DMUTOYS島にかつてあったとされる、伝説の『アジト』。
その跡地と呼ばれる街の一角に、魔女が営むパン屋があった。
魔女の名前は『メアリー・スー』。
時として『白黒魔女』とも呼ばれる彼女は、魔王としての才覚を持ちながらも、その強大にして恐るべき魔力を、ただひたすら【パンを焼くこと】に費やし続けていた―――。
「メアリー様、メアリー様、パンが焼き上がりましたよ!」
太陽が、ゆっくりと空から起き上がってくる頃。
お手伝い妖精の可愛らしい声に揺り起こされて、メアリーはその長い睫毛をゆっくりと上げた。
「んん……」
「おはようございます、メアリー様!」
お手伝い妖精の中でも一番の古株、マロカンは明るく主人に声をかける。
「今日も美味しそうに焼けています。たくさん焼けたので、運び込みの指示をお願いします!」
「ぅ、ぅうん……わかった、今行くわ……」
メアリーは眠たげな欠伸をしながらも、ゆっくりと身体を起こす。
彼女がベッドから起き上がると、長い黒髪―――内側からは白に見える―――が、さらりと布の上に広がった。
細い指をひと振りすれば、服装があっという間に寝巻きから普段着用のドレスへと着替わった。
「私の朝食用に、ひとつ取っておいてね」
「もちろんです!」
主人の言葉に、マロカンは当然だと言わんばかりに胸を張った。
***
メアリーが営むパン屋『虹之夢』は、アジト跡地の商店街の一角にある。
最近工房に建て替えたばかりの店舗の裏には、ざっと数百機の石窯が並べられていた。
「うん、今日も良い焼き加減ね」
焼き上がったパンたちが倉庫に次々と運び込まれていく様子を眺めながら、メアリーは満足そうに呟いた。
店の看板商品である『ピアノパン』は、近隣住民だけではなく、街の内外のオーナーからの評判もいい。
定期的に焼き上げては安値で卸し売りし、あちこちでピアノパンが売られているのを見るのが、メアリーの密かな楽しみだった。
「この後の妖精たちの作業予定は?」
「はい、『虹之夢ノ物語』の執筆に移ります!」
マロカンの言葉通り、お手伝い妖精たちが、焼き上がったピアノパンの一部と、大量の紙束を持って、いそいそと作業部屋に入っていくのが見えた。
「そう。なら次の作業は……」
メアリーがそう言いかけた瞬間、どこからか、小さく腹の虫が聞こえた。
マロカンがはっとしたようにお腹を押さえたのを見て、メアリーは小さく微笑む。
「……まずは朝ごはんにしましょうか」
「はっ、はいぃ……!」
MUTOYS島のお手伝い妖精たちは、皆、店のオーナーに雇われ暮らしている。
妖精たちの中でも比較的勤勉で真面目な彼らは、仕事をサボることはほとんどない。それも、オーナーがきちんと面倒を見ていればの話だが。
『虹之夢』におけるお手伝い妖精の扱いは、他の優良店舗にも負けじ劣らずの好待遇だ。衣食住の保証はもちろんのこと、休憩や休暇もしっかりと貰える。
更にメアリーから特別に認められば、他の妖精とは異なる『衣装』が貰えることになっている。
衣装は虹の七色になぞらえて用意されており、一番の古株かつ、メアリーの右腕的存在であり、お手伝い妖精たちのリーダーでもあるマロカンは、赤いワンピースを仕立ててもらっていた。
「メアリー様、朝ごはんの支度ができました!」
「ありがとう」
食事を用意してくれた妖精にそうお礼を言ってから、メアリーは食卓につく。
テーブルには、先程焼きあがったばかりのピアノパンと、先日仕入れたハーブティー、野菜サラダ。
それから、ドールサイズのテーブルと椅子が、7揃いずつ並べられている。
「マロカン、みんなを呼んでもらえる?」
「はい!」
マロカンは、首から下げたホイッスルを勢い良く吹いた。
「『ナナイロ』のみんなー!!朝ごはんだよー!!」
マロカンの呼び声にあわせて、あちこちから、他の妖精とは異なる衣装を着た妖精が飛んでくる。
「おはようございます、メアリー様」
「お体はどうですか?無理されてませんか」
「おっ、美味しそうな野菜サラダ!」
「良い香りですね~」
「わあ、ピアノパン焼きたてだぁ!」
「ほんとだ、やったぁ!」
妖精たちは口々にそう言いながら、ドールサイズの食卓につく。
「みんな揃ったわね」
虹の七色を模した衣装の妖精たちを見回してから、メアリーはにっこりと微笑んだ。
「それではみんな、朝ごはんにしましょう。いただきます」
「「いただきまーす!」」
妖精たちのために用意されたドールサイズの食器には、メアリーが手ずから料理を取り分ける。そうしてから、彼女は自分の分の食事を摂り始めた。
まずは、焼きたてのピアノパンを口に運ぶ。
鍵盤の部分を一口かじると、香ばしい小麦と甘いミルクの風味が、一気に口の中に広がる。それと同時に、軽やかな音色がパンから奏でられた。
「うん……美味しいし、素敵な音色。良い出来だわ」
メアリーは満足そうに微笑んだ。
「美味しい~!」
「メアリー様のパン、大好きです!」
妖精たちからも、評判は上々だ。
けれど―――
「ピアノパンの評判がいいのは、有難いことなんだけど……」
「どうかなさったんですか?」
青い服を着た妖精に心配そうに訊ねられ、メアリーは困ったように微笑んだ。
「新しいレシピの構想が浮かばなくてね。三つ目のレシピが、なんだかしっくり来なくて」
