使い方がよくわかってませんが
何事か書いていきます
とりあえずスタート
誤字脱字はなぜ起きるのか、それも分かると思います。知らんけど
当たり前といえば当たり前だが、痛みが走った。凄まじい痛みが。
そして光に飲まれて――後のことは正直よく覚えていない。ただ。もし機会があれば。今度は彼を完膚なきまでに倒そうと。そう、決意したことは覚えている。
そんな決意は霧散するしかないのだとわかっている。わかっていた。それでも、と少し願った。
光の中、何かがそのネガイに応えてくれたような気がして、目を閉じた。
◇
「カルデア司令官代理より命令。アーチャー、ビリー・ザ・キッドは可及的速やかに管制室に出頭すること」
ここはカルデア。陸の孤島。突然の館内放送に嫌な予感しかしなかった。
カードゲームの手を止めて、マスターと二人天井を見上げる。
「何だろ」
山に捨てられたカードの数は大量で、でもゲームは終わる気配がなくて。その山の向こうには景品のチョコレートが所在なさげに佇んでいる。
「さあ……まあ、行ってくるよ」
手札を裏返してテーブルに伏せた。多分これの決着はもう少しかかる。
「いってらっしゃい。帰ったら続きね」
「はいはい」
扉の前で振り向く。
「あ、そうだ」
ぎくりとするマスターの姿が目に映る。
「何?」
何でもないですよと言いたげな声音に笑みが浮かぶ。
「僕がいない間に手札見るなよ」
彼女の様子に今度は哄笑しながら手をひらりと振って部屋を出た。通路を歩くものはいない。
「フォート・ジョルディ?」
呼び出された管制室で聞いた単語は懐かしい響きのものだった。
「そうそう」
イタリア人と二人きりで地元について話すのは何か妙な心地がする。
「アメリカ西部の片田舎だろ。何でまた」
「おや。知っているのか」
「そりゃね。一応地元だし。地名を聞いたことくらいはあるさ」
モニターに表示された光点を見る。記憶の通りの位置にそれは存在していた。
「で? フォート・ジョルディがどうかしたの?」
「そこに小さなゆらぎが発見されてね」
「でもさ。これ、一八八九年だよ? 何で僕?」
モニターには一八八九年の文字。僕の死後だ。
「ゆらぎがあるって言っただろ? 念のための確認というわけさ。……ビリー、一八八九年にフォート・ジョルディにいた覚えがあるかい?」
「は?」
頭に疑問符ばかりが浮かぶ。天才の考えることはわからない。
「ないに決まっているだろ。もうその頃には僕は死んでたんだから」
「だよねえ」
気の抜けた返事にずっこけそうになる。うん。やっぱり天才の考えることはわからない。
「いや、ここにね、ビリーの反応が」
「はあ?」
「正確には、『サーヴァント、ビリー・ザ・キッドの反応』かな」
とん、と光点は細長い指に指し示される。相変わらずそれは光り輝くばかりだ。
「僕が誰かに召喚された?」
順当な推測を口からでまかせに言う。
「それがね、わからないんだ」
「わからない?」
「そう。サーヴァント反応に近いものではあるけれど、異質でもある」
伏せられた目の色を窺い知ることはできない。つ、と天才の指はモニターをなぞる。
「『一八八九年に存在するビリー・ザ・キッド』」なんてあり得ない」
呟いた声は自分で思った以上に低くなった。
「その通りだ。だが、確かにここに存在している」
「スキャンは?」
「したさ。勿論ね」
肩をすくめられる。少しだけイラッとする仕草。
「でもね、現地の詳細はわからないんだ。あえて言うなら――そういえば」
「何だよ」
「そう結論を急いでも良いことはないぜ。西部開拓時代に獣人っていた?」
「は?」
今日何度目かの台詞を言って、目を見開いた。ついに天才は頭が狂ったか。
聞けばフォート・ジョルディはウェアウルフやリザードマン等々、おおよそ魔物と呼ばれる生物が大量に跋扈する人外魔境と化しているらしい。
「西部開拓時代がそんな場所なわけないだろ」
