ネグザルツは自身の出自を知らない。明確な自意識が発生したのは、レーヴァテインによって名と力を与えられたとき。それ以前の自身を、ネグザルツは知らない。故にネグザルツにとって、レーヴァテインに救われ、その氏族(クラン)として迎えられたネグザルツにとって、機動要塞エクソダス内のこの場所こそが「家(ホーム)」だった。
しかし今、ここに帰ってきたネグザルツにとってこの場所は敵の本拠地であり、ネグザルツは招かれざる客なのだ。
培養槽(ヴァット)の中に身を沈めたネグザルツの機体は徐々に修復され、破損箇所も生体金属で覆われつつある。しかし、身体感覚が戻らない。機体が重い。今までその身に受けてきたどんな攻撃よりも重い、郷愁という重圧(プレッシャー)が、ネグザルツを培養槽(ヴァット)の底に押し付けていた。
回復していたはずの思考域の輪郭がぼやけ始める。強烈な従属意識にも似た幻惑感。ここにいたい。己の「家(ホーム)」たるここにいたい。
――太陽剣を抜刀(アクティベート)しなければ、ネグザルツはそのまま培養槽(ヴァット)の底に沈んでいただろう。
抜き放った光刃で、未練を斬り捨てる。
そうだ。ここに留まることなどできない。
すでに数々の同胞を、師をこの刃で斬り伏せてきた。ならばこの刃、もはや納めることなどできはしない。
縦横に疾(はし)った太陽剣が、並ぶ培養槽(ヴァット)を、壁を、床を斬り刻む。崩落する生産プラントの中を、ネグザルツはさらに太陽剣を突きの型に構え突貫。一直線にエクソダスの中央(セントラル)エリアを目指す。
分厚い装甲壁を続けざまに貫通し貫通し貫通し――不意にネグザルツは広大な空間に飛び出した。格子状の構造物が網の目のように張り巡らされたその空間には、感覚機(センサー)での認識が困難なほどの巨大な熱量を持った光球。機動要塞エクソダスの動力コアだ。このコアに太陽剣によって膨大なエネルギーを注入して暴走状態を引き起こせば、エクソダス全体が崩壊するはずだ。
ネグザルツは動力コアに向かって太陽剣を――瞬間、警告(アラート)!
数瞬前までは確かになにも知覚されていなかったその空間に、熱光学的に欺瞞された大量の爆雷が配置されている。罠だ!
周囲を取り囲んだ爆雷が一斉起爆するのと拡散太陽剣の発動はほぼ同時。全方位から押し寄せる熱量と破片を押し返す。
しかし、それすらも目くらましだった。爆雷の集中攻撃をしのいだときには、すでにネグザルツの三方を爆雷の爆発に紛れていた高熱源体が囲んでいた。
パープリティアス・マルーン。
三位一体の奇異な形態を持ち、敵を取り囲んで逃げ場を奪う「デルタアタック」を得意とするパープリティアス属である。
完全同期した粒子弾の一斉射がネグザルツを襲う。ネグザルツの回避機動に合わせ、三体のマルーンは目まぐるしく位置を変えてその逃げ場を奪おうとする。さらには移動と同時に爆雷を配置し、誘爆すらも辞さない近接爆破でネグザルツを包囲してきた。
対するネグザルツは各個撃破によって包囲網を破ろうとするが、間断なく撃ち込まれる粒子弾と連続爆破の影響で感覚機(センサー)による補足が十分にできない。敵を確実に補足できない状態で攻撃を仕掛けても、逆に隙を晒すだけだ。