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「えっと、こちらが旦那さんで、元男性だったベルタンさんということでしょうか?」
「はい」
 ベルタンさんはアリシオ先輩の問いに頷く。
 見た目三十代くらいの女性になってしまったベルタンさん。
 その隣に奥さんであるマロリーさんが座っている。
 
「あの、元に戻れるのでしょうか?」
 ベルタンさんは不安そうに聞く。
「そうですね」
 
 アリシオ先輩はこりこりと額を搔きながら、考えているみたいだ。
 そうだよな。
 俺たちだって戻れないないのに、難しい質問だ。
「まずは、呪いを掛けられてしまった場所に案内してもらっていいですか?」
 微妙は沈黙を破ったのは、自称「ギエム先輩」だ。
 白い仮面が滅茶苦茶、その場にそぐわない。
 だけど、ベルタンさんもマロリーさんもその点について聞いてくることはない。
 まあ、顔に傷があって仮面をつけている可能性もあるもんな。
「はい。大丈夫。ついてきてください。マロリーは家に残っているか?」
「いいえ。私も行くわ」
「そうか」
 まあ、魔獣に襲われたら心配だもんな。旦那さんの心配もわかる。
 とりあえず、ベルタンさんの案内で俺たちは魔獣が出た現場に行くことにした。
 王都から出立して、半日かけて俺たちはカナーンの村に到着した。
 村の門番の案内で、呪いをかけられたベルタンさんの家に行って、事情も聞かないうちに現場検証だ。
 まあ、重要なのは魔獣を再度捕らえることだもんな。
 グラシアもエレナさんも妙に静かだ。
 まあ、俺も黙ってついて行ってるだけだけど。
 だって、俺とグラシアにも呪いがかかっていて、今も解けないってバレたら絶対不安がるもんな。
 
「呪いにかかって女になったら、みんな胸がでっかくなるのかな」
「知らないですよ」
 不意にアリシオ先輩がそう囁いてきて、俺は睨んでしまった。
 確かにベルタンさんの胸もおっきいよな。 
 奥さんよりもおっきいかも。
「ごほん」
 明らかに聞こえるように咳払いが聞こえ、俺は視線を胸から外した。
 恐る恐る振り返るとグラシアとエレナさんがめっちゃ怖い顔している。
「……俺は胸がおっきい方が好みだけど、まあ、女の価値は胸じゃないからな」
 だけど、アリシオ先輩は答えていないらしく、続けざまにそんなことをボヤいて、グラシアから肘鉄を食らっていた。
 本当、アリシオ先輩……。
 ベルタンさんもマロリーさんも、殿下、いやいや、「ギエム先輩」と先に歩いていて、このやり取りが聞こえていないことが救いだ。
 魔獣と遭遇したのは、村はずれの川の近くだった。
「一応ちょっと調べてくるか。ギエム、カミロ、お二人とエレナさんとここで待ってもらってもいいか?魔獣が戻ってくる可能性がないとも言い切れない。グラシアと俺とちょっと見て回る」
「なら、俺も!」
「カミロ。お前は残れ。護衛も大切な役目だ」
「……わかりました」
「すぐ戻ってくるよ」
 アリシオ先輩にそう言われれば従うしかない。
 ギエム先輩、殿下は多分今の俺よりは強いけど、危険な目に遭わせるわけにはいかないからな。
 ここに残ってる方が安全性は高い。
 エレナさんも同じく危険にさらすわけにはいかないし、殿下もエレナさんと一緒にいるほうがいいだろう。
 俺が男に戻っていたら、きっとグラシアがここで残ったんだろうな。
 そうだったら、グラシアはきっと悔しがっただろうな。
「ほら、皆さんお座りください」
 いつの間に、座るのにいい石をみつけ、殿下はすかさずハンカチを敷いていた。
「えっと、あの」
「大丈夫ですから、どうぞ」
 ハンカチめっちゃ高そうだよな。
 ベルタンさんたちが戸惑うのもわかる。
 だけど、殿下はきっとエリナさんに座ってほしいだろうから、ベルタンさんたちに先に座ってもらわないと困るだろう。
「皆さん、どうぞ座ってください。ささっつ」
 突っ立ってるのもなんだから、強引に進めてみたら、やっとベルタンさんたちは座る。
「ほら、エレナさんも」
「あの、私は」
「いいから、ぜひ」
「あのどうぞ」
 エレナさんは戸惑っていたら、ベルタンさんからも進められて、やっと石に腰かけてくれた。
「魔獣が見つかって、早く元に戻れるといいですね」
「はい」
 殿下の問いにはっきり返事したのはベルタンさん。奥さんの方が複雑な表情をしている。
 なんかあるのかな?
「あのマロリーさん。マロリーさん、もしかして、旦那さんに元に戻って欲しくないのですか?」
「……はい」
「どうしてだ?マロリー」
 エレナさんの問いにマロリーさんが頷く。
 ベルタンは驚いて声を上げた。
 
「だって、あなた、男に戻ったらまた私のこと馬鹿にするんでしょ?そんなの耐えられない」
 マロリーさんは両手で顔を覆って嘆く。
「そ、そんな馬鹿になんて」
「してたわ。女はこんなことしかできないとか、なんとか。今は同じ女だし、あなたの方が力が弱いし、何もできないから、そんなこと言わないでしょうけど」
 マロリーさん、相当ストレスが溜まっていたらしく、俺たちの前だけど、内情を暴露し始めた。
 うまくいってなかった夫婦なんだな。 
 結婚って難しい。
「だって、俺は男だし、働くのは当然で力も強いだろ。だから、女であるお前ができないのは当然。だけど、無理やりお前がしようとするから」
「できないってなんで決めつけるのよ。そういうところが嫌いよ」
「嫌い……」
 ベルタンはショックを受けて、俯いてしまった。
「あなたは女性のままがいいわ。そして色々思い知るといいわ。心配しないで私が養ってあげるから」
 マロリーさんはそう言うと石から立ち上がる。
「私は彼が元に戻るのが反対です」
「マロリー!」
 マロリーさんは、そう言って一人で村の方へ歩き出す。
「ちょっと待ってください!」
「カミロ、マロリーさんを追いかけて。ここは私が見ておくから」
「はい」
 殿下にもそう言われて、俺はマロリーさんを追った。
 
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