武居一孝×御鷹寿史
久方ぶりに訪れた一孝の部屋は相変わらず綺麗に整頓されていた。占い関連なのだろう、多少水晶だとか、表らしきポスター用紙が増えているようだけれど、それらはすべて棚の上に並べられている。俺にはさっぱり用途がわからないグッズたちを眺めていると、一孝がおもむろにクッションを放り投げた。
「それ使え。悪いけど、椅子とかあんまないんでな」
言葉通り、彼の部屋にはちゃぶ台と小さな座布団くらいしかない。畳なので別にそのまま座っても大丈夫なのだが、気にしてくれたようだ。
「ありがとう、別にいいのに」
「あるんだから使えよ」
そう言い残して、一孝は一度部屋を出ると、麦茶の入ったグラスを持って帰ってくる。ちゃぶ台の上に出すと、俺のほうに差し出してくる。
「こんくらいしかねーけど、飲め」
「うん、ありがとう」
「ん」
こく、と喉を潤すと、思ったより喉が乾いていたことに改めて気づく。緊張、しているのだろうか。何度か訪れたことはある。話をするためだとか、テスト前の勉強会だとか、用途も色々だったし、使い勝手もある程度は把握している、つもりだ。ただ、関係が変わってからは初めてだ。
(緊張というか、浮ついてるというか……)
一孝はそんな心のうちを知る由もなく、登校用の鞄から参考書を取り出し始める。そうだ、今日の目的はただの勉強会だ、付き合う前と別段、変わる必要はない。
「じゃ、やるか」
「……うん。どれから手つけようか」
「政経。お前いるうちにやっときたいからな」
「了解」
さりげなく頼られたのが嬉しかったが、できる限り顔に出さずに返した。うつつを抜かす、だなんて、一孝が一番嫌いそうなことだ。自分も今のうちに集中しておきたい。しばらくの間、カリカリとシャープペンシルが走る音と、時計の針が動く音だけが、部屋の中に響いていた。たぶん時間にして15分くらいなのだが、一孝がまた口を開くまで、俺は途方もなく長い時間を過ごしたような気になっていた。
「寿史」
「あ、はい」
「……なんで今敬語だよ」
「ああ、ごめん」
緊張がついに口に出てしまった。一孝は深くため息をつくと、シャープペンシルを置いた。
「何気にしてんだよ」
「何、って……」
「今日、なんかあったんじゃねえの。知らねーけど」
心配されている。一孝はなんてことないようにグラスを口につけていて、俺は不自然に目を逸らした。いや、別に、変な目で見ているわけじゃない。わけじゃないのにそういう視線になったら嫌だと恐れているというか……だめだ。全然思考に落ち着きがない。
「……何でもないよ。その……」
「いーから言え」
「ええと、……一孝の、部屋だなと、思って……」
一孝が急に咽せた。咳き込み始めるものだからびっくりして、隣に座って背を撫でた。咳が落ち着いてきた、と思う間もなく勢いよく顔を上げられて、赤面した頰と対峙する。
「おい、お前、わかってんのか、それ……」
「えっ、何が?」
「……わざとじゃねえのがこえーわ、マジで……」
今度は大きく肩を落とされて、なんだかわからずに「えっと、ごめん……?」と言ってしまう。
「いや、いい。その代わり、お前、覚悟しとけよ」
「え?」
「勉強終わらせただけで、帰れると思うなよ?」
息を呑んだ。けど一孝はもう切り替えたのか、さっさとシャーペンを持ち直してしまう。
「はー、とっとと終わらせるか、とりあえず」
「……ずるいでしょ、そんなの……」
「あ?」
「……そ、んなこと言われて、集中できるわけ、ないじゃないっすか……」
今度は一孝が目を見開く番だった。もう後には引き返せなくて、俺は一孝の手にそっと自分の掌を重ねる。気づけばそれすら握り返されて、ぐっと顔を引き寄せられていた。
放り出されたままのノートのページが、窓から吹き込んだ風でぱらぱら、と揺れる音だけが、少し遠く聞こえた気がした。
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初公開日: 2020年04月02日
最終更新日: 2020年04月02日
試しにやってみつつss書けたらいいなぁって気持ち。
飽きるまで書く
蝶屋敷が好き
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きっこ
二次創作BL 安コ 降新 ※新蘭パートあり
腐向け よくわからない話 昨日の作業の続きです
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