アテンション!
ジャンルとしては、ビジネス書を流用したSFのようなお話です。
社会科のお勉強になるような、ならないような。
世界観としてはホモ・デウス(下)、ガリヴァー旅行記などを参考にしています。
前回までのあらすじ!
(ワンライ「はじめまして」にて
掃除屋さんをしている自称エリート社畜は、少女のお掃除を依頼される。
しかし、少女と途中から来たおじさんに圧倒されて、反対に捕まってしまう。
実は、彼女達の玩具として、わざと掃除屋協会みたいなところから捨てられたのでした。
その様な感じでざっくりと。大体合ってる、はずです。
以下、本編2になります。
熱が全身に回って、身体は避けるように痛い。視界はぐるぐると回っている。
世界の色彩が反転していて、真っ黒な朝の世界が広がっている。
 今、自分の体勢を確認する。
低反発のソファに横になっている。幻覚なのか、実際なのかは分からないけれど、そのソファに深く、深く、沈んでいく感覚がする。
このまま何もしなかったら、沈んで闇に落ちていきそうな感覚がする。
それなのに、抗えない。
いや、抗わなくては、いけない。はず、なのに。
けれど、固く、固く閉じた瞳は、鉄の扉よりも堅固だった。
身体を動かそうとしても、頑丈な鎖に縛られたように動かない。
息が、続かなくなりそうだ。
このまま無理に目を開こうとしたら、裂けて、血が出てしまいそうな気がする。
それでも、この状況を打破しなければ仕方がない。
勢いのままに、何も考えないようにして、瞳を抉じ開けた。
――すると、朝の光できらきらとした真っ白い世界が広がっている。
プラスティックのシャンデリアの様なものが、窓の近くで反射して眩しかった。
さきほどまでの眩暈や、痛みがそっと癒えていく。
朝の光が全身を包んで、脱獄兵の気分を味わえた気がした。
自分の現状を確認する。
夢と同じで低反発のソファに横になっていた。
慌てて、身を起こして座り直す。
とん、とんとん。
小さなノック音がした。
僕はまたソファに横になって、寝たフリをし直そうと――
「寝たフリしなくても大丈夫だよ。もう見ている人がいるから。もっと気楽に」
「えっ、いや、あの…人違いです…!」
耳元というよりは、直接的に低めの声が聞こえてきた。
僕も慌てていたために、「人違い」などと良く分からない発言をしてしまうも、それにさえくつくつと喉で笑う声で返されてしまう始末だ。
左右を見渡しても、どこにも人の姿はない。確かに、人の気配はするのだが。
「人違いも何も。誰であっても大丈夫だよ。正直、家畜(ヤフー)であれば誰だって良かった。
とは言っても、君は少しおまけの特殊能力が面白いから。惜しいといえば、惜しいかな」
声は、天井から聞こえた。
左右は見渡したものの、流石に天井は見上げない。そう思って、恐る恐る上を見上げる。
すると、逆さになったテーブルに優雅に腰を掛けて紅茶を飲んでいる壮年がいる。
驚いて、目を見開く。
しかし、隣から、とん、とんとん。と肩をノックされる。
次から次へと起る問題に、慎重さを失ってしまって、思わず振り返る。
ふに、
僕の頬に、ふわりとした指が触れた。少女は微笑んだ。
「ふふん、引っかかった。おはようおにいちゃん。調子はどうかな?」
「どう、と言われても。あんなことがあって、気を失って、此処はどこですか」
「ここはどこ? わたしはだれ?状態? それは、たいへんだね」
「わたしは誰はないから大丈夫。ちゃんと覚えている」
「そっか。よかった。ちょっと前は、いろいろあったけど、今はのんびりしようね」
「…っ、この状況で……どう、のんびりしろと」
「すごく大変なところにいたから、よくがんばってるなぁと思ったよ」
先程までのほんわかとした温かい表情を消して、
真っ直ぐに射貫くように、僕を見て、口元だけの微笑みを見せた。
「そうは言っても、昨日初めて話しばかりです。いえ、話すらまともにしていたとも言えないですよね」
「あっ、そうだね。じゃあ、何でもないよ。わたしたちは、きみを傷付けはするけど、壊しはしないから」
「傷付けてもいけないと思います」
