順風満帆家庭円満」
「平日にふらっと会いに行くから心配されたけど」
「ごめん」
「仕事辞めてバイトしてるって言ったら少し泣かれた」
「ごめん……」
「アンタに監禁されて前の職場辞めてるしね」
「両親で良心を試してくるな本当にごめんなさい」
「いやでもお前と一緒に居たかったし……後悔はしてない……」
「しない辺り強かで好きだよ」
「趣味悪くて引いた」
「嫌いになった?」
「嫌いだったら監禁してない」
「俺も嫌いだったら監禁されてないよ」
「出られる状態を監禁というのか?」
「なんでそこは疑り深いの……」
「俺と一緒に居たくて監禁したの?」
「……ん、」
「監禁前もいっぱい会ってたじゃん」
「…………でも、お前。誰とでもすぐ仲良くなるし、自由すぎて不安になるし、お前の世界の一番は俺じゃないと、いやだ」
「……………………」
「なんか言えよ」
「いや、アンタ世界一可愛いなって……」
「趣味悪くて引いた」
「ガチトーン」
「でもちゃんとすきだから」
「目を合わせてよじゃあ」
「………………嫉妬させるために他の人と話してるとか言ったら、怒る?」
「実家に帰らせていただくぐらい感情が揺れる」
「無人の家で俺一人なの?寂しすぎない?」
「メンタル鋼タイプか?家主いないんだからお前も帰れよ」
「隣人さん呼んであそぼ」
「実家かえる」
「まってごめん」
「」
ご
「俺たちさ、寝室同じじゃん」
「うん?」
「俺、足枷付いてるけど、別に動けないわけじゃないし」
「動けないと思ってたんだけどなこっちは」
「悪戯してたの、気づいた?」
「……………………」
「エロい方じゃなくてさ。いやそっちもしたけど」
「したなら起こせよ」
「起きなかったでしょ?」
「起こせよ」
「起きれないようにしたし」
「……………んん?」
「枕を返したとかそんなんだろどうせ」
「」
「昨日、湿布買ってきたんだ」
「おう、ありがとう」
「湿布以外も買った」
「何?パピコとか?」
「半分こしてないでしょ」
「確かに」
「」
「バイトさ、やっぱり休日の方が時給よくて」
「ダメだぞ」
「うん、ダメだよね、分かってる。俺もやっぱりアンタと居たいし」
「…………」
「ねぇちゃんと好きだよ、俺も好きだから」
「…………」
「俺と一緒に居たいから閉じ込めたんでしょ?大丈夫。今までと同じ生活を送ろう」
「でも、出たいんだろ」
「ううん、一緒に居たいだけ」
「嘘だ」
「嘘じゃないよちゃんとする、
睡眠薬あありのお茶飲む流れ
「だからさ、就職もした」
「は?」
「中途採用。ここから、二駅先で、徒歩5分」
「いや、まて、」
「待たない」
「だって、」
「逆になろ。ねぇ、アンタはそのままでいいよ」
「いや無理だろ、お前」
「ちゃんと監禁するから。大丈夫、一緒にいよ」
「なんか変なもんでも食べたのか?なぁ、一回落ち着けって」
「落ち着いてる!」
「おっきい声出すなご近所迷惑だろうが!!!!!!!!」
「アンタの方が大きい……」
「大体変なもん食べてるのはアンタだし」
「」
「」
「隣人さん最近リンボーダンス始めてるみたいだからたぶん声出しても大丈夫だよ」
「何が大丈夫か分からないが気になる情報だけ落としていくのやめろ」
「」
「いやだ」
「お揃いのパジャマも買ってくるから」
「いやだ、やめろ」
「明日はクッキー作るから、ね?お願い」
「しょうがねぇなぁ……」
「チョロ……」
「チョロくない」
「俺が閉じ込めてさ、うんぬん」
「まって」
「3色つくって、洗濯もして、」
「やだ」
「」
「堕落しちまう……」
「地球ですら自転してるのに自分は動かないのどうかと思う……」
「汚点」
「五点ではなくて?」
「汚い点」
「」
「あんたは死んだことがあるだけで生きてるよ」
「あれはお前が繋いでないテレビの話したから引いてたんだよ
■こっから宇善です。
「育ちの里には鬼がいる」
襖の隙間から差し込む風が行灯の橙を揺らす室内で、しっとりとした低音が響いた。ゴクゴクと、男が杯を傾げて酒を喉元に通していく度に首元に流れた銀髪が橙を帯びる。
「俺の目の前には、元部下の休暇に酌させる鬼上司が居るけど」
