私、監禁されちゃってるんです!I'm being held captive!
メーデー、メーデー、メーデー、誰か助けてください!できれば、早めに来ていただけると助かります。ヘルプミー。誰でも大丈夫です。ただ、ここから出していただければ。え、ここがどこかって?さぁ、私も知りません。知るわけないでしょう。だって、私はずっと此処に監禁されちゃってるんですから!!!
私の名前はペルセポネっていうの。でも、気に入ってないの。だから、セフィーって呼んでください。かわいくて呼びやすい名前でしょ。フィは、下唇を歯に当ててはじくように言うのがコツ。
年は知りません!だから、何歳にでもなれます。例えば、四つん這いになってバブバブ泣いていれば赤ちゃんにだってなれます。腰を曲げてさすり続ければおばあちゃんにだってね。年なんてわからないほうがいいんです。それに、もしかしたら大人に嘘の年を教えられている可能性もあるでしょ?
ええと、好きなことはお話しすることです。ちょっとだけは話すのは苦手なことです。なぜならたくさん話したくなっちゃうから。それでよく怒られます。だから、少しだけお話するのは苦手なんです。
あ、来た…。
これ以上お話しすると私が助けを求めているのがバレちゃうかもしれません。なのでちょっと黙ります。
「セフィー、飯だ。」
「またいつものどろどろとしたやつ?もっとおいしいものが食べたい!」
「…わがまま言うな。」
「これがわがままっていうんだったら、私もっとちゃんとしたわがままを言ってやるわ。ここから早く出してよ!!!」
「…ッチ。静かにしろ!」
パチンという音が一つ。
その後に続く音は何もなくって、静かな空間ができてしまった。
あ、でも、音がないだけで私のほっぺたはひりひりがどんどん増していくばかりなんだけど。
「あ、す、すまん…。」
そんな風に目をそらさないでよって言ってやりたい。何つらそうな顔してんだか。泣きたいのはこっちなんですけど。
って、あの男、このまずい飯だけ置いて部屋を出てきやがった!私まだ許してませんけどー!?
まったく本当にさ、
「謝るぐらいなら、最初からやんなきゃいいのに。」
そう思っても仕方ないとは思いませんか?
はぁ、こんな感じの毎日が続いているんです。あの“勝手”に謝って、許してもないのに“勝手”に帰った大柄な男は「ノア」って言うんです。名前はノアの箱舟っていうお話に登場する救世主・ノアが由来の名前なんですって。あ、今かっこいいとか思いました?そりゃあ、名前はかっこいいですよ。だってそのノアは大きな船を作って家族と動物たちを救い、そして人類まで救ったってことになるんですから。
でも、あのノアはちがいます!えっと、さっき私をぶった方のノアですよ。あーもう、ややこしいな。で、さっきのノアは全然お話に登場するノアとは違います。まったくもって、かっこよくなんかありません!むしろとんだひどい奴なのです!
なんでかっていうと、あの男は私を監禁しているからです!!!
だから助けてほしいんですよ。できれば、早急に。
どれくらい監禁されているかっていったら…私の年齢がわからないんでわからないんですけど、でもずっと長い間です!だって、年をまだ数えることなんてできない時に此処に連れて来られたからです。だから、私には年齢ってものがなくなっちゃったんです。でも、それはいいって私確か言いましたよね?だって、年齢がわかんなければ何歳にだってなれちゃうから。
…うーん、もしかして私おかしなこと言ってるのかな。だけど、そうやって自分が変身しなきゃ此処での生活は本当に退屈なんですもん。
あの男、監禁するからには色々私に気を遣えって思うんですよ。例えば、おもちゃを置いておくとか、おいしいご飯を用意するとか。そういうのが用意できないんだったら、せめて、私ともっとお話しするとか…。私、ちょっとしか喋れないの苦手なんですよ。だって、本当に此処は退屈だし、ちょっとだけでも喋っちゃったら、満足もできてないのに中途半端に満たされて、もっとお話ししたいって願っちゃって、つらくなっちゃうから。あの男、私がいくら話しかけても必要最低限の話しかしてくれないんです!最低じゃありませんか!?人を監禁しておいて、中途半端に扱って。だから、私言うんです。
