─ある里ではこんな噂が流れていた。
慈愛ノ魔女と呼ばれる女には見つかると殺される、という少々物騒な噂が。
本人は気にしていないが、噂が出回る程有名になってしまった事に喜んでしまっている。
「ふふ、ねぇ理霧?噂が流れてるんですって」
「ん、噂ァ?どんなの〜?」
薄い紫色の垂れた瞳をとろけさせ、ニヤリと笑う少女は深海の様に深く蒼い瞳の少女の肩に頭を乗せ、話を取り敢えずは聞いてみる事にした。
「それがですね、僕に会った人は殺されてしまうという物騒な噂なんです。酷くないですか?こんなか弱い女の子なのに、しくしく」
「....うわ、嘘泣きうっざ。ン〜、まァ?確かに酷いけどさぁ〜、絶対そう思ってねぇだろ和月ぃ?寧ろすげぇ喜んでんじゃん。ちょっとご機嫌さん?」
和月と呼ばれた蒼い瞳の少女はわざとらしい嘘泣きの演技を辞め、クスゞと笑いだす。
「.....ふふ、はい。まさかもう人間の間でこんなにも有名になるとは思いませんでしたから。理霧はどうですか?何か噂とかは?」
「んぇ、アタシぃ〜?ん〜っとねぇ.....無いよぉ〜?ま、アタシは和月と違って夜に動くからねぇ」
甘い笑顔は第三者から見ればとてつもなく怖い顔に見えただろう、だが和月にはとても可愛らしい顔に見えている。
「そうでしたね、僕よりもアクティブなのに活動は深夜帯ですから。噂にならないのも納得します」
うんゞと貼り付けた作り笑いを浮かべてそう言った和月が少し気に入らないのかふてくされている理霧。
のしっ、と和月の頭の上に自分の頭を乗せて拗ねてしまった。それをすぐに理解した和月は黙っている。下手に刺激さえしなければこの片割れは機嫌を損ねても何もしてこない。そう、″刺激さえしなければ″。
「...........なつきぃ〜?なぁに考えてんの〜?」
ぐい、と和月の頬を思いっきり引っ張る。
「.....いひゃいれす、りう」
特に動揺もせずに淡々と話す和月にイラッとしたのか思いっきりつねってみる。
「....い″っ!ちょっと、人の顔をつねらないで下さい!あぁ、もうこんなに赤くなって.......」
理霧の手を振り払い、ヒリゞとするこの赤い頬は冷やさないといけない。少し腫れてしまった様だ。
「.......つまんねぇ」
しゅん、とした表情をして和月の部屋から理霧は出て行ってしまう。
「えっ、あっ、りむっ....あぁもう。....ちゃんと帰って来てくださいね」
どうやら自分のせいで機嫌を更に下げてしまった様だ、今追えば意味は無い。こうなってしまったら時間を置いて、屋敷に戻らなければ探すしか方法は無い。
一方、屋敷の外に出て森の奥へと歩いて居る理霧...もとい、柘榴は考えていた。
「......構ってくれない胡蝶花が悪い、けど。アタシも悪かったよなぁ.....んー....もうちょっと、頭冷やそ...多分今帰ったら喧嘩しちゃう」
今は喧嘩をしたくない気分だ、 だからなのか彼女は自分の頭を冷やそうとしていた。
そのせいで″警戒が薄れていた″事に気付かずに。
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「...........帰ってきませんね、大丈夫でしょうか...?...いえ、あの子はとても強い。大丈夫だと思いたい」
5時間経過しても片割れは戻ってくる気配は無い。何かあったのではと少し心配になるが、心配する程弱くないという事を思い出したが...それでも心配なので探しに行こうと玄関のドアを開けたその時だ。
薄い紫色の蝶々が和月(胡蝶花)に飛び込んで来たのだ。他に気配が無い事を確認して、彼女はドアを閉めて急いで自分の部屋へと走って行った。
「......一体何が....」
とても心配そうに蝶々を見る。蝶々状態による怪我は無い、となれば人型状態で何か怪我をしている可能性が高い。
「........大丈夫ですよ理霧。....僕が治してあげますから」
にこりと和月は微笑みながら、優しくそう言うのであった。