「でもスキャンするとそんな感じなのさ」
ほら、とスキャン結果を見せてくる。見覚えのない数値がそこにはあった。
「映像もあるよ。見る?」
「いや……遠慮する……」
頭を抱える。北米の特異点が僕の時代じゃなくて良かったと心底思う。見知った風景が変質するのはどうも得意ではない。
「それで? 僕に道案内しろって?」
疲れた頭は結論を急いで、若干食い気味になってしまった。
「うん。そ――」
「お断りしておくよ」
ダ・ヴィンチが何か言う前に答える。
「おや。残念」
全く残念そうに聞こえない声音に眉間に皺が寄った。
「聖ゲオルギウスにでも頼んだ方が賢明じゃないかな」
「名前繋がりって?」
「そうそう」
ついでに写真も撮ってきてほしい。嫌ではあるけど、異界化した西部の景色は気にはなる。映像は嫌だけど。
「大体、元から僕に依頼する気なんてなかっただろ」
「お見通しかい」
「そりゃあね」
あの天才がわざわざ歪みの原因を送り込むとはとても思えない。
「特異点モドキとはいえ、何が起こるかわからないだろ。一八八九年のビリー・ザ・キッドなんて」
「正解。よくわかってるじゃあないか」
「お褒めに預かり光栄でございます。万能の人」
ダ・ヴィンチの方を見ずに言う。いい加減部屋に帰りたい。扉の方へ向きを変えた。
「ビリーにはオペレーターをやってもらおうと思ってね」
「オペレーター?」
思わず振り向いた先にはとても。とても良い笑顔の万能の天才。
「そう。まあ、待機でも良いんだけど。何が起こるかわからないから詳しい人間をオペレーターにしようかと」
「それ、何かメリットがあるかい?」
「少なくとも、不測の事態に対応しやすくなる」
ピンと人差し指を立てて得意げに語りそうになったからストップをかけた。
「やるよ。やれば良いんだろう?」
「流石。話が早い。ジェーンがあの調子じゃなければ多分ジェーンも候補に入ってたんだけど」
「彼女は……まあ……。ただ、一つ良い?」
「何だい? 聞こうか」
ディスプレイの電源を切る背中に語りかける。
「オペレーターをやっている間は『ビリー・ザ・キッド』として扱わないで欲しい。そうじゃないと何となく嫌な予感がする」
「それは心眼スキルかい?」
「いや、ただの勘だよ」
薄く笑って、管制室を立ち去ろうとした。
「どこに?」
「マスターの部屋。どうせマスターを呼ばなきゃいけないんだろ?」
「そうだね。じゃあ、よろしく」
手をひらりと振ってそのまま管制室をあとにした。
「え、ビリー行かないの?」
「マスター……あのさあ……」
通路で概要を話しながら歩く。案の定な彼女の反応に頭を抱えた。
「一八八九年の特異点にビリー・ザ・キッドなんてどう考えても厄ネタだろ」
「そうかなあ。ビリー生存説あるし案外そうでもないかも」
「ないない。しかもサーヴァント反応だし」
管制室に行く前に植物園に寄る。中を見れば果たしてそこに目的の人物の姿はあった。
「ロビン。少し、良い? あ、ジェロニモもいるね」
「何すか。あ、おっさんは起こすなよ」
「ジェロニモにも聞いてもらいたいことがあったんだけどなぁ」
穏やかな寝顔を眺めながらぼやく。人工の陽光を受けてジェロニモはよく寝ていた。
「ロビンとジェロニモにマスターに同行してもらおうかなって」
「どこに行くんだ?」
「アメリカ」
ジェロニモの横に座る。相変わらずよく寝ている。流石欠伸をする人。
と思っていたらジェロニモは目を開いた。
「何かね?」
「アメリカの特異点だって。ジェロニモ、行ける?」
「行くしかないのだろう?」
すべてを見透かされた気分になってくる。
「正解」
「ビリーは行かねえのか?」
「僕はオペレーターだよ。一八八九年のビリー・ザ・キッドなんて。厄ネタにもほどがある」
何か言いたげなロビンは無視だ。明らかに何か言いたげだけど。
「小僧とは違うのだろう。あまりにも、時代も、地域も。離れすぎている」
