「君はあの橋で消えた」(仮)
────君はあの橋で消えた。
僕が怒らせてしまったから。
─プロローグ
「あ、みなみー!」
遠くから結人の声が聞こえる。
「ゆいとー!おはよ!」
「おはよ!」
いつも通りの通学路。いつも通りの挨拶。これからいつも通りの一日が始まると、そう思っていた。
~第一章 「失踪」~
「え?」
突然だった。結人が「新しい友達ができた」と言った。むろん、親友として喜ぶべきことである。けれど、私たちの間柄ではそうはいかなかった。私たちは二人ともがカースト低位の所謂陰キャというものだった。1学期、クラスのなじめずにいたところで、〈省かれた人間同士〉という奇妙な関係性でつながったのだ。だから今の今までお互いに他の友達を作ることはなかったし、そうすることなどできるはずもなかった。しかし結人が友達になったと言っているのはカースト上位の一軍男子。私のはなぜそうなったのか見当もつかなかった。
「へ、へぇ。よかった、ね。」
我ながらぎこちない返し方をしてしまったと思う。ふと、私の中で黒い気持ちが渦巻いた。「すぐに省かれて私のもとへ戻ってくればいいのに」と。すぐにそういうことを考えてしまう自分が嫌になる。そんななか結人が思い出したように続けた。
「あ、大和くんがみなみも誘っていいって言ってくれてたんだ。みなみも一緒に映画館に行こうよ!」
そのころには私の頭はなぜこんなことになったのかでいっぱいだった。もう結人の声など届いていなかった。
(如何して?)
私の頭はそれしか考えられなくなっていた。それと同時に「なぜ自分は親友の幸せを素直に喜べないのだろう」と自分を殺したいと強く思った。気づけば足は勝手に旧校舎の方を向きスタスタと早足に進んでいった。
「ま、待って!」
結人が叫ぶが、あいにく私の方が運動神経は高い。どんどん邪魔な草や低木、時には岩を飛び越えていく。初めは早歩きくらいだった足取りも今では走るように早くなっている。
「はぁ、はぁ。まっ、て…如何、して……」
彼の最後の力ふりしっぼった言葉も虚しく私には届かない。ようやく私の足が歩みを止めた。そこは〈異次元橋〉の前だった。私たちの学校に伝わる七不思議にはこうある。『旧校舎裏の〈異次元橋〉を渡ると、異次元に行くことができる。』と。しかしその真偽は怪しいものだった。私がどうしてそこに向かったのかは私にもわからない。ただ、その〈異次元橋〉には実際にそれを渡って行方不明になった人がいる。その人は橋を渡る前にこう言ったらしい。「ヨジリ様のお告げなの。あの橋を渡れば幸せになれるのよ?」と。ついた頃には私の行きも上がっていた。
「もう、私は必要ないよね。ありがとう。」
私の口から勝手に言葉が紡がれた。それが私の本心なのか、それともヨジリ様とかいう人物のせいなのか、考える間もなく私の足はさらに前へと進んだ。
ギシ、ギシ、
橋は不安な音を立ててゆっくりと揺れる。私は半ば夢を見ているような気持になりながら橋をわたった。その先に見えるのは────────
~第二章 「異世界?」
その先に見えるのは、私と同じくらいの背丈の人影だった。
「だ、だれ?」
恐怖心を打ち消すために大きな声を出したつもりだったが、実際に出たのは蚊の鳴くような小さい声だった。その人影はゆっくりとこちらへ近づいてくる。今までスムーズに進んでいた足はすくんでしまって動かない。「いやだ、」と首を振るが人影は歩みを止めない。周りの空気が一気に冷たくなる。
「結人……」
咄嗟に出た言葉に自己嫌悪でいっぱいになる。私は結人にひどいことをしてしまったのに。