「怜さんは、お化粧とか出来るの?」
「いきなりどうしたの、ミイナさん」
【ユートエル薬草店】でお茶を飲んでいた怜は、胡乱げな目で相手の女性を見つめる。その相手の女性は、「いやだって」と言った。
「怜さん、レナちゃんになる時は、凄く可愛らしいもの。だから、できるのかなって思って」
「あー……いや。あまりしてないよ」
完全にしてないよ、ではないのね……。ミイナは心の中で呟いた。
「お化粧、出来なくはないんだ。教わったことあるから、一通りはやり方知ってる。でも……」
怜は、へらりと笑った。苦笑いのように。
「教えてくれた人が、なんていうかその……厚化粧で。お化粧が、濃くて……」
「うんうん」
「それに、失敗しちゃうと、見られた顔にならないじゃない」
「それは……そうねえ」
ミイナは頷いた。
「だからね、薄化粧……っていうのかな。そういうのの上手なやり方があったら、教えてほしいなぁって思ってる」
「そうなのね……」
ううむ、とミイナは唸った。化粧品は基本的に、それなりに値が張る。貴族の姫君などだったら惜しむことなく使えるだろうが、ミイナのような庶民だと、時折しか使えない。それこそミイナの場合は、王城で針仕事をする時ぐらいしか出来ない。
だが、だからこそ、惜しむように使うのは得意だ。
「怜ちゃん。良かったら、私が教えましょうか」
「ミイナさん?」
赤色の目を瞬かせる怜。ミイナは、にっこりと笑った。
「怜ちゃんは元の顔立ちが良いし、若いから、あまり厚く化粧しちゃもったいないと思うわ」
「そ、そうなの?」
怜がぺたぺたと自身の頬に触れている。ミイナは「ちょっと待ってて」と怜に言い置くと、その場を離れた。
数分後、ミイナは小籠を持って現れた。
「私の化粧箱よ。怜さんのお裁縫箱みたいに、あまりお洒落じゃないけど」
「可愛いね。リボンが巻いてある」
小籠の持ち手には、青色のリボンが巻かれている。
「ありがとう、怜ちゃん」
ミイナは小籠の蓋を開けた。手鏡を手に取り、怜に持たせる。
「それじゃ、お化粧するわね」
「え……ちょっと待ってミイナさん」
怜はミイナを止めた。まさか、今の僕に化粧を施すつもり……!?
「ええ、そうよ。自分で試したほうが良いわよ?」
「いやでも、今の僕はその、男の服を着ていて」
「問答無用よ! 大丈夫、後で落としてあげるから。えーい!」
「えっ!? うわあああああ!!」
こうして怜は、薄化粧の仕方を教わったという。自分自身を、実験体にされながら……。