学園長室に呼び出された。
理由はわかっている。大いに。がしかしイデアは特段反省の色を見せることなく「あー、ハイ、サセン」と耳の穴をほじくりつつ、姿勢も普段通り悪いままでへいへいほいほい。ただ相槌を打ち、時間が過ぎ去るのを待っている。
可哀想なのは監督生の方だ。
律儀に時間通りに学園長室にやってきて、またなにか頼まれるのだろうかと身構えていたら「あなたねえ」と厳重注意が始まった。
男子校の所謂紅一点。イデアと交際する以前にも「節度を保ち、不純異性交友などもってのほかですよ」と釘をめった打ちされていたのだ。
にも関わらず、これである。
名目上「勉強会」なんの勉強をしているのかというのはほにゃらら。もちろん一般的に言う勉強もしている。
そして健全な若い男女の探究心もきちんと学んでいるという……
イデアがノコノコやってきたのは学園長が監督生を「なにかあってからでは遅いんですよ」と至極当然のお叱りを与えたあたりのことだった。
顔を真っ赤にして「はい。ごめんなさい」と縮こまっている監督生を見て、イデアはあーこれはもっと早く来るべきだったな。と頰をかいて隣に立ち、監督生を少し庇うような位置取りで受け流しをスタートさせたというわけだ。
「シュラウドくん反省していませんね?」
学園長の声が低くなる。しかしイデアはまったく怯むことなく「してますが?」とこのだるい時間早く終われー。という態度を崩すことなく言い放った。
「私もこの手だけは使いたくなかったんですけどねぇ……仕方がありません。どうぞお入りください」
学園長室の扉が開いて入ってきた人物に息を飲むどころか唾が気管に入り咽せ込んでいるイデアを他所に、その人物は「もうイデくんったら〜」とイデアの隣に立つなり「だめでしょ」とお尻ぺんぺんしちゃうからねっ! のポーズを取った。
地獄だ。瞬時に理解したが、まだホログラムかもしれない。早く消そう。手を伸ばしたイデアは余計に絶望した。本体だった。激務かつ海底からノコノコやって来たんか……白目を剥きつつ「お、お帰りはあちらになりまーす」と小さな声で扉を差すも、もちろん「ばいばーい」と帰っていってくれるわけはない。
親を召喚するなんて、本当に最悪。有り得ないだろ。
学園長を睨むが相手は涼しい顔をして微笑んでいる。
「学生の半分は勉学です。シュラウドくんは学業においては秀でておりますが、まだまだ若く未熟な部分も多いでしょう。私は心配しているんですよ。彼女の後見人でもありますしねぇ」
意訳。面倒なことになった時に誰が責任を取ると思っているんですか? ということを理解したが、後見人というほど監督生のことを庇護しているようには見えない。そもそも魔力もない異世界からやって来たか弱い女子を魔獣とセットで学園に通わせ、セキュリティーガバガバのボロ屋敷にぶち込んでいるろくでもない大人だ、そんなやつの言葉になんの責任があるというのか。
イデアは髪を赤く染め「責任?」と低い声を出した。
親召喚というとんでもカードを切られて怯んだのは事実だが、こんなことで引き下がるわけにはいかない。
「言っておくけど監督生氏は僕と付き合い始めてから座学の試験では高成績納めてますし、恋愛にうつつを抜かせて評価下がっているならまだしも、とやかく言われる筋合いはないんだけど」
これは紛うことなく事実で、監督生は下から数えた方が早かった順位が、今では上から数えた方が早いくらいのところまで上り詰めていたのだ。
イデアが学園長を詰め始めたあたりで、イデアの母親は監督生にこそこそ近づいて「イデくんと仲良くしてくれてありがと」と声をかけていた。
夢の世界で会っただけで、実際に顔を合わせるのは初めてのことで、監督生は畏まった口調で頭を下げ「イデア先輩とお付き合いさせていただいてます」というやり取りがされていた。
「以上。反論の余地はないですよね? もうこれ以上この件に口出してくるなら、学園のセキュリティやらなんやらと押し付けてくる雑務、僕はやらない」
「そそそそ、そんな、待ってくださいよぉ。私は本当に心配して、そ、それにですねぇ、私にも立場というというものがあるんですよぉ」
「なにを心配してるのかは察するけどさ、それがそもそもプライバシーを侵害してるし、ハラスメントだと思うんだけど」
「は、ハラスメント⁈ ふ、不純異性交遊はよくないですよってそういう話ですからね!」
「僕たちは勉強会しかしてないから。きちんと外泊届けを出してるし、悪いことなんて一つもしてない」
「そ、そんなのわからないでしょう」
「わからないことで文句つけて来てるってこと?」
屁理屈で丸め込んだところは大いにあるが、学園長はそれ以上言葉が出て来なかったし、学園のセキュリティ関連の雑務を放棄されたら困る。
ということで「わかりました」と絞り出すように敗北を認めた。
イデアとしてももちろん学園長の言うように勉強と関係のないことを便宜上勉強会として、都合よく使っているのはよくないことは理解している。
お泊まりの頻度を減らすべきなのだろうなと納得しかかったけれど「後見人面」し始めたのがカンに触ったのだ。
大人としての責任を語るならもう少しこの子のためになることをしてあげたらいいだろう。
便利な言葉として「後見人」などと使い出したことが許しがたかった。ならばこちらも分別のつく成人済み男性として反論したっていいはずだ。
「イデくんはユウちゃんと片時も離れたくないのね〜。わかるわ。ママも」
「そういうの今やめてもらえません?」