膝を付き合わせて酒を飲む金髪は、そんな風に軽口を叩いた。チラリ、と金髪──我妻善逸は銀髪の美丈夫、宇髄天元を見やった。頬に赤みは無く、口元へ杯を運ぶ手も確かだ。しかし、言動は酔っぱらいのそれである。
鬼舞辻無惨を倒し、無事に鬼殺隊に元の冠が付いた今となって鬼の話を聞くことになるとは思わなかった。しかも、居た、ではなく居る、と来たもんだ。冗談じゃない。【文章の繋ぎ】
善逸が知る宇髄天元という男は、己の過去をおいそれと語らない男だった。酔った勢い、というには些か行き過ぎた口上に「貴方の前にいるのは俺ですよ」と丁寧にも嫌味を返したのに、目の前の男は機嫌が良さそうに笑うだけである。
怒らず騒がず流す姿勢に、なんだか調子が狂うな、と背中の辺りに小蜘蛛が這ったような悪寒がするも吐き出した言葉は体内に戻せない。無言のまま酒を口に含んで、得意ではない苦さに顔を顰めて、無音のまま時間を過ごして。
ふと、襖の隙間から入った風が行灯を揺らし、右目の焔を一層赤く染めた折に一つ。
「俺は鬼だと思うか?」
宇髄天元は問答を繰り出した。(我妻善逸はこれが問答譚なのだと理解した。)
さて、鬼だと。あぁ鬼か。元が付くとはいえ鬼殺隊士に随分な話である。
善逸は何度か鬼と対峙して、その度に悲鳴をあげたり失神したり怒り散らしたりしていたが、ここまで癪に障る顔立ちの鬼は居なかった。此方はけっ、と毒を吐きそうな唇を必死に閉じているのに、宇髄天元はどこ吹く風で舌を回す。目の前の人物の自由人っぷりに頭痛がしそうだ。
「村ひとつを簡単に潰す方法って知ってるか?」
「さぁ」
「飲水に細工をするんだよ」
「」
善逸が黙ってたら宇髄さんはどんどん過去の話を零し始めて。とある村の主水路に毒物を混ぜただの、任務のために愛もないのに女を抱いただの。殺した人数を覚えていないだの。
そこそこな胸糞話に善逸くんはすっかり飲む気無くしちゃって途中から顔歪める。でも退出する様子も是非を告げる様子もない。
「鬼は人を害するものだ」
そりゃそうか、と我妻善逸は頷いた。
「俺は人を害した男だ」
本人がいうならそうだろう、と我妻善逸は首肯した。
「なぁ、お前は俺が人間だと思うか?」
ここで初めて、動きが止まった。
込み上げる吐き気と飛び出しそうな舌は一度忘れて、善逸は真っ直ぐと男を見る。目線は交わった、そして同時に、目を見ても無駄だと思い至った。
繰り返すが橙の瞳が見詰める宇髄天元は、心中の吐露や昔話をする男ではない。つまり、今の話の真実を見出して、寄り添おうとするだけ無駄だろう。主観が混ざる、主観を混ぜる。宇髄天元はそういう狡猾な話し方をする男だと少なくない晩酌の伴で我妻善逸はよぉく知っていた。耳や瞳で聞き取れる真偽など、両者の前では飾りに過ぎない。
だからこそ、そんな宇髄が語ることに何かを見出してしまったのだろう。
盃は随分空いているが、酒に飽いた様子もない。
そして同時に、無駄な動作が少ない人間だということもよく知っていた。(酒席を開く、主眼が欠ける)。
心中の吐露や昔話をする男だとは思っていなかった。そして今の話が真実であるとも思っていなかった。
主観が混ざる、主観を混ぜる。宇髄天元はそういう狡猾な話し方をする男だと少なくない晩酌の伴で我妻善逸はよく知っていた。
音で聞き取れる真偽など、両者の前では飾りに過ぎない。
「俺は鬼をよく知りません」
脳内で黒い雷が翻る。頬に残った傷痕を撫でる。善逸はあくまで淡々と答えた。
「俺は他の隊士みたく、鬼を見詰めて斬ったことが無い」
すぐ怯えるし、すぐ逃げるし、すぐ気絶するし。
鬼舞辻無惨の死と共に鬼殺隊はその役目を終えたが、我妻善逸には今でも過去の自分が鬼を斬れていた自信はない。胸にあるのは、兄を見詰めて斬った事実だけだ。
鬼が何か分からない。確かな我を孕ませた本音だった。
「俺は鬼が分からない。だから、あんたも人間に見えます」
片目があって、片手があって、心がある。乏しい経験しか蓄えていない脳は、それだけの材料で眼前の男を人だと判断してしまう。善し悪しで考えれば悪いのだろう。賢愚で言えば愚者なのだろう。賢さとは程遠い。しかし賢しさは確かにあった。
歳を重ねても曲がらぬきらいに宇髄天元はくつくつと笑った。問答というには余りに拙く答えがズレてはいないか。
