「雨が降っていたら良かったのにね」
 なんでもないような顔で、彼女は言った。彼女がさした空色の傘越しに、ぼんやりとした明るい灰色の空が見える。今日の予報はどこまでも曇りで、梅雨の晴れ間というにもぱっとしない天気だった。湿気が肌に貼りついて、嫌だなと思う。僕の髪は細すぎて、すぐにくるくるになってしまうから。
「なんで?」
「だって、雨が降ってたら相合い傘できるよ。今日傘持ってきてないでしょ、登坂」
「持ってきてないけど」
 でも、それは今日が晴れの予報だったからで、もし雨が降っていたら傘を持っていたんじゃないかと思ったけど、結局口には出さなかった。どうでも良いよと笑われそうな気がしたから。代わりに僕は、それこそどうでも良いような質問をする。
「間々原、どうして今日傘さしてんの?」
「なんで? 日傘だよ、これ」
「いや、それでも」
 曇っているから、日傘が必要にも思えない。どうでも良いよと彼女は言って、くるりと傘を回した。まっすぐな、黒い髪が細い背中で揺れる。彼女にはくせっ毛の僕の憂鬱は、きっと一生分からないだろうと思う。背筋も視線もどこまでもまっすぐで、僕には、彼女が清く正しく自信に満ちあふれた人のように見える。
 そういえば、昨日妹とケンカしてさ。彼女は僕の方を見ないまま話し始める。
「まだ私の部屋片付いてないんだけどさ、妹には全然関係ないじゃない。すごく突っかかってくるんだよね」
「全然関係ないってことはないんじゃないの」
「関係ないよ。どうせ手伝ってくれないもん。まあ、その後お母さんにも怒られて、ちょっと片付けたんだけど」
 でも、いいのよ、まだ。
 一言ずつ区切るように、彼女は言う。まだ、もう少しだけ。そう言って僕を見上げた瞳には、傘の空色が映り込んでいる。
「昨日ちょっと夜更かししたから、授業中寝過ぎた気がする」
「ノート見せようか?」
「いいよ、返すの忘れそうだから。それよりさ、私現国も寝てたんだけど、数えた?」
「数えた。50回」
「50回! 新記録じゃない?」
「新記録じゃない。53回があった」
「でも、すごいよ」
 やたらと嬉しそうに、彼女は笑った。現国の先生が喋る合間にやたらと「えー」と言うので、僕と彼女は授業のたびに回数を数えているのだ。
 正直言うとどうしてそれが嬉しいのか、僕には分からないんだけど、彼女が嬉しそうだから、すごいねと僕は言う。確かに、50回はすごいと思う。後で答え合わせをすると大抵彼女の方が多いから、今日ももしかしたら本当は、新記録に届いていたのかもしれないし。今となっては確かめようもないけれど。
「こういうさ、どうでも良いこと数えるのって何で楽しいんだろうね」
「うーん、楽しい? これ」
「え?」
「楽しいっていうより、暇つぶしじゃない?」
「楽しくなきゃ暇って潰せなくない?」
 先生の口癖を数えるのが楽しいと言う人を初めて見たけど、そこまで言うと怒られそうだから口をつぐむ。足下の雑草を蹴ると、彼女が首を傾げた。眉を寄せて、これは自分がちょっとおかしなことを言ったかもしれないと思っている顔だ。
 だってさ、とくちびるととがらせて、空色の傘をくるりと回す。ボタンの付いた紐が、傘の上で弾む。
「楽しくないんだったら、寝た方が良いじゃん」
「寝てたら怒られるでしょ」
「でも私が先生だったらさ、口癖数えられてる方が嫌だと思う」
「それはそうかもしれないけど」
「何だよはっきりしないなー。あーあ、登坂も私と同じタイプだと思ったのにな」
「えー、なんか、ごめんね」
「いーえー、謝ることじゃないですよー」
メモ:
座ってる描写忘れた。頭の方に追加する。
プロットでは晴れてるんだけど一体どうしてくれるんだ私。
カット
Latest / 58:23
カットモードOFF
02:34
深由
こんばんは!
02:53
こんばんは!見てくださってありがとうございます
03:07
深由
紺さんのライブ嬉しいです!
09:40
深由
文章好きです……
09:54
ありがとうございます…!
57:10
そろそろ眠いので終わりにします。見ていただいてありがとうございました!
57:11
[:heart_default]
チャットコメント
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
雨が降っていたら良かったのに(仮題
初公開日: 2019年07月06日
最終更新日: 2019年07月07日
ブックマーク
スキ!
コメント
プロットまで事前に作っています。多分完成しません。
ネタ出し
掌編のネタ出しします。
真夜中の住人のその後~2人で光の中を~【第10話】
冬3公演「真夜中の住人」のその後を全力で妄想捏造したアフターストーリー【第2話】。全団員扮するオリキ…
のーべる