喫茶「黄泉戸喫」の徒然
ど田舎の極みのようなこの土地に、喫茶店ができたのはここ最近のこと。
特に客が来るわけでもないのに、店主はのんびりと営業をしている。
最初は物珍しそうに見に来ていた住人も、数度来店したらやがて興味は次に移ったようだった。
かく言う私、高坂杏樹もその1人なのだが。
私の通う学校では、「黄泉戸喫」なる珍妙な名前の喫茶店などとうに話題に出ることも少なくなっていた。
…つい、先週までは。
「ねぇ、アンちゃん」
声をかけてきたのは噂好きの親友、花鈴ちゃん。
「なぁに、かりん。」
「黄泉戸喫ってあるじゃん。あそこに最近イケメンの店員さんが入ったってすごい噂よ。」
「へぇ。今度行ってみる?」
「えへへ、それを狙ってたの!」
悪戯っぽく笑った親友を適当にあしらって、窓の外に視線を移す。
夏休み前のこの季節だし、喫茶店で冷たい飲み物を飲むのも悪くなさそうだ。
イケメンに興味はないけれど、甘いものには興味がある。例えば、喫茶店のプリンには個性が出る