「保障できないことは言わないのです。あとね…」
 言葉を濁すと少女は、そっと視線を上へずらし、愉しそうに不愉快を告げた。
「ウィル先生、わたしに対しても上から目線なのは、天罰だよ?」
 少女は指をぱちり。と鳴らした。
すると、天井にあったテーブルや椅子、全部がまっさかさまに落ちていく。
椅子に座っていた壮年は、慌てることなく椅子ごと自分の身体をひっくり返して、着地に備えた。
安心をしたのか、わざと余裕を作ったのか。テーブルをひっくり返して、空中で紅茶を飲み直す。
着地する手前、一瞬テーブルも椅子もぴたり。と止まり、降下する際の重力を失くす。
ふわり、とテーブルクロスが少し浮いたことで、少しだけ空中に浮き直したことが分かった。
ことり。と綺麗に着地をする音がした。
その様子に、少女は壮年に向かって、少し腕組みをし、頬を膨らませて抗議をする。
「あああああ、もうばか。優しい着地に変えたら、天罰じゃないのに」
「痛いことを好んで受けようとすることは流石にしないよ。それに、もう上から目線ではなくなったから、いいのでは?」
「その発言、とっても上から目線なんだよ。ばか。ばか」
「……えっと、」
二人だけで話している状況は、僕が話さなくても良いという意味では安心する。
それでも、状況が掴めていなくて、落ち着かない為に、声をかけた。
 すると、二人も視線を僕に向けて、身体を向き直した。
「ウィル先生、困っているみたいだから自己紹介しようね。わたしはね、らびっと・らぶ。らびっとで良いよ。本当の名前は、ゴツゴツしているからひみつ。はい、ウィル先生の番」
「ウィル・オリジナルと言うよ。大したことない、ただの初期概念だ。」
「「よろしくお願いします」」
そういって、二人は僕に手を差し伸べた。握手、だろうか。
穏やかで明かるい挨拶で、友好的な感情を見れる。けれど、二人の力は狂暴だ。
異常ともいえる様な、それぞれが魔王やラスボスと言ってもいいほどの力だった。
その二人が、ちょっとだけエリートで優等生なだけの期待の新人である僕に話しかけるのは、本当に違和感がある。それに、少しだけ自分の脆弱さが見えてしまって、本当に気分が悪い。
 それと、その瞳には温かさだけでなくて、元々の本質である獰猛な色が宿っていて、僕の恐怖を煽る。
片手ずつ、差し伸べられた手。それを、右手と左手でそれぞれ触れて、握り返す。
壮年の手は、黒い手袋越しからでも電流の様なものが流れていて、無機質な印象を受けた。
少女の手は、真っ白な雪の様な肌をしていて、透けるような冷たさがある。
その手を握ったことを確認すると、二人は僕をソファから立たせた。
そして、二人はお互いにアイコンタクトをしてから、深く礼をした。
「たしか、おじぎってこうでいいよね?」
「それで合っているはずだよ。先程は、悪かった」
あの二人がいきなり頭下げたことに、驚いていると謝罪の言葉が聞こえて、僕は混乱した。
「先程、とは」
「ああ、分からないのなら、そのままで。それで、君の名前が知りたいな」
壮年は耳元や直接脳内と言った小細工をせずに、自分の唇から声を発した。
それに安堵して、僕もそのまま名前を告げた。
「僕は、N-3510です」
「……え、」「……えぬ、さん、ご、いち、まる…?」
二人して、目を丸くした。
良く分からないが、確かに二人の様な名ではないから不思議に思われているのだろう。
しかし、少し失礼だとも思う。これが、名前なのだから。
 喉元に、軽い痛みが走る。
それが、電流だと気付いたのは、数秒してからだった。
「その名前を求めているわけではないよ。君が奪われていた方の名前が知りたい。
黙秘権はあるけど、ちょっと痛いかもしれないな」
プラスチック製の遊び用のナイフを喉元に、ぺたりと付けられて、愉し気で穏やかな音色で脅しをかけられる。
遊び用のナイフだったとしても、彼らの手にかかればどんなものでも凶器に見えてしまう。
 しかし、名と言われてもこれしかない。そもそも、何故、それで怒っている様な楽しんでいる様な表情をされるのか。此方が怒りたい気もするが、それどころではない。
