本日は成人式である。綾人御一行は何を考えているのか会場に向かう前に一度我が家に集合しやがった。なぜそんな余計なことをするのか。どうせ何かしらトラブルを起こすんだろうに。
「綾人っ!!あぶないっ!!」
「うわぁぁあ!?すまんっ旗野っ!!」
「おう」
ほら見ろ、と階段の途中で肩を落とす。台所に飲み物を取りに行きたかっただけなのに足止めをされた。ガヤガヤと旗野くんを心配している声が聞こえる。三郷くんと柳くんの言によると馬子の衣装を褒められて照れた綾人がツンデレを発揮した結果、お祝いのケーキが旗野くんにクリティカルヒットしたんだそうだ。可哀想に。
「凄い騒ぎだけど、どうしたん?」
「あ、兄貴……」
おお、綾人が半べそをかいている。流石にこの日にやらかしたことのデカさはいつものように開き直れないと考えるだけの頭はあったらしい。これを機に落ち着きを身に付けて欲しいものだ。
「あらら、派手にやったね。それお兄さんが選んでくれたスーツでしょ?」
「はい、普段なんも出来ないからこんくらいはって。張り切ってました」
追い討ちどうも。これで東條くんへの借りは返せるだろう。すまんね。俺らが甘やかしたツケを支払わせてばっかで。
「とりあえず、それはうちでクリーニングするから着替えな。俺の貸すから」
「あ、はい。あ、ありがとうございます」
真っ赤になった旗野くんが手招くままに俺の後ろを着いてくる。さて、ここまででなんか変だなと思った読者も多かろう。なんてことは無い。単に最終回を迎えただけのことである。年越し前にはお付き合いをスタートさせているので現在の俺と旗野くんは正式に恋人だ。部屋に招くのも当たり前だろう。
「それにしても派手に汚れたね」
「これ、ちゃんと落ちますか?」
おうちウォッシャブルじゃ無さそうだよなぁとは思う。だが何とかするしかない。今日中に。
かっちりとしたブリティッシュスタイルのスーツがよく似合っている。俺の持ってるスーツで代用が効くだろうか。身長差は縮まらなかったけど体の厚みが違うんだよなぁ。羨ましい逞しさだ。
ぶつぶつ言いながら最近仕立て直したばかりのスーツを取り出す。本当に正装する時にしか着ない三つ揃えのスーツだ。これを身に付けたのは三年前の従姉妹の結婚式か。懐かしい。あのイケメン旦那の幼馴染の結婚式に招待されたからクリーニングに出したんだったわ。何故俺までって話だが。
「とりあえずこれ着てみて」
「わかりました。借ります。えっと」
「あー、はいはい。後ろ向いててあげるから」
唐突に現実が追い付いたのか恥ずかしがる旗野くんを見ないように後ろをむく。おいこら、今は恋人同士じゃねぇか、とか純粋な心を持つ旗野くんに言っても仕方ないことだ。堪えてやろう。
「着替え、終わりました。ど、どうですか?」
「ヤバい……」
似合ってないのかと焦りまくる旗野くんを片手で落ち着かせる。違う。違うのだ。
似合ってるか似合ってないかで言ったら旗野くんのお兄さんの選んだスーツの方が似合っていた。シックなダークグレーのオーダーメイドであろうスーツの方が体にピッタリフィットしていてモデル顔負けの格好よさだった。それは置いといて。
ただ自分の服を着た恋人、の絵面がヤバい。
「動きにくいとか、ない?」
「はい、大丈夫です」
流石に晴れの日には世界も調整を効かせるか。本来なら肩幅は合わず、太腿とか絶対通らないだろうに
なんの違和感も感じさせず、ただ正装をしただけの旗野くんが立っている。
「えっと、あの、大丈夫……ですか?」
「うん、大丈夫、大丈夫だから行ってきな。そろそろ時間でしょ?遅刻しちゃうよ」
何とか表情を取り繕って旗野くんの背中を押す。その後戻ってきた旗野くんの服装を見てわいわいと騒ぎ出した綾人御一行を送り出した。
スーツが癖とか聞いてねぇぞ。いや今まで子供だったやつが大人だと証明するこれ以上ないアイテムだとは思うが。あと数年は私服の大学生だけどこれ大丈夫か?旗野くんが社会人になったら俺死なない?
残されたダークグレーのスーツは責任もって手揉み洗いして丁寧に乾燥させたあとに会場に持ってった。旗野くんのお兄さんのためになんて言い訳だ。
涙を浮かべて喜ぶ旗野くんとお兄さんの仲の良さを見せつけられつつ無心で写真を撮りまくる。
数年後に秘蔵のアルバムを見付けられてアンタって結構むっつりですよねと不名誉な称号を戴くことになるなんて、この時の俺は知る由もない。