ここから出してって。声を大にして言うんです。無視できないぐらい大きな声で。
ちゃんと私のこと見てくれないなら、いっそ早くお母さんのところに返して欲しい。まぁ、お母さんの顔なんて覚えてないんで知りませんけども。でもでも、一目見れば母親ってわかるもんだと思うんです。やっぱ、母と子の絆はたがえるわけがないっていうか。だからこそ、ここを出てお母さんに会ってみたいんだよね。
あ、それだけじゃないよ!えっと、他にもしたいことはあります。
まずは、お母さんに会ってみたいけど、その後にしてみたいことは沢山。
その1:空の色は本当に変わるのか。
私、ずっと地下室に監禁されているので、外の空気は勿論のこと、お空さえ見たことありません。だからこそ、本当に水色から真っ黒に変わっていくのか見てみたいのです。
その2:甘いものを舐めたい。
甘いものといえば、貴重な砂糖しか食べたことがありません。それも一舐めさせてもらっただけ。だから他にも甘いものがあるなら舐めてみたいし、砂糖を沢山舐めてみるっていうのもあり。
その3:友達って人に会ってみたい。
友達って人知っていますか?絵本を私は三冊だけ持っていて、そのどれもに出てくる謎の人物。友達さん。全部に出てくるんだから私も実際に会えそうじゃないですか?会えなくてもいいんですけど、できれば会いたいなっていう願望みたいなものです。
と、いろいろあって此処で監禁されているわけにはいかないはずなんですけど…。
ううん!めげちゃだめだ!
メーデー、メーデー、メーデー、誰か助けてください!できれば、早めに来ていただけると助かります。本当に。ヘルプミー。ええと、誰でも大丈夫です。ただ、ここから出していただければ。こんなに毎日お願いしているんですよ!!!だれか早く私を見つけてくれぇぇぇぇぇ~!!!!!
今私は何処にいると思いますか?
正解は外です。
え?監禁されていたんじゃないかって?あ、はい。されてましたよ。じゃあ、なんで外にいるかって?そんなの逃げ出したにきまってるじゃありませんか~。
はい、というわけで逃げ出しました。どうやって逃げだしたかはちょっと秘密です。長くなっちゃうし、めんどくさいし。でも、別にいいでしょう、どう逃げたかなんて。
だって、私は今自由なんですから!!!
本当に幸せです。ようやく空を見上げるという言葉の意味がわかりました。
でも、空は水色ではありませんでした。
絵本ではあんなにきれいな水色だったのに、見渡す限り灰色の空。それどころじゃありません。
色々と壊れてるっていうか、汚いっていうか。それに人があんまりいないのです。話しかけようと思って近づこうとしたんですけど、明らかに気味が悪くて赤い何かをむしゃむしゃ食べていたんです。
これって本当に人間なのでしょうか?それとも私が監禁されている間に人間ってあんな風になっちゃったんですか?
…なわけないでしょうが!!!って思って気づかれる前に逃げ出したんです。でも、あれが普通なんだったら、ごめんなさいですけど。でも、私悪くないですよ!監禁されていたんですからね。あの男がみんなみーんな悪いんです!
でも、私自由を手に入れて初めてあの男が恋しいと思いました。
監禁されていた時は嫌いだったし、うざかったし、顔も見たくないと思っていました。
だけど、怖くはなかった。
確かに優しくはなかったし、決して居たいと思える場所ではなかったけど、寂しさみたいなのは感じなかったんです。自由って嬉しいし、わくわくするものだけど、同じくらい、怖いし寂しいって思えるものなんですね。…別に、会いたいと思ってるわけじゃないですけど、お別れ言えるなら言いたかったな。そしたら逃げ出せはしないから、絶対に無理だろうけど。
「グ、ル”ァァ……」
「え?」
あっぶなぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!いやいやいや、危機一髪すぎでしょ!!!!!!
メーデー、メーデー、メーデー、誰か助けてぇぇぇぇ!!!本当に、今回は、マジで!!!このままじゃ私死んじゃいます!!!ヘルプミーヘルプミーヘルプミー!!!いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!