「鬼が分からないか」
「はい」
「鬼殺隊に所属してた身としてどうなんだ、それは?」
「うっさいな……」
しかしそれでも問い続けた。答えは返された。
男の銀髪は、灯りで薄紅に染められていた。
【元になる無秩序雑多のツイート達】
人を害するものを鬼と言うなら、あの里には鬼しか居なかった。
無限城後軸で、宇善が晩酌してる時に酔った様子に見えない宇髄さんが「育ちの里には鬼がいた」と零すわけなんですけど。それに善逸が「俺の目の前にも部下の休暇に酌させる鬼元柱が居るよ」って返したら、怒るでもなく苦々しく笑って「そうだなァ」って言われてしまって。
様子の可笑しさに戸惑いながらも、吐き出した言葉は戻せないからと喉元に酒を流し込む。無言のまま酒を飲んで、無音が続いて。襖の隙間から入った風が行灯を揺らし銀髪を赤く染めた折に一言。
「俺は鬼だと思うか?」
って宇髄さんが善逸くんに聞く話。問答譚。
善逸が黙ってたら宇髄さんはどんどん過去の話を零し始めて。とある村の主水路に毒物を混ぜただの、任務のために愛もないのに女を抱いただの。殺した人数を覚えていないだの。
そこそこな胸糞話に善逸くんはすっかり飲む気無くしちゃって途中から顔歪める。でも退出する様子も是非を告げる様子もない。
「鬼は人を害するものだ」
「俺は人を害した男だ」
「なぁ、人間だと思うか?」
男が持つ杯はすっかり空っぽだ。傾けても何も零れやしないだろう。
我妻善逸には彼が酔っているのか、酔ったふりをしたいのか。とんと見分けが付かなかった。
心中の吐露や昔話をする男だとは思っていなかった。そして今の話が真実であるとも思っていなかった。
主観が混ざる、主観を混ぜる。宇髄天元はそういう狡猾な話し方をする男だと少なくない晩酌の伴で我妻善逸はよく知っていた。
音で聞き取れる真偽など、両者の前では飾りに過ぎない。
「俺は鬼をよく知りません」
脳内で黒い雷が翻る。頬に残った傷痕を撫でる。善逸はあくまで淡々と答えた。
「俺は他の隊士みたく、鬼を見詰めて斬ったことが無い」
すぐ怯えるし、すぐ逃げるし、すぐ気絶するし。
鬼舞辻無惨の死と共に鬼殺隊はその役目を終えたが、我妻善逸には今でも過去の自分が鬼を斬れていた自信はない。胸にあるのは、兄を見詰めて斬った事実だけだ。
鬼が何か分からない。確かな我を孕ませた本音だった。
「俺は鬼が分からない。だから、あんたも人間に見えます」
片目があって、片手があって、心がある。乏しい経験しか蓄えていない脳は、それだけの材料で眼前の男を人だと判断してしまう。善し悪しで考えれば悪いのだろう。賢愚で言えば愚者なのだろう。賢さとは程遠い。しかし賢しさは確かにあった。
歳を重ねても曲がらぬきらいに宇髄天元はくつくつと笑った。問答というには余りに拙く答えがズレてはいないか。
「鬼が分からないか」
「はい」
「鬼殺隊に所属してた身としてどうなんだ、それは?」
「うっさいな……」
しかしそれでも問い続けた。答えは返された。
下らない会話の先、時間に比例して行灯が光を弱々しくした。お開きの時間が近付いてきていると両者ともに理解していた。
一刻、二刻……室内の灯りがかなり絞られて、表情が見えなくなった頃に宇髄天元はもう一度、昔を語った時のしっとりとした声色で言葉を吐いた。
「お前を連れて、あの里に戻ってみたいな」
鬼の里に、人の子供を連れて行きたい。俺が鬼と称した育ちの場所は彼の瞳にどう映るのか。
酷い酷い、これは鬼だと言い切るならばそれも良い。ただ、もし、この子供が俺が「なりたくない」と逃げた場所を人の溜まりだと形容するなら。
酷く澄んだ橙の瞳に人だと称されたときの、
「親父の顔が見てみたい」
お前が育てていたのは鬼ではなく人なのだと。忍びはどこを見渡しても、ただの一人も居ないのだと。苛烈だった教育は人を作っていたと。空回りの無駄骨だったと。
そう、突き付けられた親の顔が見てみたい。
絶ッッ対嫌ですけど、なんてつれない返事をする善逸の頭をかき混ぜながら、宇髄天元は足抜けして初めて故郷を想った。
時代錯誤な里は消えてなくなってしまっただろうか。育ちの里の鬼は、鬼のまま滅んだのだろうか。
答えがでるより先にふっ、と行灯が役目を終えた。
終。