今日何度目のため息だろうか。誉の行動に対してため息をついているわけではない。こうして説教といいながらも、彼女を自分の目の届くところに置いておきながら、自分の意とは真逆の行為に至っている自分が半ば情けなくてしょうがないわけで。結局安心しておきながら真宵を助けてくれたことを棚に上げて、彼女が隠したかった嫉妬心を暴いて喜んでいるだけ。御剣は、自分の行為の矛盾に頬杖をついたまま顔を伏せた。
「検事?どうかしましたか?」
「いや、キミを責めるつもりはなかったんだが…」
態度の変化に誉は驚き、姿勢を正した。眉間のヒビは確かにさらに深くなっていたが、まとう雰囲気はもう誉を責めるものではないことに気づいていた。いきなり変わったその感覚に、誉は少し下手に出た。
「えーっと、いいえ。私が悪かったんですから。気にしないでください」
「違うんだ。キミにこんなことをさせている時点で重症だ」
そう続けて、また思い悩む姿勢に入ってしまった御剣を見て、誉はなぜか笑ってしまった。こんなに天才なんて謳われても、結局は同じ人間なんだ。普段の感情は硬くて意固地で冷たい人間かと思ったら、こんなにも他人に対して悩ましい態度を取れるなんて。
「なんか、前に私が屋上庭園で不貞腐れてた時みたい。あの時は外だったけど」
「アレはキミの一方的な自暴自棄だろう」
「やっていることは変わりませんよ、検事」
「…答えが分からないだけなんですよね」
誰かに語り掛けるような話しぶりだった。あまりの静かさに、寒さを告げる暖房の稼働音が響いた。当然ながら、この部屋には二人以外に人もいない。定時を越えてとっくに時計の針は七の字を刻む頃だけあって、彼の執務室を訪ねるような人間ももういなかった。
「あの時、確かに私も貴方を責めるそぶりをしておきながら結局は私の我儘だったから」
「私も人のことをどうこう言えないな」
「そんなことないですよ。誰しもにあっていいことだから、我儘って。人間らしくていいじゃないですか」
ちょっと遠慮気味に話しかけたため、結構な小声だったが、それでも御剣は足を組んで頬杖をついたまま、誉よりもさらに小さくなった声で「ああ」、とだけ返した。許容とも拒絶とも言いづらい返答に誉は対応を濁らせる他なかった。
きっと、彼は我儘一つこぼさずこの世界に入ったのだろう。というよりは大人になってしまった。自分の希望を押し込めて、人の希望を優先させてきた。献身的なその性格は、いつか凝り固まって、彼の他人に頼らないという心に変貌を遂げたのだろう。
「別に、我儘を言うのは子供っぽくもないし、だらしのないことでもありませんよ?」
「あまり私を甘やかそうとするな」
顔を上げた瞬間の御剣は、いつも通りの厳しい顔に戻っていた。しまった、地雷を踏んでしまったかと誉は頭の中で苦い顔をする。困ったな、どういう対応を取っていこうか、と考えあぐねる。正座したままのためすっかり麻痺しきった下肢のように、誉の頭もどんどんと麻痺し始める。どうしたらよいだろうかと。誉は、目の前に座る上司の顔色を見定めることしかできない。一度鈍麻した感覚は、そう簡単に戻ってはこない。ついぞ何をできることもなく考える人のごとく頭を抱えた誉の後頭部に、ぽんと暖かい人の手が載せられた。御剣だった。顔を上げようとする誉の後頭部を、強めに抑えながらもぽんぽんと髪を弄ぶようにしながら丁寧に撫でた。
「顔は、上げないでくれ」
「なぜ、です?」
「人様に見せられるような顔をしていない」
「それって」
いいから、と抑えられたままひたすらに撫でられ続ける誉は、ええい、ままよと腹をくくった。
「いつか、見せてくれますか」
「なっ…」
「検事のそういう顔も、そういう性格も。全部ひっくるめて、守りますから」
「…スマン」
いつも通りの癖が抜けきらない目の前の上司の掌のぬくもりを感じながら、ああもう大丈夫だ。と誉は安堵のため息をつくところだった。
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けやき
これ原稿なので読みたくない人は切り上げたほうがいいっす
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向き
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星屑進めてく
初公開日: 2020年04月02日
最終更新日: 2020年04月02日
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原稿おわんないしにそ
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