てか、なんなんですか、この人たち!!!顔が怖いとかそういうレベルじゃないですよ!!!く、腐ってる?え、人の顔って腐るんですか?そんなことあるんですかぁ!?他にも謎なんですけど、足はそこまで早くないんですね。絶対私より年上であの男並みに体力がありそうな腐ってる人間にも追われましたけど、足遅くない!?私ずっと監禁されてたんだから、体力なんてほとんどないのに、それ以下って人間はどんだけ退化しちゃったんですか!?
「……はぁ、はぁ。と、とはいえど、私も限界…。いくら足遅くてもどんだけ追ってくるのよ。それに逃げてる途中に他の腐ってる人間にも見つかっちゃって追われまくりだs…。」
…あれ。
どうしよ。また、腐ってる人間に見つかっちゃった。でも、あれって。
…目が離せないのはどうしてでしょうか。答えは知っています。ええ、わかってます。でも、言葉にしちゃったら現実を受け入れちゃうことになりそうですね。
「マ、ママ…?」
顔は腐ってる人間たちとほとんど変わらず、原形なんてよくわかりません。というか、わかったところで私の記憶の中にはお母さんの顔なんて薄いぼやがかかっていてわかるはずもありません。
でも、確かに、ママだってわかるんです。あれは、私を生んでくれて、それで短い間だったけど育ててくれて、それで、それで…。
あの手でまた抱きしめてもらえたらって思っちゃって。
あー、私終わりました。
終了です。
これツミってやつですよ。
避ければいいとか思っちゃってます?避けたら私は本当に助かるんでしょうか?だって、私があんなに楽しみにしていた世界がこんな世界だったなんて希望0じゃないですか。
バン!
爆音。え、な、何が起こったの?
「ソフィー!早く立て!」
え、え、え…。と、とにかく立って走らないと!
頭が全然回らない。どういうこと。何が起こったの。
「こっちだ!ついて来い!」
「う、うん!」
その後のことはよく覚えてない。
あの心の底から嫌っていた男に背負われながら逃げて逃げて。とにかく逃げまくった。走ったのはこの男だけだから私が逃げたっていうのはちょっと変な気もするけど。それで腐った人間たちを巻いて、あの監禁されていた場所に戻る。私とこの男の二人だけの帰り道。
さっきまでの怖いとか寂しいとかそういう感情全部なくなっちゃって、今は何とも言えない、満たされた気持ちになってる。お母さんに会えたらそういう気持ちになれると思ってたのに、実際はなれずに、なんでこの男に会えてそんな気持ちになっちゃったんだろう。
…私を守るためだったんなら、早く言えよ。………パパ。
「俺は、その……お前の…。」
「父親。」
「…知ってたのか?」
「別に。適当に言っただけ。」
「そ、そうか…。」
嘘、私とて適当に言ったわけではありません。とはいえ、確証があっていったわけでもありません。
ただ、この人が父親かもって思っちゃっただけです。でも、子が親に対して思う直感って当たりやすいものでしょう?
「さっき私に襲い掛かろうとしていた腐ってたあの人に見覚えあったりする?」
「…さぁな。」
「ねぇ、お願いだからちゃんと話してよ。」
「見覚えは…あったかもしれないが、あれはもう彼奴じゃない。だからいいんだ。」
「あいつってやっぱりあの腐ってる人間はママ?」
「な、なんで、そんなこと知ってるn…」
「私のただの直感。」
ほら、すごいでしょう、私。すごいんです。私。本当に。
顔を覚えていなくても、あの人がママなんだって、ちゃんと、ちゃんと分かったんだから。
「う”ぅ…。っぐす…。ひく、ひく”…。……ママ…。」
大きな父の背中の上で、私はもう会えない人を想って泣くことしかできませんでした。
end.
【作者のコメント】
ペルセポネという女神から連想して書きました。ペルセポネはギリシャ神話に登場する女神で母にデメテルという女神を持ちます。ペルセポネはハデスに誘拐されてそのまま冥界にいることになります。(ここが監禁要素に繋がる)しかし、娘を溺愛していたデメテルは嘆き苦しみ、本来豊穣と大地の女神であるにも関わらず、役目を放棄し、作物は育たなくなり、大地は荒れていきます。(外の世界→ゾンビであふれた世界と母が本来の母ではなくなる感じをモデルに)
父親のノアに関しては後付けで考えたもので、大洪水から家族を守るために宿命に抗った「ノアの箱舟」に登場するノアをモデルに書きました。
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