なんでかエルマーの冒険のあれを知ってるリオ。
「なあ、君の心に最初の椅子を作ったのは誰だった?」
ふいにリオにそう尋ねられて、ガロはきょとんとしてしまった。
「ああ、やっぱり知らないか」
アイツ、何が『一般教養の範囲内』だ、とぶつぶつ呟いたあと、「僕も放浪の途中でその時の同行者から聞いた話だから真偽のほどは定かではないけどな、」と前置きして、リオはコーヒーを一口飲んだ。
いつからそこにあるのかわからないコーヒーマシン。
それが吐き出す黒い液体をレミーは『薄味の泥』と呼んだ。
煮詰めすぎてエスプレッソのような濃さになってしまっているものに顔をしかめて、リオは一瞬ちらりと赤い舌をのぞかせる。
「異国の翻訳者がどこかの講演で『実在しない生き物が子どもの心に椅子を作り、それらが去った後に実在する大切な人を座らせることができる』といっていたらしいんだ」
「んん? どういう意味だ?」
考えながら話しているからか。リオの視線は一瞬だけ左上を向き、そのまま滑るように横に流れた。
短気なガロは手持ち無沙汰を紛らわせるように、赤と白のカップから伸びるストローをがじがじかじった。
「人間だれしも、はじめは何も知らないだろ?」
リオはどう話すか決めかねる、といった様子でぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
食うに困った経験から捨てるのはもったいないと躊躇っているのか、果敢にもう一度コーヒーを口にする。
他の隊員は、冷蔵庫の隅に入っている粉末状のインスタントコーヒーを使っている、ということを早めに教えてやらないとなあ、とぼんやり思いながらガロはコーラの最後の一口を吸い上げた。
「身の内から湧き出る感情がどんなものかも、その感情も。必ず何かを通して、人は感情の名前や付き合い方を学んでいく」
飲み終わったカップをローテーブルに置き、ガロは不思議な色をしたリオの瞳をじっと見つめた。
瞳に映りこむ白い壁。
その奥に荒野が見えた気がしたのだ。
「そうだな」
端に寄っていた瞳が、今度は右下へ移動する。
「普段の生活ではなかなか知る機会のない激しい感情や特別な感情は、得てして非日常的な体験や絵本の中の誰かや何かに呼び起こされるものだろう」
「ああー、なんか身に覚えある。『感受性を育む』なんつって、色んなとこ連れてってもらった。全っ然本読まなかったからかもしれねえ」
「そういう子もいるだろうな」
リオは口の端を持ち上げ、苦笑しながら美しい黄緑色の髪をかきあげて耳にかけた。
「まあそうして知った気持ちを、いつしか現実の誰かに重ねていく。そういう過程のことだと、僕は思った」
そういって懐かしげに目を細める。
哀愁と温かさが入り混じった紫色の瞳が、リオにその逸話を語った人と再会することがかなわないのだということを、ガロに悟らせた。
とても正気では飲めたものではない液体に口をつけるのを諦めて、リオはついにコップをテーブルに置いた。リオの脳天には見えない白旗。
リオは手を引き戻すついでにそのまま肘を太腿に置き、手首の関節を頬にあてて、だらしなく頬杖をついた。
「その翻訳者が訳した絵本は、ある少年が恐竜と友達になって別れるまでの話なんだが」
「へえ」
「同行者が骨董市で見つけてな。『俺のうまれた国にもこの絵本があった』と僕に買い与えてくれたんだ」
「良い人じゃねえか」
ガロはなんのてらいもなくそう思った。
親を亡くし、大人と子供という立場であっても、他人が他人へ行う"与える"という行為が、必ずしも無償ではないということを身をもって知っていたからだ。
善意があろうとなかろうと、持たざる者への何の対価もなしに何かを譲り渡すという行いはそれだけで善行であると、ガロは強く信じている。
まあたまに「この人にはあまえてもいい」と無意識に思う人に出会うと、多少我が侭が行き過ぎることもあるが。
「紙の絵本だぞ。僕はその時もう十代も半ばを過ぎてたっていうのに。それに、それにだ。僕らはバーニッシュだ。いつ自分たちの炎で焼失するかもわからないのに」
「そりゃまあ」
「更に文句をつけるなら三冊も買う必要はなかった、絶対に。生活費カツカツだったんだぞ」
「はははっ、クレイにもそういうとこあったな! 子供ってだけでぬいぐるみを喜ぶと思ってたり」
「第一次大炎上の世代はそんなもんか。まぁ、さっきの言葉はその時に聞いたんだ」
リオは胸のポケットから小さな箱を取り出してマッチを擦った。
プロメアを次元の向こうへ還したことにより炎から解放されたと喜ぶ人は多かったが、バーニッシュだった者の中には突然炎を失った喪失感で精神を病むものもいた。
そういった元バーニッシュへのセラピー、もしくは精神衛生保護のため、申請者には頓服の代わりにマッチが配られた。
ただし、燈る火はとても小さく何かに触れれば消えてしまうし、先端の発火剤や燃える軸は特殊な物質を使っているため炎の温度もごく低温である。けれど、そのピンクと黄緑の炎は、過日彼らと共にあったバーニッシュ・フレアの色によく似ていた。
「僕の最初の椅子をつくったのは炎ではなかった。だけど、彼らもまた僕の心に大きな椅子を作って置いていってくれたんだな、ということに最近気付いた」
ちろちろと細く燃えるマッチ。
ガロには消さねばならない対象でしかない炎だが、しかし、リオにとってプロメアの炎は人生の片割れともいえる存在である。その存在が、もうこの世界にはいないのだとしても。
「プロメアは、僕と人との懸け橋となり、未来をつくって消えていった」
その未来のために、多くのものが焼け焦げて灰になってきた道があることを承知でリオは言った。マッド・バーニッシュの元頭領は、苦々しく胃の腑を焼く事実を飲み込み、それでも炎への感謝と愛を語る。
「僕は彼らと過ごして、失ったものもたくさんあるが奪われたものは何一つとしてない。悪は一つではなく、護るべき人の他にある人は、必ずしも憎むべき人ではないことを知った」
リオはそっと目を閉じ、あの日身体を駆け巡った炎を偲ぶ。
それは過去との決別ではなく、過去を踏み台にするという決意だった。
「僕は彼らのことがどうしたって嫌いきれないし、僕を形作っていったことを忘れることもできない。僕は彼らにバーニッシュとして育てられたんだ」
はかったようにマッチの火が消えた。そこに残ったのは炭化した棒と、リオの苛烈で温かな思い出だった。
きりが良いので本日はここまで。
ご視聴(してくださっている方がいらっしゃれば)
ありがとうございました。
チェスをするガク。
回想どんがらがっしゃん。
若い頃のクレイが子ガロのやったことで一番イラついたのは、毎朝毎朝きっちり同じ時間にカーテンを開けること(?)
あとは野となるし山となるしきっとエロが書ける。きっとだ。
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コロΔ
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ガロクレ どうでしょう。
初公開日: 2020年03月16日
最終更新日: 2020年03月16日
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遅筆ですので、筆が進むかどうかは自信はありませんが、お楽しみいただければ幸いです。
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