「最近、色々作ったり、破棄したりしてますもんね」
MUTOYS島では、店のオーナーが手ずから商品のレシピを作り出し、販売することができる。
『虹之夢』における『ピアノパン』もその一つだ。王国に申請して、レシピ登録金を支払えば、誰でもレシピを作れるのだが……。
「今まで色々作ってきたけど、やっぱりパンが焼きたいのよねえ、私は」
会話の合間にパンを咀嚼しながら、メアリーはうーん、と唸った。
「でも、どんなパンがいいのか、全然浮かばなくて……どうしたものかしらね」
「それは……困りましたねえ」
主人の困った様子に、妖精たちも顔を見合わせている。
マロカンも心配そうに主人を見上げていたが、やがてあっと思いついたように、
「メアリー様、気晴らしにアジト跡地を散歩されるのはいかがでしょう?他のお店を見ているうちに、良いアイデアが浮かぶかもしれませんよ!」
マロカンの提案に、メアリーは「そうね」と微笑んだ。
「それは良いかもしれないわ。朝ご飯を食べ終わって、今日の予定を確認したら、少し散歩にいきましょうか。マロカン、付き合ってくれる?」
「わかりました!」
朝食を終え、妖精たちに指示を出し終えてから、一人と一匹は、ふらりと散歩に出ることにした。
***
メアリーとマロカンが外出の支度を整え、店の外へ出た、その時だった。
「おや、メアリーさん~、と、マロカンさんも」
ちょうど通りがかった人物に声をかけられ、メアリーとマロカンは同時に「あっ」と声を上げる。
「ヒルデ様」
「ヒルデ様だ~!」
魔王ヒルデ―――アジト跡地のみならず、MUTOYS島に住む者なら一度は名を見たことがあるだろうという、名の知れた人物だ。
メアリーは慌ててドレスの片裾を持ち上げ、深々とお辞儀した。
「ご無沙汰しております……日頃からご愛顧いただいて、恐縮の限りです」
「そんな固くならなくていいですってば~」
メアリーの恐縮した態度とは真逆に、ヒルデは柔らかい雰囲気を醸し出している。
「ですが、こちらはヒルデ様が開発された地に店を構えている身ですし……」
「そんなこと言ったら、みんな私とか他の方に恐縮しないといけないじゃないですか~」
ヒルデはふわふわと笑いながら、マロカンに穏やかな笑顔を向ける。
「ねえ~マロカンさん?」
「いやあ、メアリー様は真面目な方なので……」
「ふふふ、それは知ってますけどねえ」
そう言って、ヒルデはまた柔らかく微笑んだ。
アジト跡地―――。
失われた伝説の『アジト』の跡は、かつては人の通る道もほとんどない、荒れ果てた未開の地だったという。
そこを開拓し、整え、様々な資源が溢れる『知る人ぞ知る名所』としたのは、この地に商機を見出した『商人』たちだった。
彼らの名は今でもその開拓された地に残り続け、その開発の歴史を、時折思い出させてくれる。
そしてその当時、まさに各地の開発を行っていた商人のうちの一人が、ヒルデである。
同じパン屋を営んでいる、かつ『魔王』と呼ばれる存在の中では大先輩ということもあり、メアリーはヒルデのことを、ちょっと大袈裟なまでに尊敬していた。
そしてマロカンはというと、普段あまり人前に出ないメアリーに代わり、他の店のオーナーとよく交流を持っていた関係で、日頃からヒルデともよく会話していたのだった。
「それにしてもヒルデ様、アジト跡地に戻られていたんですね!」
ヒルデの周りを嬉しそうに飛び回りながら、マロカンは明るい声で言う。
「しばらく宝石掘りの旅に出られると聞いていたので、いつ帰ってくるのかなーと思ってたんです!」
「ふふふ、実はつい今日戻ってきたばかりなのです~」
ヒルデはマロカンを目で追いながら、にこにことそう言った。
「せっかくなので、これから『秘密基地』に顔を出しにいこうかと。良かったらおふたりもご一緒にどうでしょ~?」
「あっ、私はいきたいです!……が……」
「あの、メアリー様、どうされます?」
「……せっかくのヒルデ様じきじきのお誘いだし……」
「あの、無理されなくても大丈夫ですからね?」
「いえ、行きます!行かせてください!」
「なんだか、すごい気合いの入りよう……」
「ヒルデ様の前だから、余計ですねえ」
「人見知りなんですから、ご無理なさらないでくださいね?しんどかったらすぐ出ましょう~」
「え、ええ……」
「次のレシピを考えていて」
すああま爆発の話を聞く
「……」
カット
Latest / 75:49
カットモードOFF
17:26
まめせか
来たわよ
チャットコメント
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
好きなアプリゲームの二次創作やる
初公開日: 2025年05月03日
最終更新日: 2025年05月03日
ブックマーク
スキ!
コメント
リハビリと気晴らしがてら配信します
▽ゲーム紹介
https://mutoys.com/so2
▽二次創作に関する規約
https://so2-bbs.mutoys.com/t/topic/617
20260905芋
芋を1時間くらいで書く練習
みらい
モブまか+窃視いぶ鬼くん
モブ×魔界之からのいぶ鬼×魔界之になる予定前半は出歯亀パート
石田