【ムトイフ】(お饅頭貰った2人)
「イファ、今大丈夫かい?」
診察が一段落つき、患者が来なくなった時分。すこし早いが昼休憩にするか?と背筋を伸ばして立ち上がった瞬間、扉がノックされたかと思うとぬっ、とムトタが入口から覗き込んできた。
「ムトタ?ああ大丈夫だ今閉めようかと思っていた所だったんだ」
丁度良いからCLOSEの看板を出してくれ、と目配せすれば彼はニコッと微笑みこちらの意を汲んでくれた様だ。いそいそと室内に入ってきた彼に目の前の小さな椅子を勧めれば「ありがとう」と座った。
「……今日はどうされましたかー?」
なんて、いつもと違う診察する側とされる側の様な立ち位置になっている状況に、なんとなくそうおどけてみれば、彼はクスッと笑った。
「えーと、お腹が少し痛くって」
「なるほど、うちは竜医なので帰ってください」
「君からフッたのに!?」
「んはは、」
思わず声を出して笑えば、彼は「まったくもう、」と緩く頬を膨らませた。たまにそういうことするんだよな、このヒト。ちょっとずるい。
「それで、何の用だ?」
立ち上がって、背後にあるポットを使って珈琲を2人分淹れつつ彼を見る。手になにか紙袋を持っていたのには最初から気付いていたが、それが何なのかは皆目検討がつかなかった。
「ああ、えっとね……ほら、地脈が強化されてから沢山のナタ人が外国に旅行に行っているだろう?」
「そうだな」
長らく外に出る事が出来なかった分、知らぬ間に鬱憤が溜まっていたのだろう、かなりの人数のナタ人が旅行であったり長期の旅であったりに出国している。……俺もこないだ行ったしな。
「無論花翼の集でも何人かが出ているんだが」
「ああ、何人か親御さん達から旅行の土産話をされたりしたな」
あと、なんかよくわからない置物とかお土産はいくつか貰った。璃月のパイナップルケーキ?とやらが美味しかった。木彫りの熊の置物はオロルンにやった。
「それでね、稲妻のお土産を貰ったんだ。饅頭というらしい」
「まんじゅう」
「小麦粉と卵なんかの生地に、甘い豆の餡を入れて蒸し上げたお菓子らしいね」
「ケーキってことか?」
「どちらかというと、タマレスじゃない?」
「あー……なるほど?」
あれ美味いよな、と珈琲の入ったカップを手渡しながら椅子に座り1口啜り、彼がガサガサと取り出した白い箱を見る。黄色い……なんだ?これ。
「なんだその、子供の落書きしたカクークみたいな黄色いやつ」
「ええと、多分ヒヨコ」
「ひよこ」
「ひよこ饅頭、って渡されたから……」
【マジかよきょうだい!】
ひよこらしい、と言われた潰れたイラストの書かれた箱を手にして見ていると横からカクークが覗き込んできて箱をつつく。どうやら俺が彼の名を引き合いに出したのが気に食わなかったらしい。
「ああ、悪い悪い、そうだなお前はもーっと可愛いし丸いもんな」
【その通りだぜきょうだい!】
「それでいいんだ」
軽く頭を撫でながら褒めてやるとカクークは満足そうにふん、と鼻を鳴らしてから俺の膝に置かれた箱を押し潰すように鎮座してきた。
「にしても、ひよこ饅頭って事は……えっ、ひよこ肉が入って……?璃月の肉まんみたいな?」
「違う違う!違う……はず、だよね?お菓子って言ってたし……」
そう言って箱の裏にある原材料名などが書いてある辺りをマジマジとムトタは見ていたが、数秒してフッと微笑みながらこちらに箱を手渡してきた。まあ読めないわなアンタは。どれどれ、と同じように見ては見るが俺だって稲妻語はあまり分からない。辛うじて読める部分だってなんの参考にもならなかった。
「……まあ、食えば分かるだろ」
「ひよこが使われてるんだったらちょっと嫌だなぁ」
「気持ち的にはそうだな」
流石に違うとは思うが、と箱の中に並んでいる小さな白い包みを取り出してムトタに手渡す。自分の分も取り出して箱は近くの机に置いた。
「変わった包みだな、紙のような布のような…」
「こんなので品質とか大丈夫なんだろうか」
「早めに食べる方がいいのかも」
「腐ってたらどうしよう、気候も違うし」
なんて、得体の知れないモノに対しておっかなびっくりになりつつなごやかに話す。ぺりっと包みを剥がすと焦げているのかと少し不安になるような色の皮に包まれた、つるっとした感じもある不思議な質感のぽっちりとした焼き菓子が出てきた。見た目がひよこの形をしていてなんとも可愛らしい。
「なるほど、見た目がひよこなのか」
「可愛いねコレ」
「……なあ、ちょっと、こう……」
「?」
ふと思い付いて、ムトタの手の中のひよこを完璧に包みから出してから、両手で水をすくうかのような格好にさせてから手の中にそれを乗せた。
でっかい手に、ちんまりとしたなんとも可愛らしい見目のひよこ饅頭が収まった。
「ん、ふふ、可愛い」
「??」
なにがだろう、と言った顔をしつつも微笑む彼が可愛くて仕方ない。なんでこう、でかい男が可愛いものを手にしている様というのは可愛らしく感じるのだろう。よく分かっていなさそうだったので、 自分も同じようにして、ほら可愛いだろ?と見せてやれば彼は一瞬目をぱちくりとさせてからフフッと笑った。
「なるほど、可愛いね」
「……だろ、」
自分でやったことだったが、勢いと思いつきとは恐ろしいもので、なんだか気恥ずかしくなってきた。自分の事も彼は可愛いと思ってくれるはずだ、なんて自惚れが過ぎる。そしてそんな俺を理解されているって事実も恥ずかしい。
「……んん、ほらいいから食おう」
「君から始めたんじゃないか」
「うるさいな」
むっ、と理不尽に怒ってみせてからひよこ饅頭を指でつまみあげる。見れば見るほどなんとも可愛らしいつるんとした流線型のフォルムだと思う。
「……」
食べる、とは言ったが。
「ちょっとかじりにくいな……」
「同意するよ、なんというか食べづらい」
「可愛いんだよな、見た目が」
「可哀想に感じるよね」
この可愛い物体を無情に咀嚼するのは気が引けるな……と大の大人が2人揃ってしり込みしていると、膝上のカクークがやれやれ、とため息をついた。
この数秒後、俺たちがあまりにも「可愛い」と連呼していたせいかカクークが急にキレて俺とムトタの手の中にあるひよこ饅頭の首を、2つとももぎ取ってくるのだった。
(ヤマもオチもないが終わり)
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