固唾を呑んで、愉し気な声の主を見上げると、湖の様な双眸には劫火が宿っていて、目を反らすことも許されない。
けれど、これ以外に名前などない。はっきりと伝えよう。
「…あ、…の。………っ、……か、り…ませ…」
声さえ、出てこなかった。
僕の中では、もっと格好良く「あの分かりませんが何か?」と返すはずだったのに。
彼らの前だと、本当に自分が足したことない人間だと実感させられそうになる。
悔しくて、情けない。
恐怖よりも、自尊心の様なものがどんどん壊れる音がすることが嫌だ。
此方の様子を察したのか、ナイフはそっと引かれた。
「どうした?何か、飲み物でも持って来た方がいいかな」
「ウィル先生がおにいちゃんをいじめたから、こうなったんだよ」
「……いじめたつもりは、なかったよ」
「ねてる時に悪夢見せて、過去読んでいた人がなにをいうの」
「…うーん。言い返せないね」
小さい少女が、背の高い壮年をたしなめている光景に少し気が紛れた。
ウィルさんもウィルさんで、気を遣ってくれているようで安心をした。
「どうしようか。アールグレイなどのシトラス系が好きで、普通のダージリンとか、そういうものがないけれど、それでいいかな」
「えっ、ええっと、何でも大丈夫です」
「余熱も完璧にして、最後の一滴とか美味しい部分だけで作るからね。優しいからね」
少しだけ、焦った様な心配する様な眼で、僕に注文を聞いてくるウィルさん。
普通にどこにでもいる喫茶店のマスター…にしては、少し容姿は整っているけれど、そう思っても違和感がない雰囲気になった。
「それでね、ミコトくん」
「ミコトくん…。それは、僕ですか」
「うん。さすがに呼びにくくてつけてみた。N-3510だからミコトくん」
「えっと、なんでしょう。少し小ばかにされている様な」
「あ、ミコちゃんがよかったかな?」
「ミコトくんでいいです」
「うん、きまりだよ。今日はね、ウィル先生も反省しているし、わたしも捕まえる時に荒くしちゃったからゆっくりしててね。おつかれさまだよ」
頭をぽん、ぽんと撫でてくれる彼女の手は、やはり冷たい。
どこか洗練されていて、透けて消えている感覚もする少女の手。何故か、とっても安心する。
だから、本音が零れた。
「協会に頼んだ、とは、つまり。
僕は捨てられた、ということですか」
「直接的に言うと、そうなるかな。」
「貴方達が、僕を要らないと言ったら帰れますか」
「それは、どうだろう」
「僕は、帰りたいです。
こんなところで、終わりたくない。」
「終わる、そっか。
きみが、そう思っているのなら、ごめんね。
でも、きみじゃないと、きみは帰れないから」
少しだけ、本音を伝えると焦燥感の様なものに駆られて、頭が可笑しくなりそうだ。
早く、戻らないと。僕は、まだ期待されていたはずで。そう、なんでこんなことになっているんだ。
捨てるなら、ほかでもよかったはずなんだ。
頭がぐるぐると悪い方向に動いて、自己嫌悪に陥る。
それを悟ったのか、彼女はそっと僕を抱き締めた。
「だいじょうぶだよ、ここは君を壊しはしないから」
きらきら、とした雫が、そっと手に落ちてきた。
彼女や彼が何者かなのかは分からないし、僕を此処に閉じ込めたのは確かで。
協会側が僕を捨てたのも、一応、紛れもない確かなこと。
でも、僕を想っている様な言葉もらったのは、随分久し振りな気がして、
欠けたものが埋まっていく気がして、それが無性に怖くて、落ち着かなくて。
温かった。
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ワンライ企画「きらきら」
初公開日: 2019年11月03日
最終更新日: 2019年11月03日
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コメント
ワンライ企画「きらきら」。「はじめまして」を読んだ方が少し分かりやすいかもしれないです。
コメント欄が上手く見れない人なので、うまく拾えないと思われます。