ジェロニモの穏やかな声。ロビンの何か言いたげな気配が消えた。
「そういうもんですかねえ」
「そういうものなのだろう」
「じゃあ、生まれてもないわたしは?」
マスターのよく通る声が割って入る。
「同じことだ。きっとな」
ジェロニモは穏やかに笑った。その雰囲気に丸め込まれる。
「そういえばさ、ビリー」
「何だい」
「アメリカ西部って何か美味しいものある?」
「さぁ……鯰のフライとかあった気がしたけど……」
鯰、という単語にマスターの顔色が曇った。
「鯰……鯰、かあ……」
「良いじゃないか。鯰。定番だし」
「アメリカ人基準にしないでほしい」
管制室にまた向かう。ダ・ヴィンチとエレナ、それからジェーンが待っていた。
「エレナ?」
ジェーンはわかる。いくら別の宇宙だろうが何だろうが。彼女がスカウトであった事実は揺るがない。でも、エレナは何だっけ。
「ちょうどこの時期にフォート・ジョルディにいたらしくてブラヴァツキー氏にもね、協力を仰いだんだ。でも」
「嫌よ! 絶対に嫌! 誰がフォート・ジョルディになんて行くもんですか!」
エレナは取り付く島もない、というふうに腕を組んでいた。いつもの落ち着きは欠片もない。
「この一点張りでね」
ダ・ヴィンチはまた肩をすくめた。
「で、わたしは~」
「言わなくても大丈夫。カナリーはいるかわからないよ」
エレナの方に手を置いて顔を出すジェーンを見上げる。
「え~」
「確かに彼女はあの時代まだ生きてるはずだけど。いるかはわからない」
追撃が来る前にダ・ヴィンチに向き直る。
「何はともあれ。メンバーは決めてきたんだけど」
「ロビンとジェロニモかい?」
「うん」
「身内人事だね」
放っておいて欲しい。
「この二人とマスター、それからジェーンが現地部隊。良いね?」
ダ・ヴィンチの言葉に頷いた。
「うん。で、僕はビル・マッカーティとでも名乗っておくよ。現地人に通信を聞かれる可能性もあるからね」
ビル・マッカーティだと言い聞かせる。大丈夫。役割を演じるのは得意だ。
「さて、いけそうかい? 『ビル』」
「勿論さ。レオナルド」
にっこりと笑って管制室の椅子に座る。隣にはマシュだ。
「よろしくね、マシュ」
「はい!」
頼もしい返事に笑みを深める。
「じゃあ、行こうか。立香ちゃん。準備は良い?」
「はい!」
「あ、待ってマスター」
呼び止めて、立ち上がって。あるものを握り込ませる。
「何これ」
「お守り。バレンタインにあげたやつだよ」
「どこにあった?」
「君の部屋。忘れてたよ」
「ありがとう。じゃあ、いってきます」
ひらりと手を振ってマスターを見送った。嫌な予感を押し込めながら。
「今回のオーダーは一八八九年のアメリカ西部、フォート・ジョルディでのゆらぎの原因調査及びその打破。では、作戦開始だ。君たちの道行きに幸多からん事を」
ダ・ヴィンチの声に重なってシステムの起動音がする。モニターに映し出されていたのは生前、嫌程見た荒野だった。
◇
その時、藤丸立香は荒野を走っていた。ジェロニモとロビン
ジェーンとはぐれてしまった。しかも通信はつながらない。慣れた事態ではあるけれど、久々だったので少し気が滅入ってしまう。
さらに、そこにゾンビの大群が押し寄せてきていた。なるほど、確かに西部は人外魔境と化している。
走る、走る、走る。今の自分には何の対抗手段もない。
「クラウス! 人がいる!」
「ま、待ってください、セーラ! 僕は君と違ってそんなすぐ走りだせな……っ」
「待てと言われて待てる事態じゃないでしょ!」
少女の声を聞いた瞬間に銃声が鳴り響いていた。ゾンビの大群は霧散する。勢いがついてそのまま転んだ。
「大丈夫?」
「大、丈夫です、か?」
声に顔を上げる。金髪の少女が手を差し伸べていた。少女の後ろには黒衣の青年。
それが、セーラ・ウィンタースとクラウス・スタージェスとの初コンタクトだった。